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セールスフォースが作る市場と雇用が急拡大 エコシステムの強みはどこにあるか

2021年11月18日 11時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 セールスフォース・ドットコムは11月8日、「Salesforceエコノミー」に関して発表した。これはセールスフォース自身と、Salesforce上で動くアプリケーションのマーケットプレイスである「AppExchange」、および導入コンサルティング、開発パートナー企業によるエコシステム全体の市場規模を積み上げた市場規模で、IDCがグローバルで調査、予測を行なったものだ。

2026年までに世界で933万人の雇用を創出

 発表では、2026年までにSalesforceエコノミーの売り上げ規模は全世界で1兆6000億ドルとなり、同時に933万人の雇用が新たに生み出されると予想している。このうち、日本においては収益970億ドル、雇用は44万人となるとみている。

 SaaS市場の牽引役の1社であるSalesforceと、その関連市場が拡大する理由について、セールフォース・ドットコム常務執行役員 アライアンス事業担当の井上靖英氏に聞いた。

セールスフォース・ドットコム常務執行役員 アライアンス事業 井上靖英氏

 井上氏は、日本におけるSalesforceエコノミーが拡大している理由を次のように話す。

「一つは、SaaS市場そのものが、すごい勢いで伸びているということ。米国はもちろん、日本も負けじと伸びている。IDCの調査では、日本で2020年~2026年のCAGR(年平均成長率)の予測は14%となっている。日本においてセールスフォースは、この成長カーブよりも高い成長を続けてきたため、今後も高い成長が見込める。その上で、セールスフォースのエコシステムの成長は、当社よりもさらに上をいくスピードで進んでいくという予測が出ている」

 IDCの調べでは、日本で2019年にセールスフォース自身が上げる収益を1とすると、パートナーエコシステム全体が生み出す収益は4.79倍だった。これが2026年になると、6.19倍に拡大すると予測している。「つまり当社が成長していくよりも、エコシステムが高い成長を続けていく。これがポイントだ。SalesforceはCRMから始まり、コマース、マーケティング、サービス領域の製品をリリースし、さらにBIのTableau、コミュニケーションのSlackと製品ラインナップを拡大してきた。その導入支援、定着化支援を担うマーケットも大きくなっている」(井上氏)

業種に特化したアプリも提供するAppExchange

 エコシステムの中核となるのが、AppExchangeだ。これはSalesforce上で動く企業向けアプリケーションのマーケットプレイスで、世界で5000近い数のアプリが流通しており、日本でも300を超えるアプリが登録されている。グローバルでSalesforceの顧客の86%はAppExchangeを利用しており、延べ900万回以上ダウンロードされている。同社の売り上げ成長率を大きく超えるスピードで成長を続けているという。

「Salesforceを使っていて、周辺の機能が必要になったときに、AppExchangeのアプリを使えば一から作る必要がない。例えば、帳票印刷の機能や、請求管理のワークフローを自動化したい、あるいは勤怠管理など、マーケットプレイスを検索すれば、該当する機能を見つけることができる。しかもそのアプリはSalesforceとの連携が保証されているので、すぐに使うことができる。大変満足度の高いエコシステムができあがっている」(井上氏)

 AppExchangeが最近力を入れているジャンルに、業種別のアプリがある。例えば金融向けでは日本システム技術の「Cloud BankNeo預り管理」は、預り業務という金融機関の独特なワークフローに特化し、効率化するアプリだ。

 井上氏は、これからの業務アプリは単に使えるだけではだめで、他のアプリとつながることが重要だと話す。「アプリ単体の価値だけでなく、そのベンダーがエコシステム全体でどのような価値を提供できるかが、顧客企業のアプリの判断基準になってきている」

 SalesforceといえばCRMというイメージがあり、企業ではまず営業部門が顧客管理に導入し、そこから他の業務にも広がっていくという印象がある。しかし今では、その流ればかりではないと井上氏は言う。

「顧客とつながる前に、まず社内がつながっていなければいけないということに経営者が気づき始めた。社内の業務のワークフローを連携させる、Salesforceをプラットフォームとして使うという事例は、日本が海外よりもむしろ早く進んでいる。2008年に日本郵政に導入されたときも、CRMでなく、社内のワークフロー構築のためだったし、今年発表した三菱UFJ信託銀行の事例も、社内ワークフローのペーパーレス化にSalesforceを活用している。入り口がCRMだけではないというのは、確実にいえることだ。そこがむしろ強みとなっている」

Slackでエコシステム同士をつなぐ

 エコシステムというと、どうしても自社製品を核に据えて、その中に顧客を囲い込んでいくイメージがあるが、井上氏はその考えを否定する。

「つながるというニーズは在宅勤務が一般化した時代に特に重要度を増している。Slackを買収したことに表れているが、バラバラのシステム同士を使い続けるのでなく、Slackをユーザーインターフェースにして、そこから全ての業務を動かせるようにしていきたいと考えている。ハイブリッドワーク時代の生産性を高めるために、エコシステムのつながりがすごく重要になる」

 このAppExchangeを利用して、新たに起業するスタートアップも登場している。セールスフォースではスタートアップ支援のためのCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)である「Salesforceベンチャーズ」も運営しており、日本でも数多くのスタートアップに投資を実施してきた。その中には順調に成長し、株式上場を果たした企業もある。「日本のSaaS市場はさらに伸びると確信している。優れた経営者も数多く出てきており、量と質の両面が充実している」

 ベンチャー企業がセールスフォースのエコシステムに乗るメリットは2つあると、井上氏は語る。1つは、基本的なワークフローの仕組みなどが用意されているので、コアの競争力の部分を作れば、全てをスクラッチで開発しなくても済む開発生産性のよさである。もう1つは、セールスフォースがマーケットの開拓を積極的に進めており、そこと協業することで、新たな顧客を獲得できる点だ。

Salesforce開発パートナーは500社を超える

 SaaSを企業が導入し、課題を解決していくためには、外部のパートナー(ベンダー)の力が欠かせない。システム導入を支援するパートナーネットワークについてはどうか。

「コンサルティングパートナーをはじめ、企業にSalesforceおよびエコシステムのアプリケーションを導入してくださるパートナーは、すでに500社以上存在している。今後も増える見込みだ。Salesforce導入パートナーの特徴は、従業員が5名以下の小規模事業者から、10万人を超える大企業まで、それぞれに強いインテグレーターが均等に揃っていることだ」(井上氏)

 AppExchangeの成長に加えて、あらゆる規模の企業に対応した導入パートナーがいることも、Salesforceエコノミーが拡大する原動力になっていると井上氏は語る。

「顧客は課題の解決や変化に対する対応を急いでいる。SaaSを使う場合でも、一から始めるには時間がかかる。そのため開発パートナーは、システムをテンプレート化して、用意している。これが顧客企業の要求に応える対応力、強みになっている」

 業種別では、製造、金融、そして公共部門に強いパートナーの獲得に力を入れてきた。また、最近はセールスフォースが小売業界、医療業界向けに独自でクラウド製品をリリースしており、これらの業界に強いパートナーも増やしているところだ。

開発ベンダー同士の連携と協業も必要な時代

 セールスフォースでは、単にエコシステムへの参加を呼びかけるだけでなく、参加した企業がビジネスを拡大できるように支援プログラムを提供している。加えて、今、強化しているのが、プロジェクトマネジャー(PM)の育成プログラムだ。「プロジェクトが増えてくると、より効率的な進行管理が求められるようになる。外資のソフトウェア会社で、PM育成まで踏み込む企業は少ないと思う」。すでに日本法人独自のプログラムとして、クロスクラウドで複数のモジュールを導入する人材を育成するプログラムを開始している。また基本的なPMのスキルを手軽に学べるプログラムも用意している。

 新しい取り組みとして、パートナー(ベンダー)間で連携するプロジェクトも始めている。「顧客の要望は大規模で複雑化しており、1社で全てを解決できない。エコシステム全体で課題を解決するというスタンスだ」

 経済圏というと、顧客を囲い込むイメージがあるが、井上氏は「全くそうではない。あくまで、目的は顧客の生産性の向上、売り上げ、利益の成長にある。そのためにエコシステムで何ができるか、そこが重要になってきている」と話す。

 また、パートナー間には競争があり、顧客の争奪にはならないのだろうか。井上氏は次のように語る。

「当然、強みが重なっている部分では激しい競合がある。だが、パートナーは実のところそれぞれに強みが異なっている。フロントに強いところ、バックオフィスに強いところなど、さまざまだ。それぞれの強みを生かして相互補完ができると思う。顧客が求めているのは情報連携の実現で、バックもフロントも関係ない。複数社の組み合わせによってよりスピーディな提案ができることもある。パートナー各社の強みをしっかり把握し、顧客のニーズとのマッチングを図るのが、セールスフォースの役目だと感じている」

企業が求めているのは顧客接点のデジタル化

 DXの本質は「人との接点」の改善だと井上氏は話す。システムのためのシステムでなく、人が触る部分の接点をデジタル化することで生産性を飛躍的に上げたり、売り上げに寄与できなければ、システムを入れる意味がないという。

「セールスフォースは創業以来、デジタルの本丸は顧客接点ということで取り組んできた。顧客接点の市場は今後急拡大し、間違いなくITの本流になっていく。そこに気づいたパートナー企業が、シフトを始めているのだと思っている。デジタルの最大のメリットは、顧客を知り尽くせること。そうでなければ、昔からいわれていたIT化と変わらなくなってしまう。この考えに賛同する企業がエコシステムに参加していただいていると思う」

 最終的には、顧客企業もそのエコシステムを使いこなせなければ、SaaSのメリットを生かし切ることができないだろう。そのため重要なのは、ベンダー任せではなく、パートナーとしていっしょに課題解決していくことだ。「この流れは着実に進んでいると感じている。日本の伝統的な企業で、デジタルに強い人材を幹部として採用するケースが増えているが、これは従来考えられなかったことだ。それだけ、変革の意識は高まっていると感じている」と、井上氏は語った。

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