元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」第3回

北のグルメハンター・本田大助の“5年後の未来計画”〜発掘からプロデュース、ブランディングへ〜

文●土信田玲子/ASCII、撮影(インタビュー)●曽根田元

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​ 百貨店の北海道専任バイヤーとして、札幌に住んで15年余り。物産展で現地の美味なるモノを全国に紹介してきた本田大助。“北のグルメハンター”と呼ばれる源は、食べて食べて食べまくって研ぎ澄まされたグルメな舌と飽くなき好奇心、そして研究心だった。コロナ禍でもオンラインで「北海道物産展」を成功させ、さらに食糧供給地としての、道の未来と物産展の可能性も考える。日本屈指のグルメバイヤーのこだわりと“5年後の未来計画”を、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/(株)大丸松坂屋百貨店 北海道物産展・専任バイヤー 本田大助

​もっと美味しく、ここでしか出会えないモノを

 広大な北海道中を駆け巡り、美味しいモノを探す“北のグルメハンター”こと、本田バイヤー。新店舗の出店に限らず、地域や生産者、メーカー、加工業者たちと二人三脚で継続的に取り組むことでも支持される「北海道物産展」で、彼は道内各地の食材や商品を食べ回りながら、生産者や飲食店と直接交渉し“物産展でしか出会えない”新商品も生み出し続けている。

――人と人、食材と店を結ぶ交渉で大切にしていることは?

「目玉品みたいな物は別として、僕は1円下げる交渉は基本的にほとんどしないんです。それより、もっと美味しいモノはできませんか? というお話をさせて頂く。デパートのお客様は値段より味や質を求める方が多いから、もっと美味しくならないかな、もっと楽しいことできないかな、と。そこは大事だと思っています」

――少しでも安く買いたい人もいれば、ほかにないモノ、信用できるモノが欲しい人もいる

「そうなんです。特に地域に密着してやっていると、それがものすごくお客様から求められること。普段出会えないモノが食べたい、と。今はLCCを使えば片道1万円ほど、東京~新大阪の新幹線代で、関西からも北海道旅行が手軽に楽しめる時代。じゃあ逆に、物産展でしか味わえないモノは出せないのか?

 例えば、天日干しのホッケを一番いい時期に数量限定で作って頂く。今だったら1枚3000円はすると思います。サイズも大きくて最高の品質です。でもこれは、ただ北海道に行ってもなかなか食べられないと思います。この物産展でしか買えないモノだから。オープニングの目玉で、ホッケ3枚1000円みたいな特売もやりますが、それだけではダメなんですよね」

物産展は時間とエネルギーを掛けるほど面白い

「物産展って極端な話、取引先を集めて展開すればいい、というような考え方もできなくはないんです。売場を埋めていくというのは比較的簡単にもできるけど、そこに人と人との縁、生産者を結ぶいろいろな物語を作ったり。奥へ掘れば掘るほど大変なことなんです」

――商品を並べるだけが物産展ではないと

「例えばお祭り。岸和田のだんじり祭や姫路の灘のけんか祭りとかって、1年掛けて準備してやりますよね。物産展もお祭りと一緒。1冊の本と言ったらカッコ良すぎるけれど、やっぱり物語がある。この食品をもっと知ってほしいから、こういう取り組みをしている、というね。時間とエネルギーを掛ければ、いくらでも際限なくできる。そこが面白いんですね」

――ここだけの話、次に作りたい物語は?

「惜しまれながらも閉店した店の復活です。美味しくて人気があったけれど後継者問題など、いろいろな事情で閉めてしまった老舗や名店の味を『この時だけ!』と物産展で限定復活させたいんですよ」

――それこそ地元でも幻の味だし、ロマンがある。ぜひ実現を!

サケやイクラは“道産”でひと括りにできない。
客観的事実から食材を研究する

​――商品や食材選びの際はずいぶん研究するそう

「お客様にはいいモノを出さないといけないからですね。僕はいろいろな産地に行って生産者さんからお話を聞かせて頂くだけでなく、船に乗せてもらったりもするんです。皆さん、口を揃えて“ウチの浜が一番”だと言いますね。そりゃそうですよ。特に漁師の皆さんは命を懸けて魚を獲るんだから。

 そういう思いも大事にしないといけないけれど、みんなが一番なんていうことは、基本的にないんだろうなと思います。何か違いがあるんじゃないか? と思うわけです。そこで定量的には何が違うのか、例えばサケはどこ産が一番美味しいんだろう? と大学の先生や漁業組合、市場の方たち、いろいろな人に聞いてみる。

 諸説あるのかもしれませんが、ある方によれば、サケは北方領土の方から北海道に帰ってきて、オホーツク海側と太平洋側に分かれる。その分岐点が、サケの遡上する河川が近い根室や歯舞諸島あたりだから、近辺で獲れたサケが良質ということになるわけです。そんな話を聞くと、なるほどね、と頷ける」

――同じ道内とはいえ、漁獲地で質や値段が違うと

「イクラの皮の厚さも、銀毛(ぎんけ)、Aブナ、Bブナなどサケの成熟度ランクで変わります。銀毛やAブナは皮が薄いけど、より産卵期に近いBブナだと皮がちょっと厚いとか。  

 また、イクラはサケの水揚げされた後でも、数時間はまだ細胞が生きている。であれば、浜にしっかりした設備があれば、鮮度がいい状態で取り出せる。そういった設備がある所では、イクラの鮮度が違います。その土地によって合わせる醤油も変わる。白醤油で合わせたり、昆布醤油で合わせたり。みんな美味しいんです。でも名古屋の物産展で出すんだったら白醤油だな、と閃くわけですよ」                     

イクラひとつでも皮の厚さや鮮度、販売地域の嗜好にまで思いを巡らす(画像はイメージ)

 サケの生態やグレードの知識の有無で、商品選びもまったく違う。漠然とあそこのサケやイクラも美味しいらしい、という評判だけで持ってくるのではなく、学術的な知識や客観的な事実から「美味しさ」を裏付けるという研究熱心さ。さらに開催地のお客さんの味覚も捉え、どうしたら喜ばれるかを追求する。どんなことも熱心に語る本田バイヤーは、まさに“やればやるほど面白い祭り=物産展”を愉しんでいる。

生育環境で値段が変わる道産ホタテ

 サケやカニなどと並ぶ人気海産物のホタテも、産地や漁法により特長がまったく異なると本田バイヤーは語る。

「ホタテはオホーツク海や噴火湾、日本海側では、せたな町と奥尻島との間などで生産していますが、産地によって何か違いがあるのだろうか? 僕はそこにすごく興味があるから聞くわけですよ。まずオホーツク産は地撒き、つまり稚貝を放流して大きくなった順番に獲っていく。ホタテは海底でピョーン! ピョーン!って運動しているから筋肉質で、生食で貝柱を食べるには最高だと思います」

――産地ごとに美味しい食べ方があるんですね

「噴火湾のホタテ漁は垂下(すいか)式。海中に吊られて砂を一切噛んでいないから、殻ごと焼いて食べるのもいいですし、鍋に入れてもいい。貝柱もちょっと柔らかくて、いい感じだと思います。湾内には海流がなく、栄養分が豊富なので短期間で大きくなる分、コストが掛からないから比較的リーズナブルというわけです」

 噴火湾と同じ垂下式のホタテ漁をする日本海でも、また環境と特長が異なるという。

「奥尻島の周りの海はとてもキレイですが、潮流が速く水温も低い。大きくなるのに時間が掛かる分、コストも相応だから値段が高くなる。でも荒波に揉まれて育ち、身がプリッと引き締まっていて焼いても縮まない。食べ方によって、しっかりと提案するということも大事だと思います」

「オンライン de 北海道物産展」の開催まで

 コロナ禍でリアルな物産展が続々と休止される中、松坂屋上野店では8月にWEB上で「オンライン de 北海道物産展」を開催した。

――オンライン物産展を開催したきっかけは?

「コロナ禍だろうと牛は当然、毎日ミルクを出す。だけど(当時は)給食が止まっている。メロン、サクランボ、アスパラなど自然の産物も日々できてくる。これをどうにかしないといけない。一方で、家で巣ごもりしてる人たちは、毎日スーパーのモノじゃなくて、たまには違ったモノを食べたいはず。GO TOも始まったけれど、旅行へすぐには行けない方もいらっしゃる。そこで自宅でも味わえるようにWEBでの物産展を企画したんです」

――他店のオンライン物産展との違いは?

「“支援”という視点だけでもいいのかもしれないけれど、ウチでは支援はもちろん、よりおいしさにこだわりました。例えば、北海道の生ラーメンをストレートスープで販売すること。普通、通販のラーメンスープはタレとラードがメイン。それを家でお湯やスープに溶くスタイルですが、どうしてもスープの味が弱まってしまう。

 お店では鶏や豚、魚、昆布などから丁寧に取ったスープを使っていて、それぞれ個性があるでしょ。だからそのお店のスープごと冷凍したストレートスープにすれば、よりリアリティのある味を自宅で再現できる。麺も、製麺会社でお店ごとのレシピを確認して作ってもらったんです」

「まるはBEYOND」監修の塩ラーメン(2020年8月、松坂屋上野店『オンライン de 北海道物産展』より)

――eコマースでも「本田大助の北海道物産展」の世界を実現しているのがスゴい。妥協しないことで百貨店の可能性も広げたのでは?

「ありがとうございます。リアル物産展も復活していくので力の入れ具合が大変になってくるとは思いますが、お客様が北海道の味を求められる中、どういうモノを出したら一番喜んで頂けるかを考えると、結局は商品自体のプロデュースをやりたいですね。既にあるモノを引っ張ってくるのではなく」

――「ズワイガニと豚骨ラーメン」など、本来出会うはずのなかった食材のコラボ商品を考案したりと、もはやプロデューサーですね

「ウニと和牛ステーキの丼とかね。ウニも和牛もみんな大好きでしょ。これ最高に旨いんですよ。どちらも脂が乗っているし、醤油とワサビが合う。でも北海道にはなかった。いや待てよ、何でないんかな?と(笑)」

「うにがとろける絶品ステーキ丼」(2014年、松坂屋上野店『北海道物産展』より)

――そういったユニークな発想はどこから?

「面白いこと、楽しいことが大好きな性格と、自分の引き出しですかね。僕の父親は料理旅館で育った料理人で食い道楽だった。だからそんなに裕福な家庭ではなかったけれど、美味しいモノを食べていたんです。学生時代は引っ越しのアルバイト代が入れば焼肉屋に行って、当時でも1人前1600円ぐらいした神戸牛の上ロースを食べたり。魚は瀬戸内、夏は京都や淡路島でハモを食べたり…。

 食べ物にはお金を使って贅沢していましたね。やはり美味しいモノを知っていないと、味覚の基準が上がらないんじゃないかな」

――長年食べまくって増やした貴重な引き出しですね

「グルメサイト等で、お店に対していろんな評価が出ていますけれど、自分でしっかり食べて評価するということを、疎かにするとダメだと思います。物産展の店頭に立つと、お客様に聞かれることもちょくちょくあるんですよ、『本田さん、このラーメン美味しいの?』と。ラーメンには好みがあるから、当初、僕はダシが何ですとか、商品の説明をしていました。そしたらある時、お客様から『そんなことはどうでもいいの! 貴方が食べて個人的に美味しかった? それなら頂こうと思うの』と言われまして。          

 だから、やっぱり自分で食べて美味しいと思うことが大事。『これ、僕は大好き。味噌が好きな方だったら絶対に食べてほしい』と伝えられた方がずっといい」

――本田バイヤーというフィルターを通して生まれる物産展をお客さんは見たい。貴方が「おいしい」というモノを食べたいんですね

しっかりと味を確かめながら、出店の交渉に臨む

リアル物産展も再開。安全対策は?

 大丸松坂屋百貨店では、9月から半年ぶりに物産展を再開。本田バイヤーによる「北海道物産展」は、9月から10月にかけて松坂屋静岡店、次いで名古屋店で開催された。

――リアルの物産展が再開しましたが、店舗で行っている安全対策は?

「とにかく3密を避ける。拡散防止という観点で会場の3密を防止する。我々は常にそのデパートに入る時点で、検温、マスクのチェックなど安心安全対策をしています。併せて物産会場でも、お客さんの入り具合を見ながら人数を調整したり、通路の幅を広げるなどしています」

――売り場スペースが狭くなると出店数も減りますが…

「期間が2週間あれば、1週目と2週目で出店するお店を分ける、今まで3台でやっていたところを2台にしてもらう。ソフトクリームも自慢のお菓子屋さんだけど、『今回はケーキのみで』とお願いしたり。なるべく多くのお店に出て頂く方法は、いろいろあります」

――日々変わっていく規制に対応していくと

「イートインも専用スペース・パネル板を用意して、しっかり準備をして再開できればと考えております」

――どうすれば開催できるか、前向きな考えで

​「コロナ禍の中で、北海道では新しい生活様式として“新北海道スタイル”という取り組みを行っています。今はもう、その安全安心基準を満たした上でどう取り組むかということが、社会生活でもスタンダードになってきていますよね、マスクも皆しているし。我々もコロナ禍を特別視するというより、安全安心を守るというスタンダードの中で、できることを今やっています」

2020年最後の「北海道物産展」は、12月15日(火)より大丸京都店で開催(画像は過去の会場より)

本田が描く“5年後の未来計画”とは?

 現在は“対新型コロナ”に世界中が立ち向かっているが、人間や自然界の生物の命を脅かすものはウイルスだけではない。地球温暖化の影響か、台風の大型化、ゲリラ豪雨による土砂災害など、日本も各地で甚大な被害を受けている。明らかな自然環境の変化のため北海道の漁獲量も、魚種によっては年々減少する一方だ。

――以前は“サンマ御殿”が建つくらい、サンマが獲れましたよね。特に今年の不漁ぶりはちょっと異常では?

「異常ですね。地球温暖化が進んで、この高水温だとサンマがオホーツク近海まで戻ってこないんじゃないか、と危惧されています。稚魚を放流してるサケでさえも、今年は不漁だった去年並みか、それ以下という話だから、魚たちはもう今までほど戻ってこない可能性もあります。

 じゃあ、これから地域とともにできることは何か。魚を追い掛けていくことはできないから、新しい価値を地域と一緒に創造していく、考えていくということなんです」

――新しい価値の創造とは具体的に?

「海水の温度が変わってくれば、その海へやって来る魚も変わってきます。タイが北海道で獲れるなんて時代が来るかもしれない。でも北海道は、そもそも素材王国。鮮度も良く、そのままで美味しい食材が多いから、北海道の方は例えばですけれども、京都の方みたいに多様な調理法で工夫するより、生で美味しく頂くということが大好きなんです。だからそこで食べ方を含めて、プラスアルファの付加価値を付けていくことが大事になってきます。新しい魚種を定着させるためにも、地元の人にもたくさん食べて頂けたらと思っています。

 あとはブランディングですね。例えば、北海道でも最近獲れるようになったブリ。船上で活き締めして、道南で開発した専用氷で鮮度管理も抜群。でも北海道のブリって、富山の氷見寒ブリみたいなブランド価値がまだ付いていないんですよ」

――ブランドを育てていくことも、本田バイヤーのひとつの役目

「どこまでできるかっていうところは正直あるんですけど、少しずつでもやり続けていけば、そういう輪ができてくると思うんですよね」

地域と一体になって、素材王国から次なるステージへ向かう(画像はイメ―ジ)

​――目指される“5年後の未来計画”とは、本州への供給者として道の農水産物に新しい付加価値を創造していく、という大きなプランなのですね

「北海道の食糧自給率は約200%。食糧を全国に供給するところです。乳製品、野菜、果物や海産物も本州に向けて出荷する供給者として、新たなブランディングや付加価値を考える必要があると思っています」

 現在も北海道専任の本田バイヤーは、物産展で販売する食材や商品の発掘にとどまらず、道自体の近未来像も見据えてビジネスチャンスを考えている。全国への食糧供給地としての北海道がこれから何をすべきなのか、地球規模での環境激変に応じて、どんなブランディングを行っていくべきなのか。「地域の取引先を支援していくことが大切」とする地域密着型バイヤーの進化形として、彼がどんな仕掛けを見せてくれるのか、目が離せない。

本田大助(ほんだ・だいすけ)●1969年生まれ、兵庫県出身。1992年、株式会社大丸に入社。大丸神戸店ほか勤務を経て、2005年から「北海道物産展」専任バイヤーとして赴任。以来、札幌に在住。全国の大丸松坂屋百貨店で開催される「北海道物産展」で商品や店舗選び、新商品開発などを手掛ける。北海道との最初の出会いは小学校の時、好成績を挙げたご褒美のスキー旅行。神戸と北海道で震災を2度体験したこともあり、座右の銘は「縁を大切にする。全力でやる」。趣味は「温泉めぐり! オススメは羅臼の熊の湯、瀬石温泉」。

​聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。最近は「コロナで延期されていたオリパラや万博、IRなど担当案件の再起動や仕切り直しが相次ぎ、忙しくなってきた」とのこと。

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