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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第68回

〈後編〉アニメの門DUO 数土直志氏×まつもとあつし対談

巷のアニメ業界話は5年遅い!?

2021年02月12日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

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アジアを目指す海外配信企業

まつもと 次に気になるのは、海外の配信大手が今後どうなっていくのか、ということ。それからこのコロナ禍で、日本のアニメ会社が海外へ進出する動きを強めている、と感じています。これらを数土さんはどうご覧になっているのでしょうか?

 また海外の配信大手Netflixがこのところ方針転換していることに数土さんは着目されているということなんですが、その解説をお願いします。僕から見ると、あえて迷走とは言いませんが(笑)、試行錯誤しているという印象ですが。

数土 僕は、Netflixは変化が速い会社だと思っています。アニメについて最初は「配信権だけしか買えませんよ」みたいな言い方をしていましたが、昨今では一社出資の「制作費全部出しますよ」みたいなことも始めています。

まつもと それは権利も取っていくということですか?

数土 そう、権利も持っていくんですよ。さらに「じゃあ企画から一緒に作りますよ」と言って、アニメ制作会社のクリエイターたちと、原作から開発しましょう、というようなこともあるようです。つまり作品の権利だけではなく、原作も持っていきます、というふうに一歩進めているのです。

 そしてさらに一歩先、作品の権利と原作を持っていってどうするかといえば、今後はライセンス事業へ展開していくのではないかと。これまでNetflixは「プラットフォームなのでライセンス事業はしません」と説明していましたが、この状況化ではライセンス事業に乗り出す未来があっても驚きではないと思っています。

まつもと そもそもNetflixでウケる作品と、それこそ日常系のようなウケない作品との色分けが起こってくるのではないでしょうか?

数土 Netflixは従来、アクション、SF、バイオレンス系の作品を多く配信していて、実際それがウケているのは確かですが、それは欧米でのことだったわけです。Netflixの牙城は欧米でしたが、いまやアメリカでは会員数が飽和してきています。これ以上の成長がちょっと厳しい、となったとき、次にターゲットになるのは明らかに伸びしろのあるアジアです。

 それでは、アジアで何がウケる? と考えたときに、萌えアニメとかアイドル系とか、日常系みたいな作品がNetflixで配信される余地というのは十分あると思います。そしてそれは、「HBO Max」や「Hulu」でも同じだと思っています。

まつもと これまでは「外資が独占配信の権利を買いに来ました」というスタイルでしたから、これは日本のアニメ業界と一緒にビジネスをしようという1つの意思表示かなと。今後の動きはなかなか読みにくいですが、Netflixがアニメ業界、配信業界に大きな影響を与えることは間違いなさそうです。

数土 1つだけ言うと、外資系企業の撤退リスクはあると思います。Crunchyrollを見ているとホントにそう思うんですよね。もともとワーナーメディアの傘下でしたが、トップが変わった瞬間、「Crunchyrollは要りませんよ」となったわけですから。

 今回は入れ換わるようにソニーが買収しましたが、そういう面で外資系は怖いな、と。常に大きな変化があり得るということは頭に入れた上で僕らは生き方を見つけていかないといけないようです。

ソニーによるCrunchyroll買収は、外資の撤退リスクが表面化した出来事だったとも言える

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