システム/チャネルごとに分断されたデータを統合、活用して真にシームレスな体験を実現
SAP、顧客体験に一貫性をもたらす「SAP Customer Data Platform」発表
2020年11月12日 07時00分更新
SAPジャパンは2020年11月11日、顧客データプラットフォームの新たなソリューションとして、「SAP Customer Data Platform(SAP CDP)」を発表した。従来のマーケティングの枠を超えて企業が顧客を即時に把握でき、企業プロセス全体のデータを顧客に結びつけ、プライバシーに配慮しながらリアルタイムな顧客データをあらゆるチャネルで利用可能にする点を特徴とうたう。11月中に提供を開始する。
カスタマーエクスペリエンスの「分断」を引き起こす企業システムの現状
SAPジャパン SAP Customer Experience事業本部 ソリューションエンジニアリング部長の臼谷悠太氏は、カスタマーエクスペリエンス(CX)に関する現在の課題について、次のように説明する。
「顧客企業内ではコマース、セールスといったフロントオフィスだけでなく、サプライチェーンやコーポレートまでをつないだ“360度の企業プロセス”において、顧客プロファイルの活用により顧客との信頼関係を築くことが求められている。一方で、顧客側ではブランド認知から購入、利用まで、シームレスなエクスペリエンスの提供が求められる」「プロセスが分断されていれば、CXに『ストレス』が生まれる。たとえば購入まではスムーズだったが、返品になるとプロセスが滞るといったことだ」(臼谷氏)
SAPジャパン VP SAP Customer Experience事業本部長の富田裕史氏は、CXという言葉は2000年代初頭から使われてきたが、新型コロナウイルスの影響やデジタライゼーションの進化といった現在の状況を考えると「CXの意味を再定義する必要がある」と語る。
「新型コロナウイルスの感染拡大とともに、リアルの店舗が閉まり、デジタルで購入する顧客が増加しているが、顧客はオンラインでもリアル店舗でも、同じ価値を求めている。さらには生産、配送、アフターサービスといった(購入体験以外の体験)にも、同様の品質や価値を求める。企業は顧客に対してそうしたシームレスな体験や、いつでもどこでも購入できたりサポートを受けられたりする体験を提供するとともに、パーソナライズ化の要求にも応える必要がある」(富田氏)
ただし富田氏は、現実には「それができている企業は少ない」ことも指摘する。企業内のデータはサイロ化/分断化しており、上述したようなCXを実現するために一貫性のない顧客データを収集しなければならない。その一方で、顧客データは管理しきれないほどの膨大な量にもなっている。
同社の調査によると、現在の企業では顧客データが平均15個以上のシステムに分散している。その結果、多くの企業では最初の顧客接点ばかりを重視することになり、カスタマージャーニー全体にデータを生かすことができない状況が生まれているという。しかし、企業が提供するさまざまなタッチポイント(オンライン、オフライン含む)において、一度でも残念な体験をした顧客の65%は、その企業から離脱してしまうという調査結果も出ている。
「接続/保護/理解/パーソナライズ」の4機能で顧客プロファイル作成と360°活用
SAP CDPは、こうした課題を解決するためにコマース、セールス、サービスのエクスペリエンスと、タイムリーなマーケティングを実現する統合プラットフォームとして位置づけられている。富田氏は、前述した「シームレスなCX」「いつでもどこでもサービスが受けられる体験」「パーソナライズ化」という3つの顧客要求に応えられる、唯一のプラットフォームだと説明する。
SAP CDPは「接続」「保護」「理解」「パーソナライズ」という4つの機能を提供する。
まず、組織内のあらゆるデータソースから顧客データを取り込み、変換することで、相互に結びつける「接続」だ。ファーストパーティの(自社で収集した)CRMデータだけでなく、セカンドパーティやサードパーティのデータ、オフラインデータ、イベントやアクティビティのストリームデータ、トランザクションデータ、行動データなど、ソースにかかわらずコンテキストとともに保持する。統合された顧客プロファイルは、リアルタイムで更新される。
一方で、個人情報に対する「保護」機能も提供する。包括的なプライバシー戦略の策定を支援し、必要な同意が得られた場合にのみインバウンドデータを顧客プロファイルに統合する。これにより、データ収集の手法とデータ処理の理由が透明化され、顧客のデータプライバシーに対する企業のコミットメントが明確になる。
顧客に対する「理解」の機能では、高度なセグメンテーションとリアルタイムで計算されるアクティビティ指標により、顧客の好みや行動を正確に把握できるよう支援する。オムニチャネルでのエンゲージメントを提供するために、必要なオーディエンスを構築および活性化するためのデータ基盤を構築できるという。
そして「パーソナライズ」では、バックオフィスの膨大なオペレーションデータとフロントオフィスデータ、エクスペリエンスデータの統合を支援。これにより、顧客インサイトがリアルタイムで提供され、関連性の高いエンゲージメントを、適切なタイミングと場所で、顧客が望むチャネルと条件において実行できるようになるとしている。
同一の顧客に関して特定領域だけでなくマーケティング、店頭での接客、サポートなど“360°の活用”ができる顧客ビューを提供できる点、データ利用目的への同意をきちんと管理したうえでデータ収集/活用を行うためGDPRなどで規定されている制裁金リスクからビジネスを守ることができる点なども特徴だ。プラットフォームとしてはスケーラブルなアーキテクチャを採用し、毎秒数十万件規模のデータイベント処理、毎秒数千件のイベントトリガー処理ができる。
「変容する顧客の行動に企業が速やかに追随するには、データの紐づけをIT部門に要請しているようではいけない。SAP CDPでは、ノーコードでデータの紐づけや、編集、管理が行えるようにしている。特定ソリューションとの専用コネクタ、ノーコーディング機能、ファイル連携APIによって、業務ユーザーが、直接、データを管理できるようにしている」(臼谷氏)