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「営業スタイルは変化、ただし悪い数字は出ていない」、コロナ禍を日本の低生産性を高めるチャンスに

“ニューノーマルの営業”のコツは? セールスフォースの営業プロに聞く

2020年09月01日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴って、急速に広まったリモートワーク。バックオフィス業務だけでなく、これまで対面が当たり前だった営業/セールス業務も大きな変化を余儀なくされている。

 営業支援のためのSaaSを提供すると同時に、その洗練された営業プロセスにも定評のあるセールスフォース・ドットコム(SFDC)も例外ではない。同社で10年以上の営業キャリアを持つ営業のエキスパート、伊藤靖氏に、現在のコロナ禍に対応した営業活動の実態を中心に話を聞いた。

セールスフォース・ドットコム 執行役員 広域営業本部 本部長の伊藤靖氏

セールスフォースがあわてることなくテレワークにシフトできた理由

 セールスフォースでは、自ら培ってきた“The Model(ザ・モデル)”と呼ぶ組織営業のベストプラクティスモデルに基づいて、営業および顧客支援体制を敷いている。The Modelでは、営業プロセスを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス(外勤営業)」「カスタマーサクセス」の4ステップに切り分けており、それぞれを担当する部門が配置されている。

セールスフォース“The Model(ザ・モデル)”の概要(画像は同社サイトより)。4つの段階それぞれを担当する部門があり、各段階でのKPIも明示されている

 その中でも「インサイドセールス」はセールスフォースの特徴ともいえる部分で、見込み客に対して聞き取りをするなど、フィールドセールス(外勤営業)の前段階として重要なステップとなっている。伊藤氏は2008年に入社したのち11年間にわたち、インサイドセールスの組織運営を進めてきた。現在は広域営業本部の本部長として、名古屋を活動拠点に、東京と大阪を除く全国の営業部門を統括する立場にある。

 それでは、セールスフォースにおける新型コロナウイルス感染拡大の影響はどうだったのだろうか。

 2月末、政府が全国の学校に対して臨時休校を要請したのと同じころ、セールスフォースでも自社主催のイベントやセミナーを制限し、社員にはテレワークを推奨した。さらに4月に入ってからは各オフィス拠点を閉鎖。その後、6月から部分的にオフィスを再開しているという状況だ。

 電話やメールでの顧客対応が多いインサイドセールスはもともと内勤であり、比較的影響は少なかった一方で、顧客先に訪問するフィールドセールスは「やり方が大きく変わった」という。3月ごろはまだ顧客訪問を行っていたが、それと並行して「訪問禁止」になった場合に備える準備も進めていたという。実際に、4月になると社内ルールで訪問営業活動を禁止することになったが、準備ができていたため「懸念や不安点を取り除いた形でスタートできた」と伊藤氏は語る。

 また、コロナ以前からテレワークの推進に取り組んでいたことも、スムーズな切り替え実現につながったという。遠方で移動時間のかかる顧客についてはリモートでの“訪問営業”を行っていたほか、2019年7月の「テレワーク・デイズ2019」には全社規模で参加している。なお、今回の在宅勤務移行においては、自宅環境を整えるために必要な機器購入について最大250ドルまでを経費として認める支援も行っている。

アポイントが取りやすくなり、“チーム営業”も実現が容易に

 4月から完全な「Web中心の営業スタイル」に切り替えているセールスフォースだが、「これまでとは違う点がいくつかある」と伊藤氏は指摘する。

 たとえば、マーケティング段階の営業活動として見込み客を獲得する「セミナー」の開催は、すべてWeb開催のウェビナーとなった。ウェビナーでは場所移動の制約がなくなったため、参加申し込みは「過去の数倍レベル」で増えている。ただし、気軽に参加できるようになった結果として、製品に対する関心がそれほど高くない参加者も多く混じるようになったという。そこで同社では、インサイドセールスのステップを活用して、見込み客のフィルタリングを行うことにした。最終的には、これまでと同等の期待効果が得られているという。

 また、インサイドセールスやフィールドセールスの段階においては「顧客とのアポイントが取りやすくなった」と伊藤氏は語る。オンラインは移動時間ゼロで済むため、顧客の都合に合わせて時間設定がしやすい。さらに、営業担当者だけでなくSEやソリューションエンジニア、役職者なども参加するチームでの営業活動でも、時間調整が容易であるメリットが生きてくる。伊藤氏自身も、本部長として同席する案件の数が増えて「忙しくなった」と語る。

 「営業スタイルに変化はあっても、数字に悪い影響は出ていない。セールスフォースでは常に成長が求められているが、成長に関する数値という点ではほぼ期待通りの結果が出せている。1年前と比較しても、大幅な増減は感じていない。新型コロナの影響で新たな取り組みをストップしたお客様もいるが、一方では『今がチャンス』と捉え、腰を据えてデジタル化を進めるお客様もいる」(伊藤氏)

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