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広報に力を入れたいスタートアップ必見 事例で企業広報のイロハを学ぶ

「YOXO Study Series 広報編〜企業広報の成功の秘訣〜」

特集
「YOXO BOX」イベントレポート

 横浜市は「イノベーション都市・横浜」を宣言し、スタートアップや起業家などの支援を行なっている。拠点となっているのがYOXO BOX(ヨクゾボックス)だ。今回は2020年9月25日にYOXO BOXにて開かれたオンラインセミナー、「YOXO Study Series 広報編〜企業広報の成功の秘訣〜」の模様をお届けする。

 テーマは企業広報で、これから、広報活動に力を入れたいスタートアップなどをターゲットに開催された。セミナーには、ベンチャー企業の経営者やNPO団体、大学生といった幅広い層の視聴者が参加。企業広報のノウハウを株式会社mikuPR代表取締役 木本美紅氏と株式会社プログリット・広報担当 桶本裕介氏、アクシス株式会社代表取締役 末永雄大氏の3名がレクチャーした。

企業広報のプロによる座学で、基礎を学

株式会社mikuPR代表取締役 木本美紅氏

 セミナーの第1部では、広報支援を得意とする木本氏が、広報の基礎を3つのステップに分けて解説。

 第1ステップでは「広告と広報の違い」について説明した。木本氏によると、ベンチャー企業の経営者からよく聞かれる内容だという。2つの大きな違いは、費用の有無だ。広告を出すにはもちろん広告料がかかるが、広報は無償で行う。そのため、広告は掲載が確約されており、内容の精査や修正も可能であるのに対して、広報は掲載も内容もすべて記者の判断に委ねられている。「記者さんの思った通りに、良いタイミングで第3者である報道機関が発信するので、書いていただく内容の信用性が上がります」と木本氏。

 大手企業と中小企業の広報活動にも大きな違いがある。TSUTAYA.com(現TSUTAYA)の広報として勤めた経験から、木本氏は大手企業の広報活動について次のように語る。「大手企業はリリースを出せば、すぐに掲載に至ることが多いです。担当記者が記事を書いてくれるので、記者さんに自分からアプローチしたことはほとんどありません」(木本氏)。

 では、大企業のような担当記者のいない中小企業は、どのように広報活動をするべきなのか。

 「フットワークの軽さが肝心です。広報やマスコミがやっている勉強会などに参加してください。記者とのつながりを作り、マスコミが何を求めているのかヒアリングする力がすごく大事です。横の繋がりも大切にしましょう。ベンチャー1社で売り込むよりも、数社で売り込む方が効果的です」(木本氏)

 プレスリリースについて説明する第2ステップでは、まずリリースを書く切り口とポイントについての説明があった。プレスリリースの切り口としては、新商品や新サービス、記者会見などのイベントを知らせたり、業界全体のニュースレター、資金調達のお知らせなどがある。特に資金調達については、調達した金額だけではなく、「何に使うのか」「どんな事業を展開するのか」についても言及する必要があるという。また記者の元に、1日につき150件ものプレスリリースが届くことから、タイトルはプレスリリースの命であるとも話した。

 イベントの参加者から最も問い合わせが多かったというプレスリリースの配信について、木本氏は次のように語った。

 「勘違いされている方が多いのですが、プレスリリースを作成したら、全体配信ではなく、ターゲットメディアへのメディアキャラバンをする必要があります。自分たちが載せたいメディアの担当記者さんに直接アポイントを取って、いち早く情報の提供をしましょう。そこで掲載が確定したら、ようやくPR TIMESなどで全体配信をします」(木本氏)。

 全体配信をしてしまったら、当然、情報の価値は下がる。まずは、価値の高い状態で、個別に情報を開示する必要があるのだ。

 第3ステップでは、メディアとの付き合い方が解説された。「記者も人、広報も人である!」というメッセージがパワーポイントに映し出された。

 「社会合理性だけを考えるのではうまくいきません。ネタがなくて記者さんが困っていたら、すぐに持っている情報を提供するなどして関係を構築していくことが大切です。自分の利益にならなくても、記者さんと全力で向き合って、できることをやってあげるといいと思います」と木本氏は語り、第1部を締めくくった。

たった1人で広報を担って気づいた、腕の分かれ目とは?

 第2部となる「事例編」で最初にマイクを握ったのは、株式会社プログリット・広報担当の桶本氏。入社当時はマーケティングの枠で入っていたものの、上司から「PRをやらないか」と声をかけられ、PRが何なのかよくわからないまま二つ返事をしたという。人に会って教えてもらったり、勉強会に参加して広報仲間を作ったり、書籍などでも勉強をしたりしながら、なんとか一人で広報を担い、始めて2年半で100以上のパブリシティを獲得できるまでに成長した。

株式会社プログリット・広報担当 桶本裕介氏

 桶本氏が特に力を入れたのは、マスコミとの関係構築だ。記者に情報を提供できることや、「どんな企画が読まれるのか」といった企画の相談ができることは、広報活動をする上で非常に有利な状況になるという。

 関係構築をしていく中で桶本氏が大切にしているのは、とにかく覚えてもらうことだ。

 「会社ももちろんですが、自分のことを覚えてもらうということを特に心がけています。趣味である旅行の話をきっかけに記者さんと仲良くなってから、会社をアピールしたり、リリースや企画の話をしたりします。共通点が見つかり、『この人と継続して関係を続けたい』と思ってもらえたり、ご飯に誘いやすくなります」と桶本氏は語る。

 桶本氏は「情報収集力」、「情報加工力」、「情報伝達力」が腕の分かれ目だと述べる。

 「一人で社内にいても情報は流れてきません。例えば、おもしろい社員がいないか人事部に聞いたり、社会の動きを知るために、Yahoo!ニュースはもちろん、雑誌の特集を読んだりしなければなりません。また、リリースや企画を作る際には、タイトルやアイキャッチにもこだわりましょう。本文は会社の思いが伝わり、かつ冗長にならないように簡潔にまとめる必要があります。アポイントを取って記者と話す際には、きちんと会社のことを伝えられなければなりません」(桶本氏)。

 桶本氏は「アンテナを高く張って、楽しい広報活動をしましょう」と明るく視聴者に呼びかけて締めくくった。

経営者としての企業広報

 桶本氏に続いて登壇した末永氏は、経営者として広報部を立ち上げた経験について話した。転職キャリアサービスを主な事業として、アクシスを立ち上げた末永氏は、企業向けの人材サービスではなく、個人に価値提供ができるようなサービスを作りたかったという。「はじめは、事業にしか興味がなかったが、1年半ほど前に広報活動を頑張ろうと思った」という。しかし、何をしていいのかわからず、知人から木本氏を紹介してもらった。初めはメディア向けの会社概要もないような状態だったが、木本氏の支援を受け、広報部立ち上げからおよそ10ヶ月で日経新聞に掲載されるまでに至った。

アクシス株式会社代表取締役 末永雄大氏

 「広報部立ち上げにおける学び」の項目で、末永氏は年間のスケジュールが大切であると述べた。「広報は、タイミングがすごく大事。季節の変わり目で状況が変わることがあるんですよね。そのタイミングになってから考えるのでは遅くて、1〜2ヶ月前から仕込まなければならず、スケジュールを想定する重要さを学びました」(末永氏)。他にも、経営側ならではの視点として、広報に取り組む目的を社内に伝える必要性について説いた。特に末永氏の場合、会社の事業柄、ロジックや数字といったものを求める風潮があり、数値化しづらい広報の目的をわかりやすく説明する必要性が高かったのだという。

 「社長発信によるYahoo!の寄稿の反響と本の出版まで」という項目では、社長が専門家として発信することの大切さについても述べた。オウンドメディアの「すべらない転職」は、2012年から自分発信ブログとして開始したものだ。「誰だよお前という人には就職支援をしてもらいたくないだろう、と考えた。自分がどういう考えでエージェントをしているかぶっちゃけてやろうと、面談内容を全部書き込んだ」という。それだけでなく、記事の信用度を上げるために、Yahoo!ニュースやAll Aboutなどのメディアに「書かせてくれないか」と自分を売り込んだ。受け身の姿勢ではなく、積極的に自分を発信していくことで、吉本問題に関する記事でYahoo!トピックスの2位になったり、著書を刊行したりしたという。

 広報支援のプロ、企業の広報担当者、広報部を立ち上げた経営者。3名がそれぞれの視点で「広報」を語った。参加者にとっては、各氏が経験の中で得た学びや気づきを聞けた貴重な機会となっただろう。

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