このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

世界5リージョンのシステムをAWSへ移行/統合、クラウドジャーニーの成功は「見直しフローをつねに回す」に尽きる

念願のグローバルITインフラ統合を実現、サントリーに学ぶ成功の秘訣

2020年11月04日 07時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

AWS移行後の評価ポイント、オンプレミスとは異なる新たな課題

 日本での本番稼働を無事に迎えたサントリーアイランド2プロジェクトだが、加藤氏はAWSクラウド移行後の評価点として以下を挙げている。

・稼働率 … ITインフラの稼働率が向上し、調達のリードタイムが大幅に短縮され、グローバルへのサービス提供もスピードアップ
・コスト削減 … グローバル全体で契約したことでボリュームディスカウントが最大化、移行コストに関しては「Migration Acceleration Program」を活用し大幅に低減、ハード/ソフトの資産管理からも解放され老朽化対応コストをゼロに
・グローバル統合 … グローバルでの運用統合およびシェアードサービス化によるコスト削減と知見の一元化が実現
・グローバル標準化 … ITインフラのサービスレベル/品質がグローバルで均一化され、セキュリティサービス統一によりレベルが底上げ

 これらに加え、AWSクラウド移行がもたらした最大のメリットは、今後の収益増を支えるインフラ基盤をグローバルにまたがって構築できた点だろう。とくにインフラコストの劇的な削減は収益にも大きな影響を及ぼす。今後は、インフラのレベルが上がればビジネスのレベルも上がっていくという相関性をさらに示していく段階になるだろう。

 一方、AWSクラウドへの移行中や移行後においては、オンプレ時代にはなかった新たな課題も見えてきている。たとえば、データ移行に想定以上の時間を要したり、オンプレ時代のパフォーマンスが出ない(とくにストレージ周り)、アベイラビリティゾーン(AZ)の冗長構成によるレイテンシの増大、性能テストでの障害多発、などだ。

 とくに興味深いのがデータ移行に関する課題で、当初はAWSのペタバイト級データ転送サービスである「AWS Snowball」を利用してみたが、「とうてい受け容れられるレベルのダウンタイムではなかった」(加藤氏)ことから、Direct Connectの帯域幅を増幅し、移行先であるEC2のインスタンスタイプをアップグレードすることで対応したという。また、ストレージ周りはオンプレミスと最も勝手が違う分野であり、パフォーマンス劣化にはかなり悩まされたと語る。「オンプレミス時代はストレージがボトルネックにならないよう、高性能な製品を採用してきたが、クラウドの設計ではその実現が難しく、マウントオプションやチューニングに苦労した」と加藤氏は振り返っている。

 これらの課題は今後、AWSの大企業向けサポートサービスである「AWS Enterprise Support」を通してAWS側とつねに共有し、パートナー企業も含めて協業して解決にあたっていくとしている。

日本での移行作業で見えてきたAWSクラウドにおけるおもな課題。いずれもサントリーのようなエンタープライズ企業だからこその課題であり、多くの日本企業がチェックすべきポイントでもある

クラウドネイティブなデータ基盤の構築も検討、グループ全体のDX基盤へ

 AWSクラウドへの移行は、オンプレミスとは異なるモダンなインフラ基盤を手に入れた企業が次にどういう取り組みを進めていくか、という移行後のアプローチも重要な指標となる。加藤氏は今後、AWSが提供するクラウドフレームワーク「AWS Well-Architected」に準拠し、グローバル全体でセキュリティ対策強化や運用の継続的改善、障害復旧、AWS人材のさらなる育成などに努めていくとしている。

AWSクラウドに統合したことで今後サントリーがインフラ運用で目指す取り組みの一覧。基本的にAWS Well Architectedに準拠するかたちで行われるという

 それに加えて加藤氏は、移行プロジェクトを完了した日本での取り組みとして、小売店などからのデータを集約し可視化する一元的なデータ管理プラットフォーム(DMP)の構築を検討していることも明らかにしている。「あらゆる分析をAWS上で行えるようにしたいと考えている」(加藤氏)という狙いで、AWSのビッグデータ系の各種マネージドサービスやコンテナサービス、サーバレスサービスを駆使して、サントリーグループ全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)基盤へと成長させたいと述べた。

現在、日本で検討しているクラウドネイティブなデータ基盤の構成図。統合インフラはEC2やDirect Connectをベースにしているが、こちらはAWSのマネージドサービスを組み合わせたプラットフォームを想定している

* * *

 最後にもう一度、アンディ・ジャシー氏が提唱した“クラウドによるトランスフォーメーションを成功させる企業”の4つの条件を挙げておく。

 1. シニアリーダーシップチームの強い決意と協力体制
 2. トップダウンでのアグレッシブなゴール設定
 3. 人材の育成
 4. 最後までやりきる

2019年のre:Inventでアンディ・ジャシーCEOが壇上から紹介した、トランスフォーメーションを成功させる企業の4カ条。ジャシーCEOはこれをヴァン・ヘイレンの「Right Now」に乗せて紹介した

 サントリーグループの移行プロジェクトはこの4条件をすべて満たしているが、やはりサントリー自身が「最後までやりきる」というゴールを明確にしていたこと――すべてのリソースをAWSに移行させるという意思を、プロジェクトリーダーや関係者が強く意識していたこと――が大きいだろう。ユーザ企業みずからがリーダーとなってトップダウンを発揮し、明確なゴールを描いて、新しいアーキテクチャへの人材投資を行い、最後までやりきったサントリーの移行プロジェクトは、ユーザ企業のリーダーシップが成功へと導いた日本発のケースとしてはもちろんのこと、グローバル統合インフラによるサントリーグループの今後のビジネスへ貢献という点でも注目される。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード