「5Gはネットワーク構築だけでなく活用促進も重要」、そのための戦略と強みも示す
シスコ、新年度戦略は「ニューノーマル対応と日本のデジタル化」支援
2020年10月09日 07時00分更新
シスコシステムズ 日本法人が2020年10月8日、2021会計年度(2020年8月~2021年7月期)の事業戦略説明会を開催した。「お客様の『ニューノーマル』への対応」「日本のカントリーデジタイゼーション」の2つを重点戦略として掲げ、加えて昨年度大きな事業成長を果たした「5G」領域の3つで具体的施策を説明。さらに、今年度日本市場に投入予定の新ソリューション群についても紹介した。
昨年度の業績は好調、「ニューノーマル対応」「デジタル化」支援に注力
日本法人社長のデイヴ・ウェスト氏はまず、昨年度(2020年度)の同社事業成果を振り返った。昨年度の業績は好調で、一昨年度(2019年度)に続いてグローバルのシスコで最も高い収益を上げた「カントリーオブザイヤー」も受賞している。
「業績が好調だった理由は3つある。顧客やパートナーと共にきちんと戦略を実行できたこと、顧客のイノベーションを支援できる最適なソリューションを提供できたこと、そして『日本のデジタイゼーション』や『働き方改革』への貢献やシスコ自身のビジネス変革にコミットし、そこに注力できたことだ」(ウェスト氏)
シスコ自身のビジネス変革については、エンドトゥエンドのアーキテクチャを持つソリューションの提供を加速したほか、リカーリングモデル(サブスクリプション型などの継続的売上モデル)での販売、さらにマネージドサービスプロバイダー(MSP)を通じた豊富なソリューション群の提供などに注力した。ちなみに、売上全体のうち30%がソフトウェアの売上だったが、そこに占めるサブスクリプション型の売上比率は、2018年度の50%から昨年度は78%まで増えたという。
昨年度の重点戦略として掲げていた「お客様・パートナーとの関係性深化」「日本のデジタイゼーション」「ライフサイクル全体のエクスペリエンス」の3点についても、確実に実行して成果を残せたと振り返る。
年度後半からは新型コロナウイルス感染拡大という大きな事象にも見舞われたが、東京オリンピックへの準備を進めていたこともあってすみやかにテレワークへの対応ができ、そうした状況下でもオンラインでハイタッチ営業を継続できたと語った。
2021年度の重点戦略については、まずそれを考える前提となる「顧客が現在抱える重要課題」に触れた。
たとえば、コロナ禍や多発する自然災害の体験を通じて、あらゆる企業で「ハイブリッドワークスタイル(オフィス勤務とリモート/在宅勤務の適切な組み合わせ)」や「災害への備え」が課題となっている。さらに、ビジネスのデジタル化に向けたイノベーションを繰り返し生み出すための「高い価値とROI」を備えるデジタルソリューション、デジタルサービスの提供で欠かせない「ユーザーエクスペリエンスの可視化」、そしてそれらを下支えする「セキュリティ脅威への対応」などだ。
こうした顧客課題をふまえたうえで、シスコジャパンでは、2021年度の重点戦略を「お客様の『ニューノーマル』への対応」と「日本のカントリーデジタイゼーション」の2つを支援していくことと定めた。また、これらの取り組みを支える土台として、プラットフォームベースの各種ソリューションの提供、そして多様な能力を持つ優れた人材をひきつける働きがいのある職場の実現を挙げている。
「シスコジャパンは、日本のインクルーシブな(包摂的な)未来を実現することに貢献したい。われわれの持つテクノロジー、イノベーション、デジタイゼーション、アジェンダ、こうしたものの活用で、日本社会のすべての人にとってのインクルーシブな未来が実現する。これはかなり難易度の高い目標、志だが、シスコはこのテーマに対してしっかりとコミットしていく」(ウェスト氏)
日本社会のデジタイゼーションと通信事業者の5G対応への支援
日本のカントリーデジタイゼーションを支援する取り組みについては、会長の鈴木和洋氏が説明を行った。
シスコでは、事業展開する各国においてこのグローバルプログラム(CDA:Country Digitization Acceleration)を実施している。各国の政府/教育機関/民間企業とパートナーシップを組みながら、デジタル化を通じた国/社会の課題解決や経済成長への積極的な支援と投資を行うものだ。
昨年度の戦略説明会で「日本のカントリーデジタイゼーションに取り組む」方針を明らかにしていた鈴木氏は、この1年間の各注力分野における成果を紹介した。トラベル、ツーリズム&トランスポーテーション(TT&T)、デジタルワークプレイス、パブリックセーフティ、インダストリー4.0、デジタルスクール、5Gインフラという6つの分野で、それぞれ国内企業や政府機関/自治体とのパートナーシップを発表してきた。
TT&T分野での新たなパートナーシップとして、同日には東京都の「スマートポール実証実験」への参画も発表している。これは5GやWi-Fiの基地局、双方向デジタルサイネージ、人感センサーや環境センサーを内蔵したポールを屋外設置するもので、そこを通る人に高速通信や情報/サービスを提供するだけでなく、センサーデータに基づく環境モニタリングや人流解析も行えるという。「こうしたかたちで、都市の高度化、行政サービスのデジタル化を、東京都と一緒に進めていけるようにと考えている」(鈴木氏)。
また5Gの事業戦略については、サービスプロバイダー向け事業を担当する副社長 情報通信産業事業統括の中川いち朗氏が説明した。
中川氏はまず「昨年度は、(通信事業者などを顧客に持つ)サービスプロバイダー事業にとって非常にすばらしい年だった」と切り出した。好調な業績によるカントリーオブザイヤー受賞の牽引役となったのが同事業であり、「シスコの全事業セグメントの中で最も成長した事業」になったという。「そして、この成長を最も牽引したのが5G関連のビジネスだった」(中川氏)。
5Gのモバイルネットワークでは、ネットワークのインテリジェンスがコア側からエッジ側へとシフトするため、そのIP化が拡大する。これにより、シスコのテクノロジーが適用できる領域が大幅に拡大する。こうした背景から、シスコでは昨年以降、モバイルサービスプロバイダー各社との取り組みを相次いで発表している。その結果、IDC Japanによるサービスプロバイダーのルーター市場シェアは75.1%(前年比14.8ポイント増)と、大幅な成長となった。
中川氏は、こうした成長を継続するために掲げた今年度の5G重点施策は3つ。5G化でトラフィック需要がさらに増加し、400Gネットワークが今後の“主戦場”と位置づけられるなかで、「IPネットワークイノベーション」を図るために10Tbps ASICを搭載した「Cisco 8000シリーズ」ルーターの投入、従来の伝送レイヤーとIPレイヤーとの機能融合によるアーキテクチャ変革を進めていく。また、大規模IPネットワークの運用自動化支援、可視化やパフォーマンス監視の技術提供といった「ネットワークオペレーションの変革」、そして、これまで専業ベンダーが担ってきたRAN(無線アクセスネットワーク)市場に「風穴を開ける」(中川氏)取り組みである「無線アクセスのオープン化」である。
加えて中川氏は「シスコにとっては、5Gネットワークを構築することだけが目的ではない。いかに5Gを『使っていただけるか』も重要だ」と述べ、とくに企業市場における5G利用を促す施策を次のように説明した。
「5G時代には、一般消費者に加えて企業も主たる利用主体となる。企業が自動運転、スマートファクトリー、遠隔医療など、新しい5Gユースケースを実現するには、これまで別々に開発/運用されてきた企業側のエンタープライズネットワークと、サービスプロバイダー側のモバイルネットワークのシームレスな連携がその鍵になる。シスコは今後、(モバイルネットワークと)エンタープライズアーキテクチャとの連携ソリューションに注力していく。これは長年、両方のネットワーク市場で顧客を支援してきたシスコだけが実現できる世界だと自負している」(中川氏)
「レジリエンスを備えたアーキテクチャの提供」も
ウェスト氏はもう一点、2021年度にシスコが目指すテクノロジー分野として「レジリエンス(回復力)を備えたアーキテクチャの提供」というキーワードを挙げた。ネットワーキングや認証、セキュリティ、運用の可視化/自動化など幅広いソリューションを用いてエンドトゥエンドのアーキテクチャを構築できるとする。
このアーキテクチャをさらに強化する目的で、マルチクラウドとデータセンターのオーケストレーションやネットワーキングの自動化、ワークロードの最適化/自動化などを実現するSaaS「Cisco Intersight」、エンドトゥエンドのパフォーマンス可視化を実現し、AppDynamicsとも連携する「Cisco ThousandEyes」(今年5月買収)、SD-WANやセキュリティ、ID管理とも連携する「Cisco SASE」といったソリューションを提供していく。
「繰り返しになるが、シスコは日本社会のデジタル化、また顧客のニューノーマルへの対応を支援していく。これに強くコミットしている」(ウェスト氏)