“第2世代アーキテクチャ”の展開や「Red Hat OpenShift」ベースの分散クラウド戦略など説明
IBM Cloud、大阪リージョンや「IBM Cloud Satellite」を今秋提供開始へ
2020年08月28日 07時00分更新
日本IBMは2020年8月27日、IBM Cloudにおける最新の機能強化と今後のサービス拡充ロードマップに関する記者説明会を開催した。大阪リージョンの一般提供開始時期を「今年第3四半期(2020年7~9月期)」と明らかにしたほか、IBM Cloudをオンプレミス環境(顧客データセンターやエッジ)に配置できる「IBM Cloud Satellite(ベータ提供中)」の競合優位性、AIX/IBMiやzLinux環境の国内提供開始予定などを紹介した。
IBM Cloudが持つ強みとバリューを示す「3つのコミットメント」
説明会ではまずIBM Cloud Platform 事業部 事業部長 理事の田口光一氏が、2020年上半期のIBM Cloudにおける機能/サービス強化や取り組みを概説した。今回詳しく説明するもののほかにも、たとえばマルチテナント型(物理サーバー共有型)のVMwareサービス提供開始、SAP認定環境の拡充、最新版「Red Hat OpenShift v4.4」のマネージドサービス提供開始、定価の引き下げといったトピックがある。
田口氏は、こうしたサービスと機能の強化は「Enterprise Grade(エンタープライズグレード)」「Secure & Compliant(セキュリティとコンプライアンス)」「Cloud Services Anywhere(あらゆる場所でのクラウドサービス提供)」という“3つのコミットメント”を軸に進めていると説明する。
「まず『Enterprise Grade』では、企業が持つ主要ワークロードのリフト&シフトを実現していく。ある調査によるとクラウドに移行済みのワークロードは20%にすぎない。残り80%をクラウド化するにあたって、マイグレーションとモダナイゼーションのための環境を提供する。『Secure & Compliant』では、たとえばFIPS 140-2 Level4とあるように、業界最高水準のセキュリティ機能実装と必要な業界コンプライアンスへの準拠を行う。『Cloud Services Anywhere』は、今後エッジ環境も含めて、オープンで一環した分散クラウド基盤を提供する」(田口氏)
さらに田口氏は、他のメガクラウドベンダーとクラウド市場で競合していくうえで、顧客に対してIBM Cloudが持つ「強み」や「バリュー」を明確に示す必要があり、そのためにもこの3つの柱への注力が重要だと説明した。
第2世代アーキテクチャへの刷新と大阪リージョンの一般提供開始
機能強化点の詳細については、IBM Cloud テクニカル・セールス部長 シニア・アーキテクトの安田智有氏が説明を行った。まず初めに紹介したのが、IBM Cloudの“第2世代”アーキテクチャである。具体的には、IBM CloudのVPC(仮想プライベートネットワーク)基盤を第2世代に刷新したもので、グローバル各リージョンへの展開を順次行っている。
安田氏は2010年ごろからのIBM Cloudの変遷と、そのアーキテクチャの世代交代について説明した。従来はSoftLayerのアーキテクチャを踏襲した第1世代のものだったが、それを見直し、IBM独自のアーキテクチャに刷新したものが第2世代となる。
「第2世代アーキテクチャは、2019年の第1四半期あたりからグローバルで利用できる状態になった。第1世代からのx86仮想サーバー/物理サーバーに加えて、AIX/IBMi、zLinuxと、コンピューティングリソースの種類が増えている。またNカ所の(複数の)IBMデータセンターだけでなく、顧客オンプレミスやエッジ拠点、さらには他社IaaSも含めて管理対象にできる(N+M)、柔軟で広がりを持つアーキテクチャになっている」(安田氏)
グローバルのリージョンも順次拡大しており、今年中には大阪リージョンのほか、ブラジル、フランス、カナダに新規リージョンを開設予定だと説明した。
2020年第3四半期に一般提供開始される大阪リージョンは、3つのAZ(Availability Zone)で構成されるなど、東京リージョンと同等構成のインフラを持つ。東京リージョンのDRサイト(サブリージョン)としてだけでなく、通常のメインサイトとして(プライマリリージョンとして)利用できる。
安田氏は、IBM Cloudの特徴である“データセンター間の通信無料”というポイントを強調した。東京リージョン/大阪リージョン間の通信も無料で使えるため、「たとえば遠隔バックアップ、海外への大容量データ転送などを、通信料金を気にすることなく、必要なデータを必要な場所に届けることができる」(安田氏)。
“敷居の低さとオープンさ”が特徴のIBM Cloud Satellite
顧客のデータセンターやエッジ環境、他社IaaSにIBM Cloudのサービスと顧客ワークロードを配置できる“分散型クラウド”ソリューションのIBM Cloud Satelliteについては、10月に正式提供開始を予定している。
Cloud Satelliteは、コンテナプラットフォームであるRed Hat OpenShiftを共通基盤として各環境に展開し、単一のダッシュボード/コントロールプレーンからすべての環境を一元的に管理できるソリューションだ。安田氏は、「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」がインストールされ(=OpenShiftが導入可能で)、ネットワーク接続されたサーバーであれば容易に展開できる敷居の低さが特徴だと説明する。
「(AWS Outposts、Azure Stackなど)他社でもすでに同様のソリューションを発表しているが、Cloud SatelliteはRHELが導入されていれば(展開先の)候補になるので導入しやすい。(専用のハードウェアアプライアンスを必要とせず)オンプレミスやエッジにもすぐに導入できる点が特徴だ」(安田氏)
また田口氏は、オープンスタンダードなテクノロジーをベースに構成されている点がIBM Cloud Satelliteの強みだと強調した。
「とくにAWSやマイクロソフト(Azure)の場合は、これまでパブリッククラウドで培ってきた資産があるため、分散クラウドでは『実績のあるパブリッククラウド環境をオンプレミスやエッジに持ち込む』戦略をとっている。一方でIBM Cloudは、Kubernetes(=OpenShift)など徹底的にオープンスタンダードにこだわっている。顧客に過度な負担を強いるのではなく、RHELが入っていればそこにOpenShiftを入れるだけで、一気通貫にオープンな分散クラウド環境を作ることができる」(田口氏)
金融サービス向けには「ポリシーフレームワーク」を備える
安田氏は“金融サービス業界向けクラウド”としての機能を備える「IBM Cloud for Financial Services」も紹介した。これはすでに提供を開始している。
ここでは特に、顧客金融機関が独自開発するアプリ、サードパーティ(ISV、SaaSベンダー)が提供するアプリも含め、多用なアプリケーションに一貫したセキュリティポリシーを適用できる「ポリシーフレームワーク」を備える点が強みだという。これは、IBMが今年6月に買収したSpanugoのソフトウェア技術を強化してIBM Cloudに組み込んだもので、業界標準や規制への準拠状況をリアルタイムに監視/管理できる仕組みを提供する。
なお上述のポリシーフレームワークは、現状ではVMware上のアプリケーションへの対応となっているが、今後OpenShiftコンテナおよびクラウドネイティブなアプリケーションにも対応を予定しているという。
また、AIXやIBMi、LinuxONEがそれぞれ国内リージョンから提供開始されることも紹介した。Power Systemsで提供されるAIXとIBMiは11月から(大阪は12月から)、またLinuxONEは東京リージョンで2021年の開始予定としている。安田氏は、LinuxONEではFIPS 140-2 Level4認定を取得した業界最高水準の鍵暗号化技術も含め利用できる点などを紹介した。
IBM Cloudの「コンピュート」サービスカタログ画面で、通常の仮想マシンと並んで「Power Systems Virtual Server」や「Hyper Protect Virtual Server」が選択でき、また最小構成価格(参考価格)はAIXが月額1.5万円から、LinuxONEが月額1.9万円からと利用しやすいサービスである点もポイントだという。