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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第68回

〈後編〉アニメの門DUO 数土直志氏×まつもとあつし対談

巷のアニメ業界話は5年遅い!?

2021年02月12日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

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海外を目指す日本のアニメ企業

まつもと そしてアニプレックスやバンダイナムコなど、日本のアニメ関連企業も海外進出の動きを強化しているようにみえます。Crunchyrollとソニーの動きもそうですね。数土さんからは事前にブシロードの名前も挙げていただきました。数土さんはこれらの企業が今後どのように動くとみていますか?

数土 もちろん日本のクリエイティブ産業というのは生き残っていくのだと思います。しかしかつての、クールジャパン的な考え方、つまり「世界で戦える日本のエンターテインメント企業を作ろう!」は失敗してきた事実があります。じつは今、そういう動きが別のところから自然に生まれつつあるんだと思っています。

 アニメを含む映像を提供する企業の中で、世界で生き残れる企業ってどこだろうと考えたとき、射程圏に入っているのはアニプレックスを中心とするソニーミュージックグループ、そしてバンダイナムコ、あとはブシロード、僕はこの3社が中心だと思っています。この3社のどこがすごいかというと、企業規模の大小に関わらず、非常に攻撃型であること。攻撃型と言うとすごく嫌な感じに聞こえるかもしれませんが、いい意味での「攻撃型」です。

まつもと 攻めている企業、ってことですよね?

数土 そうです。『えっ!?』と思うような大胆な施策を次々と繰り出しますし、M&Aも多いです。

まつもと 日本の企業でM&Aっていうと、どちらかというとネガティブなイメージがありました。

数土 ええ。日本のエンターテイメント企業が「海外に現地進出する」とか「新分野に進出する」ときには、「1から自分たちで事業部を作ってやります」とか、せいぜい「有力企業と提携を」みたいな感じで事業展開することが多いんです。

 しかし先に挙げた3社については、そういうとき、完全に買収して傘下に収めるとか、完全買収まではいかないけど、株式のかなりの割合を握って自分たちが経営権に届くようにしちゃう、というふうに事を進めます。早い話が、金で時間を買っているんですよね。

 たぶんそれは他業界、あるいは他の国では当たり前のことなんでしょうけれど、日本のエンターテイメント企業、特にアニメ・映像系の企業ではほとんどなかったことだと思います。ドメスティックな企業で、ファンは日本国内にしかいないと思っていたためでしょう。

まつもと そういった企業が、これまでにない策を繰り出すようになったきっかけはなんでしょう?

数土 当然ながら背景には、世界市場が広がっていることが挙げられるでしょう。あとは、前編で触れたような2兆5000億円という市場──まあ僕はミラージュ(蜃気楼)なのではと思っていますが(笑)──にも関わらず、プレイヤーの数が少ないことが要因では。アニメ業界って、いったい何が起きているのか、他の業界の人たちからはよくわからないじゃないですか。

 だから、ちょっと大きなことを大胆にやっても結構自由に動けてしまう。そのことに気づいた人たちがキープレイヤーとなって、前述のような動きを見せているのでは? という気がするんですよね。

「アニメ産業レポート2020 サマリー版」より

まつもと ある意味、世代交代が進んできたということもあるのでは。それから、先ほどのNetflixの話に戻るのですが、ITジャーナリストの西田宗千佳さんから、「アメリカ制作のティーン向け作品で、ライセンシング、主にガジェットの展開ができ始めている」という内容のコメントをいただきました。それをモデルケースにしてNetflixは日本でも展開していこうと考えているようです。

数土 「アメリカには部署がある」とは聞きました。ただ、日本にはまだ担当部署がないそうで、なにか展開ができたらと思っているのでないでしょうか。

まつもと おそらく中学生ぐらいまでの世代向けだと思いますが、ガジェット、つまり昔で言うところの「ベイブレード」みたいなモノとアニメとを組み合わせた展開を考えている、ということでしょうか?

 Netflixについては、これまでそういった展開の作品はありませんでしたし、そもそも年齢が高いファン向けに配信しているイメージでしたが、今後はターゲット層を広げてガジェット系のおもちゃとセットにしたようなアニメコンテンツを展開していく可能性がある、と。

数土 たぶん、NetflixはIT企業であると同時に、今は「スタジオだ」って言い始めていますからね。スタジオなのだとすれば、同じくスタジオであるディズニーもワーナーも、コンシューマープロダクト部門やゲーム部門を持っているわけですから、Netflixがそこへ進んでもなんら不思議はないような気はします。

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