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「IBM Think 2021」での発表、自然言語会話で業務自動化を支援する「Watson Orchestrate」など

IBM、ハイブリッドクラウドとAI領域の新製品群を解説

2021年06月11日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本IBMは2021年6月10日、ハイブリッドクラウドとAIに関する事業戦略説明会を開催した。レッドハットの「Red Hat OpenShift」プラットフォームや「IBM Cloud Satellite」を活用するハイブリッドクラウド環境の構築、また「自動化/予測/モダナイズ/セキュリティ」の4つをキーワードとする顧客のデジタル変革(DX)支援といった戦略を紹介した。

 加えて、5月に開催された年次イベント「IBM Think 2021」で発表された新製品や新機能から、ハイブリッドクラウドやAIに関連するものについても紹介した。

IBMではハイブリッドクラウドとAIソリューションに注力している

「IBM Think 2021」で発表した新製品や機能強化から8つを紹介した

日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の伊藤昇氏

顧客DXを加速させるためのハイブリッドクラウドとAI

 昨年5月、IBMのCEOに就任したアービンド・クリシュナ氏は、ハイブリッドクラウドプラットフォームとAIの力により、顧客企業におけるデジタル変革を加速させるというビジョンを繰り返し強調している。オープンで一貫したアーキテクチャのハイブリッドクラウドによってアプリケーションの効率的な開発やモダナイズを実現し、ビジネスプロセスに組み込まれたAIによって業務のスピードと効率を向上させて、DXの加速につなげる――。両分野を担う“ナンバー1企業”になることが、現在のIBMにとっての大きな目標だ。

 ハイブリッドクラウド環境においては、幅広いインフラに展開できるコンテナプラットフォームのRed Hat OpenShiftを共通基盤として位置づけると同時に、その上下のレイヤーでIBMの独自色を打ち出す。伊藤氏は、過去1年間の取り組みについて概要を紹介した。

 たとえばインフラレイヤーのIBM Cloudでは、顧客データセンターやエッジ環境をパブリッククラウドと統合管理できるCloud Satellite、あるいは金融や通信といった規制業界向けパブリッククラウドの提供に注力している。

 また「IBM Cloud Pak」などを擁するソフトウェア製品のレイヤーでは、オープンへの対応とコンテナ化、サブスクリプションモデル推進に注力してきた。パートナーエコシステム領域では、従来型の再販パートナーだけでなく、IBMのテクノロジーを組み込んパートナー独自ソリューションの開発や、IBMテクノロジーを使ったサービサーとの提携にも注力していると述べる。

 同様に、企業買収や提携においても、ハイブリッドクラウドとAIの事業加速を目的とした戦略的な動きを加速させていると、伊藤氏は説明した。

ハイブリッドクラウド領域における重点領域と取り組みの方向性

買収、提携においてもハイブリッドクラウドとAIにフォーカス

Think 2021で発表された8つの新製品/機能強化

 続いて伊藤氏は、今年5月のThink 2021で発表された新製品や機能強化について、ハイブリッドクラウドとAIに関連する8つを紹介した。ここではまず新製品(将来提供予定含む)の4つをまとめる。

 「Watson Orchestrate」は、ビジネスパーソンの日常業務を自動化で支援し、生産性を向上させる対話型AIだ。Slackなどのツールを通じて、自然言語でWatson Orchestrateと「会話」することにより、あらかじめ用意されたスキル(自動化処理)に基づき、さまざまな業務タスクをセルフサービスで実行することができる。

 伊藤氏は、Watson Orchestrateの特徴の1つとして「会話のコンテキストを理解し、そこからAIが実行すべきスキルを選択、組み合わせ、正しい順序で実行していく」ことを挙げた。それにより、これまでは自動化が難しかった実用的な業務、個々人に属する作業の領域まで自動化のスコープが拡大できると語る。

 「たとえばわたしが営業マンだったとして、Watson Orchestrateに『あのお客様に出した見積もりは、何%まで値引きできるのか』と尋ねる。Watson Orchestrateは、Salesforceに記録されている見積もり情報や製品データベースの値引き条件などのデータを収集して『最大35%まで値引きできます』と答える。わたしが『じゃあ今回は28%値引きで見積もりを出しておいて』と指示すると、自動的にSalesforceの見積もり情報を変更し、さらにワークフローを実行して上司の承認を受ける――。単純作業だけでなく、こうしたものまで自動化が実現できる」(伊藤氏)

 Watson Orchestrateは現在ベータ提供を開始しており、今年下半期のリリース予定。伊藤氏は「Cloud Pakの1コンポーネントとして提供されることになる」と説明した。

業務自動化を支援する対話型AI「Watson Orchestrate」

 「WebSphere Automation」は、JavaEEアプリケーションサーバー「WebSphere」の一元管理と運用自律化を実現するソフトウェア。WebSphereは20年以上の歴史を持ち、顧客企業で多数のシステムを支える存在となっている一方で、「複数のシステムを運用するうえで非効率性が生じているのも事実」(伊藤氏)。そこで、一元監視ができるダッシュボードや脆弱性追跡、メモリリーク解析、パッチ履歴管理といった機能を提供し、ミッションクリティカルシステムを支える基盤としての安定性を維持しつつ、運用の一元化や効率化、自動化/自律化を進めていく。

WebSphereの運用管理を一元化/自動化/自律化する「WebSphere Automation」

 「Tailored Fit Pricing IBM Z Hardware」は、メインフレーム「IBM z15」を従量課金型で提供する新しい価格モデルだ。具体的には、15分ごとにキャパシティ利用状況を監視し、通常利用時のキャパシティ(ベースキャパシティ)を超えた場合に、追加課金が発生するかたちとなる。伊藤氏は、たとえばFintech領域などではクラウドアプリケーションとメインフレームが直接つながることが増え、予測困難で突発的な処理のスパイクが起きることもあるため、パブリッククラウドのような柔軟な価格モデルを提供すると説明した。

 「IBM Spectrum Fusion」は、Red Hat OpenShiftを搭載した新しいHCI(ハイパーコンバージドインフラ)アプライアンス製品。特にコンテナベースの高速データ分析、AIワークロードをターゲットとしており、高速分散処理ストレージと超高速GPUオプションへの対応によって、オンプレミス/エッジ環境での高速処理を実現する。さらに、Cloud Satelliteと連携することで、顧客オンプレミス内でのIBM Cloudサービスの展開も実現する。

 Spectrum Fusionは今年下半期の提供開始予定。さらに将来的には、同アプライアンスで使われているSoftware-Defined Storage部分のソフトウェア単体での販売も計画しており、顧客が所有するサーバー/ストレージ上でもSpectrum Fusionが利用できるようにする計画だという。

OpenShiftを搭載し、高速データ分析やAIワークロードをターゲットとしたHCIアプライアンス「IBM Spectrum Fusion」

 そのほか伊藤氏は、既存製品について発表された4つの機能拡充も紹介している。

 昨年5月のThink 2020で発表されたAI活用のIT運用基盤「IBM Cloud Pak for Watson AIOps」では、IBMが買収したINSTANA、turbonomicのソリューションとの連携が新たに発表された。INSTANAはアプリケーション性能管理(APM)、turbonomicはアプリケーションリソース管理のソリューションを提供している。

 OpenShiftベースのデータ分析基盤ソフトウェアを提供する「IBM Cloud Pak for Data」では、新たに「Intelligent Data Fabric」というコンセプトを掲げ、6月末にリリースするバージョン4において4つの自動化機能を提供する。

 具体的には、点在するデータソースを仮想的に統合しデータの準備を自動化する「AutoSQL」、データカタログ構築/更新を自動化する「AutoCatalog」、データのガバナンスを自動化する「AutoPrivacy」、そしてAIモデル開発を自動化する「AutoAI」だ。これらの自動化機能を提供することで、データ活用におけるユーザーの生産性を飛躍的に高めるのが狙いだ。

「IBM Cloud Pak for Watson AIOps」「IBM Cloud Pak for Data」の機能拡張

 また、これらのAI運用自動化機能は「信頼できるAI」の実現にも寄与するという。IBMではすでに2018年からAIモデルの精度やバイアスを可視化する「Watson OpenScale」を提供しているが、伊藤氏は、信頼できるAIは「信頼できるモデル」に加えて「信頼できるデータ」「信頼できるプロセス」の3要素により構成されると説明。たとえばAutoCatalogやAutoPrivacyによってあらかじめデータの品質を担保するなど、今回の自動化機能群で3要素を強化していくことで、より信頼性の高いAIが実現できるとした。

 今年4月にIBM Cloudで提供開始したフルマネージドランタイム/サーバーレスサービス「IBM Cloud Code Engine」も紹介した。伊藤氏は、このCloud Code EngineもIBM Cloudの戦略的なサービスであり、「複数のランタイムを1つのサービスで動かせるため、開発者が非常に利用しやすい」「Kubernetesのクラスタ構築なしですぐに(コンテナ環境が)利用でき、利便性が高い」と特徴を説明した。

「信頼できるAI」「IBM Cloud Code Engine」の概要

 なお伊藤氏は、顧客企業がよりスピーディなDX推進を求めるようになり、さまざまなデジタルでの試行錯誤に取り組むようになったことで、ITベンダーとの付き合い方も変わってきていると指摘。日本IBMのテクノロジー事業本部においては「新しいお客様との付き合い方に取り組んでいる」と説明した。

 「(具体的には)われわれがお客様の横に寄り添い『共創』していく。これにより、お客様がやりたいことをスピードをもって、テクノロジーで支援していく。顧客が抱える課題に対する提案から、採用いただいた製品の導入支援、あるいは新しいテクノロジーのPoC、新機能の紹介と活用アイデア提供など、すべての局面でお客様に寄り添えるスペシャリスト、エンジニアを用意している」(伊藤氏)

 まとめとして伊藤氏は、IBMではハイブリッドクラウドとAIのナンバー1企業になるべく取り組みを進めており、今回紹介した4つの層の製品/サービスを通じて、顧客企業のDX支援を進めていくと語った。

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