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現在は44カ国で展開、国ごとに異なるデジタルアジェンダの実行を支援する取り組みを責任者に聞く

シスコが各国のデジタル政策を支援する「CDA」に取り組む理由

2022年05月09日 08時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 「デジタル」がこれからの経済と社会を牽引していくという認識から、世界の国々がデジタル化を重点政策として掲げる現在。そのデジタル化を支援すべく、シスコシステムズ(Cisco Systems)が2015年に立ち上げたのが「Country Digitalization Acceleration(CDA)」プログラムだ。現在は44カ国で展開されており、日本でも2019年にスタートした。そして今年、2022年からは“第2フェーズ”に入るという。

 今回、立ち上げ当初からCDAを推進してきたシスコのバイスプレジデント、ガイ・ディードリック氏が来日し、ASCII.jpの取材に応じた。

Country Digitalization Acceleration(CDA)プログラムのビジョンは「持続可能でセキュア、インクルーシブ(包摂的)な社会の構築のために、倫理的でイノベーティブなテクノロジーソリューションを活用して、各国政府リーダーと協働する」こと

米シスコシステムズ SVP 兼 グローバルイノベーションオフィサーのガイ・ディードリック(Guy Diedrich)氏、シスコ日本法人 戦略ソリューション事業開発本部 本部長の赤西治氏

各国の政府、パートナーと共にデジタルアジェンダの「実行」を支援

 そもそもシスコがCDAをスタートさせたのは2015年、フランスのフランソワ・オランド大統領(当時)がデジタル化を進めるにあたって、民間の助けを求めたのがきっかけだったという。フランスに続いてドイツ、英国などの欧州諸国、さらにインドへとその取り組みは拡大していった。当時の状況について、ディードリック氏は次のように振り返る。

 「各国政府は壮大な『国家デジタルアジェンダ』を策定するものの、実行部分に課題を抱えていた。そこでわれわれシスコが、複雑なデジタル政策を簡素化し、実行可能なプロジェクトに仕立て直すのを手助けすることにした」(ディードリック氏)

 デジタル化のアジェンダ(計画)は、各国/地域の現状や抱える課題に応じて策定されるものであり、シスコはあくまでもその実行を支援するという立場だ。それもあって、プログラム名には「Acceleration(加速)」という言葉を用いている。

 CDAはその後、シスコがビジネスを展開する各国のデジタル政策を鑑みながら拡大し、現在では44カ国で展開している。CDA展開国のGDPは世界全体の90%に相当し、人口でも70%をカバーする。

 これまで支援してきたプロジェクトは、電子政府、スマートグリッド、インダストリー4.0、スマートシティ、教育、サイバーセキュリティ、運輸/輸送、医療など幅広く、総数は1200件以上に上る。シスコ単独ではなく、各国/地域のパートナーと共に推進しており、競合する企業と手を組むことも「よくあること」だという。

CDAプログラムは現在44カ国で展開されている

 日本でCDAの取り組みがスタートしたのは2019年の中頃だった。当時の安倍政権が掲げていたデジタル政策を支援すべく、公共インフラ、教育、テレワーク(働き方改革)、工場、スポーツ/エンターテインメント、さらにそれらを支える5Gインフラといった分野で、パートナーと共に取り組みを行ってきた。

 たとえば教育分野では、コロナ禍で実施スケジュールが前倒しになった「GIGAスクール構想」がある。1人1台の端末を生徒が使う学校のネットワークインフラ構築や、コミュニケーションツール、セキュリティツールの提供などで支援を行った。また農業分野での取り組みでNTT東日本と協業し、新潟県においてローカル5G(プライベート5G)を活用したアグリテックのPoCも実施した。

日本政府のデジタル化の遅れは「すぐに追いつくことができる」

 シスコの新会計年度を迎える今年8月からは、日本での“CDA 2.0”として、取り組みをさらに拡大する方針だという。日本のCDAプログラムを率いるシスコ日本法人の赤西治氏は「『2025年にカーボンニュートラルを実現する』という国の目標に向け、政府関係者、パートナー、顧客などと、どうやって到達するのかを話し合っている」と語る。

 さらに岸田政権が掲げる「デジタル田園都市構想」も、CDA 2.0では重要なフォーカスエリアになると考えている。ここでは特に、地方創生で重要な鍵を握る通信分野での支援を進めていく。「地方のデジタルデバイド(デジタル格差)解消に向けて、すでに地方都市、政府、パートナーとの協業を開始している」(赤西氏)。またEVやモビリティサービスの分野でも、今後のエコシステム形成に積極的に関わりたいと語った。

 2021年11月に英国で開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約 第26回締約国会議)で「世界の平均気温上昇を1.5度に抑える努力を行う」という合意文書が採択されたことからもわかるとおり、「サステナビリティは日本に限らず世界的なトレンドだ」とディードリック氏は語る。それに加えて、各国がコロナ禍を経験したことでデジタルヘルスケアの優先順位も上昇しているという。

 CDAの当初から注力している教育分野については、「今の子どもたちが大人になった時、現時点で存在しない仕事につくと言われている時代。シスコはネットワーキングのスキルを習得できるコースを無料で提供している」と述べ、「Cisco Networking Academy」を紹介した。

 日本では、コロナ禍を通じて「行政におけるデジタル化の遅れ」が広く認識されるようになった。ただしディードリック氏は、「日本は経済力があり、経済が多様化しているので、投資分野の選択には時間がかかるかもしれないが、取り残されることはない。すぐに追いつくことができる」とコメントした。実際に日本の政府関係者に会うことも多く、「創造力があるし、それほど官僚的でもない。デジタル化を進めたいという気持ちを感じる」と印象を語る。

 CDA立ち上げからの7年間、多くの国でデジタル化のプロジェクトを見てきたディードリック氏は、成功のポイントとして「政府、産業界、学術界の人々が一つにまとまって推進すること」だとアドバイスする。

 「全員が同じ目標に向けて連携すれば、成果は必ず出せる。(国家のデジタル化は)短距離走ではなく、マラソンのようなもの。国ごとに状況は異なるので、自分たちの文化や状況に合わせた取り組みを長期的な視野で進めると、ポジティブなインパクトが出る」(ディードリック氏)

 また、仕事のやり方など習慣を変えるのは難しいことだが、そこは忍耐強く、教育/啓蒙していくことが大切だと語る。百聞は一見にしかずで、「デジタルならば簡単にできる」ということを実際に見せることも重視している。日本で議論が続いている「オンライン国会」について、米国ではシスコのビデオ会議サービスを議会向けにカスタマイズした「Legislate for Webex」を開発し、安全な投票や非公開での協議といった機能を用意することで、議員の不安を払拭したという。「鍵を握るのは信頼だ」(ディードリック氏)。

次はアフリカ諸国へのCDAプログラム展開を目指す

 グローバル企業のシスコがローカルニーズに則した支援を行うという点で、ディードリック氏が誇るのは、ロシアによる武力侵攻を受けたウクライナ難民に対する救援だ。多くの難民が避難した隣国のポーランドで、シスコは早急にCDAプログラムを立ち上げた。たとえばドイツで展開したシリア難民向けのプロジェクトであるモバイルクリニック、英国で展開した駅などでの児童誘拐を防ぐセキュリティプロジェクトなどを、一夜にして立ち上げることができたと胸を張る。

 ただし、CDAは慈善活動ではない。ディードリック氏は、シスコは営利企業であり、CDAも投資の一環だと述べたうえで、「だが、四半期ごとの決算がある事業とは異なり、長期的な成長戦略の下で行っている」と説明した。プランを実行してみて、うまくいかないとわかったら打ち切るという、シリコンバレースタイルの“フェイルファースト”で進めていると話した。

 あくまでも事業、投資ではあるものの、CDAが各国のデジタルアジェンダ推進にもたらす成果は大きい。ディードリック氏は「インターネットにつながることは基本的人権」「デジタルがすべての問題を解決するわけではないが、すばらしい変化をたくさん見てきた」と述べ、今後はアフリカ諸国でもCDAを広げていきたいと目を輝かせた。

 「現時点でインターネットにアクセスできない人を全て接続できれば、5億人を貧困から救うことができ、世界のGDPに6.7兆ドルの効果をもたらすことができる」(ディードリック氏)

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