グローバルで展開するCDAプログラムに基づき、インフラ、教育、医療など6つの注力テーマを掲げる
シスコ、日本政府とも連携し“社会のデジタル化”支援を加速
2021年02月15日 07時00分更新
シスコシステムズは2021年2月12日、日本の本格的なデジタル化促進や「Society 5.0」ビジョン実現、新型コロナウイルス感染拡大からの包摂的な(インクルーシブな)回復を支援する協業の枠組みを加速すると発表した。同社がおよそ40カ国で進める「Country Digitalization Acceleration(CDA)」プログラムに基づき、日本政府や教育機関、民間企業などと連携しながら展開する。
同日の説明会には、今年1月に日本法人 社長に就任した中川いち朗氏、日本法人 会長の鈴木和洋氏、グローバルのCDAプログラム担当者であるガイ・ディードリック氏が登壇し、CDAプログラムの概要や日本における重点テーマ、すでに取り組みを始めているプロジェクト事例を紹介した。さらに日本政府のデジタル改革担当大臣である平井卓也氏が、ビデオメッセージでシスコとの提携に対する期待を述べた。
“国のデジタル化”促すシスコのCDAプログラムと日本の重点テーマ
説明会の冒頭、中川氏は「本日はシスコジャパンにとって、日本のデジタル化へのコミットメントを表明する重要な場」だと述べたうえで、シスコがグローバルで展開するCDAプログラムを紹介した。
CDAは、シスコが各国の政府、教育機関、民間企業との協業を通じてデジタル化推進を支援し、国・社会の課題解決や経済成長に貢献することを目的とするプログラムである。すでにおよそ40カ国で、900を超えるプログラムを展開しているという。
グローバルでCDAを推進してきたディードリック氏は、グローバル共通の大テーマとして「GDP成長(経済成長)」「雇用創出」「イノベーションのエコシステムづくり」「包摂的な未来の実現」という4つを掲げていると語る。これに基づき、各国が掲げる成長戦略への貢献、新産業創出や人材開発の支援、イノベーション エコシステムへの投資といった活動を展開するが、より具体的な重点テーマは、各国の現状と抱える課題に応じて設定される。
鈴木氏によると、日本における重点テーマとしては、Society 5.0ビジョンや菅内閣の示す政策方針に沿って次の6つを設定している。
(1)安全安心な公共インフラ (2)教育のデジタル化 (3)テレワークの推進と高度化
(4)新型コロナ対策・遠隔医療 (5)サプライチェーン対策 (6)規制改革とデジタル社会
これら6つと、その基盤となる5Gインフラストラクチャの提供を通じて、「ニューノーマル下における日本のデジタル化を支援し、日本の持続的な経済成長と安心・安全な社会実現に貢献」することが、シスコが日本のCDAで掲げるビジョンとなっている。
すでに国内で展開中のデジタライゼーションプロジェクトを紹介
これらのテーマに基づき国内で進行中のプロジェクトも、すでに数多くある。鈴木氏はそのいくつかを紹介した。たとえば「安全安心な公共インフラ」については、アラクサラ、NECとの協業に基づき日本向け独自ソリューションを構築し、社会重要インフラ向けに提供していくことを1月に発表している。
また「教育のデジタル化」では、「ギガスクール構想」が掲げる「1人1台端末」時代に備えた安定/安全/安心な大容量ネットワークインフラ、オンライン授業を支援するコミュニケーションツール、個人情報の情報漏洩を防ぐセキュリティソリューションの提供を行っている。さらに、教育機関(および政府自治体)におけるネットワーク/セキュリティ人材育成を支援する目的で、Eラーニングプログラム「ネットワーキングアカデミー」を提供しており、日本でも161の教育機関が参加、累計で7万人が受講していると紹介した。
「新型コロナ対策・遠隔医療」については、新型コロナ環境下で人の接触や移動が難しくなる中で医療機関と取り組む、複数のプロジェクトを紹介した。たとえば愛媛県のHITO病院では、発熱者の外来時に医師との遠隔問診を行うため、Webexがインストールされたタブレット端末やWebex専用端末を活用している。また前橋赤十字病院では、県外からの医師の来院が難しくなったために、Webexを使ったリモートコミュニケーションを図っているという。
「規制改革とデジタル社会」では、スポーツビジネスにおけるデジタル活用支援を進めている。オンラインでの試合観戦だけでなく、Webexを使った選手とファンとのコミュニケーションサービスなども実証プロジェクトを展開している。
またすべての基盤となる5Gインフラに関しては、総務省とNTT東日本、新潟県が進めるローカル5Gの実証実験において、シスコの5Gモバイルコア製品を利用して、高精細カメラによる遠隔会議システムや3D VRによる遠隔協調作業システムなど、5Gの高いパフォーマンスを生かしたシステムを構築していると紹介した。
「1960年代、70年代における日本の高度成長期は、新幹線や首都高速道路といった新しい社会インフラが支えた。これから来る新しい世界、ニューノーマルの中で日本が持続的に成長するためには、また新しい社会インフラが必要になる。日本の優れた技術によるハードウェア、道路や橋、建物といったものに『デジタルを組み入れた』新しいインフラでなければならないと考える。日本のパートナーとも協調しながら、シスコはそうした新しい社会インフラの提供に貢献していきたい」(鈴木氏)
「出遅れていることをアドバンテージに」デジタル改革担当大臣・平井氏
なお同説明会では、デジタル改革担当大臣の平井氏からのビデオメッセージも披露された。ディードリック氏は今月、日本のデジタライゼーション支援について平井氏と会談したという。
平井氏は、人材育成やセキュリティ、産業/行政/教育/医療のデジタル化といったシスコがCDAで取り組むプロジェクトの方向性は「まさにわれわれデジタル庁が目指すもの」だと語る。またコロナ禍での経験を通じて、次に日本社会が目指すべきものが見えてきたと述べ、周期的に発生しうる感染症パンデミックに対応するレジリエントな(復元性のある)社会像、人の接触や移動が制限される中でも成長できる経済モデルとは何かを模索していく必要があるとした。
社会のデジタル化、デジタイゼーションについては、「日本には優良なインフラやテクノロジーがないわけではないが、エンドトゥエンドで価値を生むようなデジタル化、つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)の進捗度合いを他国と比べると、進んでいないと認めなければならない」と指摘。ただし、DX実現のためのリソースは有しており、マインドセットを変えて一気に進めることができれば、「デジタル庁がDXの司令塔になり、経済成長の推進役にもなる」「(DXで)出遅れていることをアドバンテージとして、そのアドバンテージを最大化するために、いろんな問題を解決していきたい」と述べた。
また平井氏は、今回のDX推進で一番見直さなければならないのは「UI、サプライサイドの問題」であり、従来はここが「国民にとって不親切だったと思う」と語る。今後は誰もがデジタル化の恩恵を享受できるものにするアクセシビリティの改善を目指すと述べたうえで、CDAを通じてグローバルな支援の経験を持つシスコには、「(グローバルな知見の)情報共有と、プロジェクトごとのコラボレーションを期待している」とした。