物流や製造業、金融、医療などさまざまな業界でビッグデータが活用されるようになってきた今、観光に関するデータ分析も進められている。
兵庫県の北部にある但馬地域でも、IT技術や観光ビッグデータを活用して、地域を活性化する取り組みが始まっている。そのキーマンとなるのが、交通・観光ビッグデータの専門家である野津直樹氏だ。
2021年4月に但馬地域に開学を目指す国際観光芸術専門職大学(仮称・認可申請中)の教員候補でもある野津氏に、これからの観光とビッグデータについて、さらに新しい大学で展開される地域に根差した教育についてお話を伺った。
●ITによって、観光の可能性が広がった
野津氏の前職は、鉄道や車などの経路検索・ナビゲーションサービスを提供するナビタイムジャパン。交通ビッグデータの分析業務に従事してきた経験を生かし、現在は観光分野でのデータ分析や交通サービスのコンサルティングなども手掛けている。
「もともとは、カーナビがどのように使われているかとか、渋滞をどうしたら減らせるかといった観点で交通データの分析をしていました。その中で、たとえば経路検索がどんな風に利用されているかを分析すると、観光客がどんな行動をしているか?どこに行きたがっているのか?といった『観光行動』を分析できることに気が付いたんです」(野津氏)
社会の変化によって、「観光行動」も変わった。昔は、旅行といえば雑誌やガイドブックの情報を頼りに行動するものだったが、今の情報源はインターネットが主流。スマートフォンを片手に旅をする人が増えたことで、データ分析の可能性も広がった。
「スマホを見ながら次の目的地を決め、行き方を調べ、感想や写真をSNSに投稿する。そういう観光客の一連の行動を分析すると、いろいろな発見があります。たとえば、以前は関西というとアジア圏からの旅行者が多い傾向があったのですが、ある時から、城崎温泉(兵庫県)と高野山(和歌山県)にヨーロッパからの観光客が突出して増えた。この事実は、当時はあまり知られていなかったのですが、ビッグデータの解析によって明らかになりました。そういう世の中の新しい動きをキャッチできるのがおもしろいところですね」(野津氏)
●兵庫県に誕生する専門職大学を中心とした「観光×IT」の挑戦
野津氏は、兵庫県北部の但馬地域に開学を目指す国際観光芸術専門職大学(仮称・認可申請中)で、「観光情報演習」などの科目を担当する予定だ。授業では、観光ビッグデータの分析に取り組むとともに、その結果をもとに、実際に地域の課題を解決するためのアクションを起こしていくと言う。
「まずはデータを見ながら、大学のある但馬地域はどんな地域なのか、どんな課題があるのかを考えます。そして、たとえばこういう風に案内したら観光客が周遊しやすいんじゃないかとか、こんなウェブサイトを作って情報発信をしたら人の動きが変わるかもしれないとか、地域を良くするための方法を考え、町に出て実験をしたいと思っています」(野津氏)
近年、但馬地域では芸術と観光を軸にしたまちづくりを進めている。地域が「変わろう」としている時だからこそ、新しい大学も、地域と連携しながら実験的な試みができる。それは学生にとっても大きな成長のチャンスとなるだろう。
「やっぱり大都市だと、実験をすると言っても学生にとってはハードルが高い。たとえば東京の大きな鉄道会社やバス会社と交渉して何かをしよう、という挑戦は難しいかもしれません。でも但馬地域は町のサイズ感が程良く、地元の方たちも大学に協力的。一緒にアイデアを出し合って、地域が良くなっていく。地元の人や観光客にも喜ばれる。そういう体験を積み重ねられたら、卒業した後にどんな仕事をするにしても役に立つ力がつくと思います」(野津氏)
●不安な時代だからこそ、学ぶ意味
2020年、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により、観光業界も大きな打撃を受けた。野津氏は、そんな今だからこそ「旅」や「観光」の価値を改めて捉え直す機会になる、と話す。
「2020年は観光業界にとっては厳しいことが多かった。でも逆に、観光や旅行の大切さを身に染みて感じられた年でもあります。知らない場所に行ってみることや、自分の好きな場所に行くことがどれほど人生を豊かにする大事なものか、多くの人が実感したんじゃないでしょうか。まだウィルスの影響はしばらく続くかもしれませんが、今後も観光っていうものがなくなってしまうことはないはずです」(野津氏)
観光分野に限らず、先行きが見えない時代に学ぶ子どもたち、学生たちには多くの不安がつきまとうだろう。そんな若者たちへ野津氏は「将来を決めすぎなくていい」とアドバイスする。
「私は縁があって交通ビッグデータ分析に携わることになりましたが、子どもの頃は自分がこういう仕事をするなんて想像もしていませんでした。そもそも当時はスマートフォンもなかったし、ビッグデータという概念もなかったと思います。ですから、今はなかなか将来のことを想像できない人もいるかもしれませんが、若い頃はまだはっきりと‟この仕事がしたい“と決められなくていいと思います。仕事も、職業も今までになかったものがどんどん新しく生まれていくし、今はできないことも未来にはきっとできるようになりますから。まずは何か好きなことを見つけて、それを伸ばしていってください」(野津氏)
※設置認可申請中のため、掲載内容は変更となることがあります。
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