昨今のモバイル業界のビックニュースと言えば、NTTによるNTTドコモの完全子会社化だろう。その直後の楽天モバイルによる5G開始のインパクトが薄れてしまうぐらいの驚きだったが、首相の交代に関係なくモバイルキャリアは激動期にある。
海外の大手キャリアも元をたどれば、国営企業からスタートしている例は多いのだが、国をまたいだ参入により絶えず競争にさらされてきた欧州、特にイギリスとフランスの歴史を見てみたい。
British Telecomは自社発のO2を切り離したあと、
別のキャリアであるEEを買収という不思議なルート
英国でNTTに相当する企業がBritish Telecomだ。元々は19世紀後半にまでさかのぼり、複数の電報電信企業が郵便電信部門の下に吸収されて誕生。その後に電話の事業も開始した。通信のみを切り離してBritish Telecomとしてスタートしたのは1981年、その3年後の1984年に民営化された。略称の「BT」が正式に社名になったのは1991年だ。
移動通信では、1985年にジョイントベンチャーとしてCellnetをスタート。ドイツ、アイルランド、オランダでも事業を展開し、その後のmmO2としてスピンオフ。その後、現在のO2となる。O2は2006年、これまたスペインのNTT的な存在であるTelefonicaの英国事業、Telefonica UKに買収された。
O2といえば、ちょうど1年前に盛り上がったラグビーワールドカップで準優勝した、イングランドチームのロゴをまだご記憶の方もいるかもしれない。サッカーでは一時期、アーセナルのユニフォームの正面に同社のロゴが飾られていた。日本とのつながりで言えば、NTTドコモの「iモード」をイギリス国内でスタートしたキャリアでもある(ただし、わずか2年で終了)。
BTに話を戻すと、BTは2015年に同国の大手キャリアのEEを買収した。ちょっと複雑だが、このEEは以前は“Everything Everywhere”という、いかにも英国っぽい面白い企業名で、フランスのOrange(Orange UK)、ドイツのT-Mobile(T-Mobile UK)の英国事業が合体して2010年に誕生した。
OrangeもT-Mobileも、それぞれ旧国営のFrance Telecom/Deutsch Telekomの流れを組んでおり、それまでは英国で独立してサービスを展開していた。その前のO2とTelefonica UKの合体などにより競争は激化しており、効率化が不可避だったというのが当時の事情だ。英国ではネットワークシェアリングなどが始まっており、自社ですべてのインフラを整備するコストが大きな負担になっていた。また、テレコムバブル崩壊につながる3Gの周波数オークションで、各社はどこも体力を消耗してしまってもいた。
BTは、自社から生まれたO2ではなく、まったく別のEEを傘下に入れるという大激動であるわけだが、一旦は切り離したモバイル事業がやはり必要と考えた背景には、固定通信との相乗効果などもありそうだ。
その英国のキャリアと言えば、Vodafone。日本で展開していたのはもう15年前の話だが、記憶に残っている人も多いだろう。VodafoneはBT民営化の翌年に誕生(軍用の通信機器Racal ELectronicsが源)、ドイツのモバイルネットワークを所有していたMannesmannの買収を機に、小さな国が集まるという欧州の立地を活かして早々に国際展開に舵を切った。Vodafone Spain(スペイン)、Vodafone Germany(ドイツ)、さらには中東、アフリカ、インドなど、さがながら大英帝国を思わせる勢いで、世界地図をコーポレートカラーの赤に塗り替えた。
イギリスにはこのほか、3Gサービス開始を皮切りに新規参入したThree(3)もある。
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