業務を変えるkintoneユーザー事例 第94回
イベント関連業務のkintone化で行き着いた「業務改善は人とのつながり」
「みんな初心者」を前提に工夫を重ねた東京ドームのkintone活用
2020年11月10日 11時00分更新
kintone hive tokyo 2020で最後の事例セッションとなったのは、東京ドームでイベントの管理・運営を手がける望月秀吉氏。紙やFAXのワークフローに追われていたイベント運営チームがkintoneを活用し、業務改善を実現した背景には、初心者ならではのさまざまな工夫があった。
1000社のやりとりを紙とFAXで! 大変なのは事務局だけではなかった
みなさんご存じの知っている東京ドームは、広さの単位としてもおなじみ(約4.7haらしい)。株式会社東京ドームは東京ドームのみならず、東京ドームシティアトラクション、後楽園ホール、Spa LaQua、東京ドームホテルなど、さまざまな施設を運営し、エンターテインメントを提供している。
今回登壇した望月秀吉氏が担当しているのは、東京ドームが主催するイベントの管理・運営だ。10日間で約45万人を動員する「ふるさと祭り東京」は、日本中のお祭りや食べ物が一堂に会する。また、1・2月にはパッチワークや食器、お花などに関連する4つの大型イベントを開催しており、総入場者数は100万人を突破しているという。興行企画部に所属する望月氏は、「イベントの仕事をやりたくてこの会社に入ったのですが、ラッキーな望月はイベントの仕事の担当になれました」と語る。
今回の話は「kintone導入で会社が変わった」という話ではない。というのも、kintoneを利用しているのは興行企画部の自主興行チームだけで、しかも導入して1年しか立っていないからだ。「kintoneビギナーだからこそ工夫」がテーマとのことで、いやがおうにも期待は高まる。
まずは「業務改善は自分たちだけではない話」。イベントは当日の運営だけではなく、準備や終了後もさまざまな業務がある。業務内容は多岐に渡り、作業も多く、関わる人が多いため、とにかく情報共有が大変。しかも、イベントシーズンは集中しており、本番中は基本常駐になる。そのため、残業や休日勤務による長時間労働が課題になっていた。
特に準備段階で必要な出店募集・申請管理という業務は、とても作業が多くて大変だった。イベントの出店者とのやりとりは紙やFAXのやりとりが多く、しかもほとんど手書き。しかも一口に申請書といっても、東京ドームの事務局に提出する申請書だけではなく、飲食が伴う場合は保健所に提出する申請書が必要だし、施工や消防にも申請書がいる。
4イベントに出展する約1000社の出店者とこうした紙のやりとりが必要になるとのことで、その業務の煩雑さは想像をはるかに超える。手書きだと文字が読めないことも多く、わからないところをいちいち電話で確認なければならない。FAXは枚数が多いので整理が大変で、どれが最新かもわからない。PCへの転記作業では、複数の書類で同じ項目を何回も入力しなければならず、当然数が多いので入力ミスも発生する、約1000社分の作業を社員2名と数名のアルバイトでやっていた(!)ため、残業につながっていた。
こうした「業務あるある」は、実は受け手の東京ドーム側だけではなかった。約1000社の出店者も複数書類で同じ項目を何回も手書きで記入し、FAXで事務局に送らなければならない。FAXがきちんと送られているかをいちいち確認しなければならず、送信されていなければ、またやり直しで時間がかかる。結局、事務局だけではなく、出店者も「業務あるあるだらけ」だったわけだ。
初心者こそプロに作ってもらう選択を 全部できなくていい
「作業の時間が減ればお客さまに喜んでもらえる、もっと楽しいことを考えられるのに」「何かシステムで業務効率を改善できないか?」。そんなことを考え、Excelのマクロを勉強したり、ITツールを探しているていた望月氏は、ふとCybozu Daysに参加することに。そしてkintoneの話を聞いた結果、「求めていたのはこれ」という確信を得ることになったという。「ラッキーな望月はいいタイミングでkintoneに出会えた」というわけだ。
とはいえ、kintoneは使ったこともないし、簡単と言われても、無償期間でいきなり目指すモノができるわけもない。そこで座右の銘である「餅は餅屋」の通り、プロにお願いすることにした。ここでポイントとなるのは、「外注先ではなく、いっしょに業務改善を進められるパートナーを探すこと」(望月氏)だという。
プロにお願いするメリットについて望月氏は、「kintoneは簡単だが、初心者にとっては慣れるまで難しい。でも、プロに頼めば、限られた時間の中でクオリティの高いアプリを作ってもらえる。しかもいっしょに作ることで、プロのノウハウやポイントを見ることができる。だから初心者こそプロに作ってもらうのをオススメしたいです」と語る。
パートナーは、“プロを知っているプロ”であるサイボウズに紹介してもらう。予算や課題などオーダーのみならず、とにかくいろいろなことを話すことで、よいパートナーを探すことができるという。その結果、望月氏はkintoneを用いた月額課金型のシステム開発を提供するミューチュアル・グロースというkintoneパートナーを得ることができたという。
パートナーは決まった。次はどのようにkintoneアプリを作っていくか? 望月氏は、「初心者こそプロ」に続く2つめのkintoneビギナーだからこその工夫として、「kintoneで全部できなくてもいい」という割り切りを挙げた。「システム化やフォーム化は一から十まですべてやりたくなるのが常。でも、カスタマイズしないとできないこともある。使う人がみんな初心者であることを前提にとりあえずカスタマイズしないということに決めました」と望月氏は語る。
こうしてできた申請業務アプリはkintoneの標準機能でアプリを作り、プラグインを組み合わせたもの。トヨクモのkViewerで専用マイページ、FormBridgeで申請フォームを作ってあるので、出店者はいつでも申請情報の登録や変更が行なえ、事務局にも通知される。また、各種申請書類はソウルウェアのRepotoneUで帳票出力され、保健所などへの提出にも対応する。「イベントによるが、6~9割は紙が削減できた」と望月氏は語る。
逆にカスタマイズなしでの再現が難しい図版はシステム化せず、そのまま紙で残した。また、初心者どころから、そもそもkintoneユーザーですらない出店者に向けては、FormBridgeで作ったフォームに記入の説明や注意事項などを細かく指示した。それでもどうしてもできない人は、今まで通りExcelや紙を用意して、事務局でkintoneに入力したが、数社だけの対応で済んだ。1000社からすれば微々たるものだ。「もともと紙のやり方を持っている強さがあるなと思った。kintoneやFormBridgeに不具合があっても、元の紙のやり方に戻れる選択肢がある」と望月氏は強調した。
そして、3つめの工夫は「アンケートをとる」ということだ。kintoneは一度作って終わりではなく、ユーザーの声を取り入れて改善していくことが重要。出店者にアンケートを実施したところ、「紙の方がよかった」という声は1%に過ぎず、「やり方が変わってよかった」が約50%、「前よりよくなったのでもっと改善してほしい」という声が約30%となったため、ユーザーの声を取り入れて、改善を進めているという。「使う人はみんな初心者」であることを前提とした仕組み作りが重要というまとめは、kintoneのみならず、すべてのシステムに共通した金言だと思った。
現場の声を元に改善した「拾得物管理」
続いての話題は、イベント当日でおもに発生する「拾得物管理」という業務だ。いわゆる落とし物の管理は「拾った」と「落とした」という2つのパターンがある。しかし、ここで両者が利用する「拾得物届」「紛失物届」は内容がほとんど同じで、結局いつ、どこで、誰が、なにを、落とした(もしくは拾った)かを書き込むことになる。そのため、望月氏らは拾得物届と紛失物届のアプリを作りつつ、それぞれを連携するようにした。
アプリ化にあたってはkintoneのアプリの色を分けるという工夫を行なった。まずはスペース内にアプリのショートカットを作り、ビジュアルや色でわかりやすいアイコンを作る。入力フォーム内も色を変え、拾得物届は青いアプリ、紛失物届は赤いアプリにしたので、似たような入力項目があっても間違えない。「赤のアプリ、青のアプリと説明すればいいので、今日はじめましてのアルバイトさんでも入力を間違えない」(望月氏)という効果があるという。
素晴らしいのは、拾得物届と紛失物届のアプリ同士で関連レコードをひも付けることで、落とし物を見つけやすくしたことだ。トヨクモのkViewerを使うことで、kintoneユーザーではないインフォメーションセンターからの情報も追加できるようになり、拾得物管理ではタイムリーな情報共有も実現した。これらの多くは現場の意見を反映したことで、実現した仕組みだという。
コロナ禍でECサイトの構築にチャレンジした話
そして業務改善が進み、次の企画に頭を悩ませていた矢先、新型コロナウイルスの襲来。緊急事態宣言以降は、東京ドームでのイベントも次々中止になり、さまざまな施設も休業。旅行が自粛されたことで、ふるさと祭りで毎年出店していたお店も困っていたという。そこでイベントチームと出店者で作ったのが、ご当地グルメをお取り寄せできる「ふるさと祭り東京おとりよせねっと」というECサイトだ。
当初は約30店舗くらいを想定していたふるさと祭り東京おとりよせねっとだが、スタート時は80店舗に膨らんだ。「260以上の商品が集まった。慣れないECサイトや在宅勤務ではあったが、なんとか1ヶ月弱でサイトをオープンすることができました」と望月氏は語る。
しかし、ECサイトは運営の安定がカギ。当初は受注した商品を各店舗に通知し、出店者ごとにメールするといった業務フローをまず確立し、数ヶ月かけてkintoneで効率化すればよいと考えていたが、初日の業務では3人で約6時間もかかってしまったという。「数ヶ月かけてやればいいかな、なんてそんなこと言っている場合じゃなかった。営業が回り始めたら、こんな仕事に6時間もかけていられない」と望月氏は振り返る。
こんな鉄火場でありながら、プロによるkintoneアプリ作成をすでに経験している望月氏。「ちょっとしたアプリなら自分で作れるし、相談できるプロも近くにいる」とポジティブにとらえ、できるところからkintoneによる自動化を開始した。ミスが起こりやすい作業も発生するため、ラベル等で注意や指示を明示。オススメなのは一覧で作業ステップを分けること。一連の作業が完了するたびにレコードが生成され、ボタンを押して、次の作業に進めるため、ミスも減った。初日3人で約6時間かかっていた仕事が、1週間後には1人でも1時間かからずに済んだという。
「今回は成功した話が多かったが、失敗したり、苦労したところもあった。本当はもっともっと話したい」と語る望月氏。最後は「私たちは人とひととのふれあいを通して お客様と「感動」を共有し、豊かな社会の実現に貢献します」という東京ドームの社是を引き合いに、出店者やパートナー、メンバーがチームになることで初めて業務改善が実現できたと指摘。まだkintoneを導入していない社内のメンバーや視聴者に向け、「業務改善は人とのつながりなのではないかと思いました」とメッセージを発した。そしてセッションを締めたのはこのフレーズだ。
「次回は東京ドームシティでお会いしましょう!」
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