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業務を変えるkintoneユーザー事例 第92回

kintoneの可能性を広げると、人の可能性が広がる

チームで開発に取り組んだリゾートトラスト、kintoneの社内展開を語る

2020年10月28日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 kintone hive tokyo 2020に登壇したリゾートトラストの吉原徹朗氏は、メディカル事業でのクレジットカード決済をきっかけに使い始めたkintoneの導入プロセスについて説明。チームでkintone開発に取り組み、その可能性に気づいたことで、現場を巻き込んだ社内展開が可能になったという好事例だった。

リゾートトラストの吉原徹朗氏

チームで挑んだメディカル事業でのkintone導入

 1973年創業のリゾートトラストは「ベイコート倶楽部」や「エクシブ」などのブランドで会員制のホテル事業を展開しており、国内のシェアはNo.1となっている。同社はホテル・レストラン事業のみならず、ゴルフ、メディカル、シニアライフなどの事業を展開しており、全会員数は18万人を超える。今回のkintone導入事例は、登壇者の吉原徹朗氏が所属するメディカル事業が対象となる。

 リゾートトラストのメディカル事業は3つの柱がある。まず高度なガン検診も含む人間ドックを提供する「グランドハイメディック倶楽部」という会員制サービスで、入会金300万円にも関わらず、2万人を超える会員がいるという。また、一般向けの医療検診も展開しており、こちらは年間の検診受診者が50万名を超える。さらに、エイジングケア事業ではサプリメントや化粧品の開発・販売を手がけているという。

リゾートトラストのメディカル事業

 登壇した吉原氏は、大学では生物学を専攻していたが、不動産デベロッパーの森トラストに入社し、その後リゾートトラストに転職。現在はメディカル本部のメディカル事業企画部の副部長を務める。「リゾートトラストに入社してからは、おもにファイナンスや事業企画関連のM&Aを手がけてきて、経歴的にITを扱ったことがない。普段はExcelを使っているくらい」と吉原氏は語る。

 また、あわせて3人のチームメンバーも紹介。kintoneを見つけた人でもあり、実行部隊でもある辻村氏、当初は別部署だったのにkintoneを開発していたら同じ部署になったというシステムエキスパートの小林氏、そしてサポート役だったにも関わらず、kintoneに魅せられてシステムを勉強するまでになった普及役の北村氏の3人だ。「この一人でも欠けていたら、いまの状況はなかった」と吉原氏は語る。

 今回のkintone導入の発端は、前述した会員制人間ドックサービスの「グランドハイメディック倶楽部」のクレジットカード決済の導入だ。システム開発を手がける辻村氏が抱えた課題は、いくつかあった。まず同社の営業スタイルは訪問型であるため、300万円の入会金の決済と、4万6000円という月会費の継続課金登録を外出先で行なう必要があった。

 そのため、すぐさまモバイルクレジットカード決済端末を導入したが、今度は決済情報と顧客情報のひも付け、誤入力や誤決済の防止が必要という課題が出てきた。しかも、サービスローンチまでの時間は限られているし、コストも抑えたい。吉原氏と辻村氏は必死で調査し、さまざまなベンダーにヒアリングした結果、kintoneに行き着きいた。サイボウズの日本橋オフィスで相談し、導入を即決。「一番評価したのは自分たちでカスタマイズができ、外注いらずでスピード感をもって開発できるという点でした」と吉原氏は語る。

悩んでいたkintone開発の悩み、相談したら「秒でできる」の即答

 さっそく辻村氏は、クレジットカードの利用スキームを描いた。まずはkintoneに顧客管理アプリを作る。ここに顧客情報を入力すると、顧客番号や契約番号が発番されるので、これらをクレジットカードの決済情報とひも付けるという方法だ。しかし、キモとなる自動発番と決済システムとの連携がどうしてもうまく行かなかった。JavaScript対応やAPI連携が基本機能ではできないということを、辻村氏はこの段階で初めて知ったのだ。

kintoneでのクレジットカード決済の利用イメージ

 困った辻村氏が隣の部署であるシステム開発部の小林氏に相談したところ、小林氏は「秒でできる」と力強く即答。辻村氏がイメージを手書きで説明したところ、小林氏はあっという間に実装してしまった。こうしたスペシャリストが社内にいたというのは、今回の事例の大きな特徴と言える。「kintoneは確かにプログラミングなしで業務システムを作れますが、コーディングで機能追加できる点も魅力であり、アジャイルに開発できることに感銘を受けました」と吉村氏は語る。

「秒でできる」と即答

 具体的にはkintoneで顧客情報と契約情報を入力し、保存ボタンを押すと、顧客に見せるための契約内容の一覧が表示される。「確認」ボタンを押すと、契約番号と顧客番号が発番され、次の画面では「確認メールの送信」や「クレジットカード決済」など営業マンがやるべき処理がメニューとして表示される。そして、「クレジットカード決済」を押すと、別のクレジットカード決済ソリューションが起動し、契約番号と連携した画面が開くので、カードリーダーを使ってクレジットカード決済を行なえばよい。

 クレジットカード決済という目の前の壁をカスタマイズ可能なkintoneによって超えたことで、チームではさまざまな業務でkintoneを試すようになった。「究極的には自分たちの発想次第で僕たちはなんでもできることを確信しました。自分たちの発想の幅や可能性を広がりました」と吉原氏は語り、kintoneを社内に拡げていくことにしたという。

 ただ、kintoneを社内展開する上では単に「kintoneを使ってください」というだけでは、kintoneの価値に気づいてもらえないと考えた。現在の業務が忙しく、新しいことへの抵抗感を持つ人もいるし、システムに対する苦手意識を持つ人もいるからだ。一方で、業務改善への意識はあるため、やり方やきっかけを与えれば、自発的に取り組めると考えたという。

kintone開発に現場が主体的に取り組む

 そのため、まずは自分たちのkintone体験を追体験してもらうべく、Excelや既存のシステムでできないことをkintone上で実現できることを見せた。たとえば、経理管理アプリからはリアルタイムで会員数を見ることができる。今までは経理の〆から算出していたため月1回の更新だったが、現在では契約番号のアプリを参照しすることで、リアルタイムに見られるようになった。

 しかも開発は現場の担当者に任せた。「僕らがヒアリングして、アプリを開発しても、表面的な課題解決にしかならないと考えています。実際に手を動かしてkintoneを使ってもらうことで、『もっとこうしたい』『あれもできるのでは?』という気づきを得てもらえると思いました」と吉原氏は振り返る。こうすることで、ワクワクや面白いと感じてもらい、自発的なサイクルが生まれると期待したわけだ。また、吉原氏や辻村氏などのチームは単にシステム的なフォローを行なうだけだけではなく、現場の担当者といっしょになぜその業務を行なう必要があるのかを問い続けながら、現場と伴走した。

現場の担当者に開発を任せ、現場と伴走する

 吉原氏は、そんなアプリの一例として、人間ドック受診後のアンケートをとるアプリを披露した。今まで紙だったアンケートをkintone化すれば、Excelへの転記は不要になり、集計もリアルタイムになる。これも現場から生まれたアイデアで、施設の担当職員がフォーム部分、吉原氏のチームからは北村氏がHTMLやCSSを駆使してデザインを行なった。北村氏はもともとサポート役だったが、kintoneの可能性に感銘を受け、独学でHTMLやCSSを勉強し、カスタマイズのスキルを身につけたという。「彼女こそkintoneと人の可能性を体現している人物。彼女の成長がなければ、このアプリも生まれなかったし、社内のkintoneの普及もここまでならなかった」(吉原氏)。今後はSMSを使ってkintoneの輪を社内から社外に拡げていく予定となっている。

 最後、吉原氏は「kintoneの可能性を広げることが、自分自身の可能性を広げること。実際、僕もkintoneに出会わなければ、システムの勉強はしなかったし、業務改善のアイデアもいまほど出てなかった」と語る。そしてなにより重要なのは、やはり一人ではなく、仲間といっしょにチームで取り組んだことだと結んだ。

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