ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第586回
Ice Lake-SPは2021年第1四半期に遅延、Elkhart Lakeの機能追加に仰天 インテル CPUロードマップ
2020年10月26日 12時00分更新
Elkhart LakeはArm Cortex-M7コアを搭載
機能安全とリアルタイム処理をPCH側に実装
連載585回でElkhart LakeことAtom x6000Eシリーズについて少し触れたが、そろそろOEM筋からこのAtom x6000Eシリーズを搭載したシングルボードコンピューターやCPUモジュールなどが出てくることもあって、いろいろ情報が出てきた。この中でとんでもない情報を見つけてしまったので、最後にご紹介したい。
Atom x6000Eシリーズは組み込み向け、特に産業機器向けを意識した製品ということもあり、意欲的な実装がなされている。具体的に言えば機能安全のサポートと、PSE(Programmable Service Engine)と呼ばれるリアルタイム処理のハンドリングである。
まず機能安全。自動車向けなどでは最近おなじみであるが、要するに安全にかかわるところ(自動車で言えばアクセルやブレーキの制御。産業機器で言えば電車のモーター制御など)の場合、故障率を猛烈に下げるとともに、壊れ方をきちんと制御する必要がある。「コントローラーが壊れて暴走しました」は許されないからだ。
こうした用途に向けて、自動車ならISO 26262、産業機器ならIEC 61508という規格が定められている。Atom x6000Eの場合はIEC 61508 SIL 2という規格に準拠可能になっているが、この規格を満たすためには、CPUコアの動作を常に監視し、異常があったら即時止めたり他のCPUコアに制御を移すといった対応が必要になる。このためにAtom x6000Eは、Intel Safery Islandと呼ばれる、新たなCPU監視機構をAtom x6000Eに実装した。
次がリアルタイム処理の話。例えばブラシレスDCモーター制御などをやっていると、負荷状況やローターの位置に応じて、細かく電圧を制御する必要がある。これをLinuxのような仮想記憶をサポートしたOSでやると絶望的に間に合わない&あるイベントが発生してから制御ルーチンが呼び出されるまでの時間(これを最悪応答時間という)が読めないという問題もあり、普通は別にMCUなどを用意してこちらにやらせていた。
ところがAtom x6000Eでは、なんとArm Cortex-M7コアを搭載。ここにリアルタイム制御をさせるという離れ業でリアルタイム性を実現するとしている。
問題はこれの実装だ。Elkhart LakeはCPUとPCHの2つから構成されるMCMなので、てっきりSafety IslandとPSEはCPUダイの側に搭載されていると信じて疑わなかったのだが、なんとこの両者はPCHの側に搭載されていることがわかったのが一番驚いたことだ。
なぜこれがとんでもないか? 例えば機能安全を使う場合、Safety IslandはほぼCPUの1サイクルごとに動作を確認する必要がある。Elkhart Lakeは4コアなので、1サイクルに4コア分のCPUコアの動作を常に確認しないといけない。この確認ロジックがPCH側にあるということは、つまりCPUとPCHをつなぐDMIの帯域のかなりの部分が、下手をするとSafety Islandの処理のためだけに占有されてしまうことになりかねないからだ。
機能安全は他のなによりも最優先されるため、「今ファイル転送中でDMIが一杯なのでちょっと待ってね」というわけにはいかないから、そのファイル転送を中断してでも確認の通信を実行する必要がある。これは壮絶に性能にインパクトがあることが予想される。
PSEも同じである。PSEそのものはCortex-M7で、CPUとは独立して動くため、PSEで割込みを受けてPSEで処理して返して終わり、なら別に問題はない。が、そんな要件だったらそもそもElkhart Lakeを使う必要もなく、Cortex-M7搭載のMCUを使った方が早い。
Elkhart Lakeを使うのは、そのリアルタイム処理を受けて、Atomコアの方でも処理を実行したいからであり、となるとこれまたPCHをPSEの通知などデータ通信のために、ある程度の帯域を確保しておく必要がでてくる。
なんというか、どうしても「機能安全」と「リアルタイム処理」という売り文句を使いたいがために、無理やり実装しました感が漂っている。果たしてこれで機能安全に対応したシステムを組んだお客さんがどの程度いるのか、1年後などに聞いてみたいものである。

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