イヤホンブランドである“Acoustune”(アコースチューン)の新しいモデル3機種が、7月3日に発表された。国内ではアユートの取り扱いとなる。
Acoustuneは香港に拠点を置くイヤホンメーカーだが、イヤホンとともに交換用のイヤピースでも知られている。またスタッフには日本のベテランオーディオ技術者がいて開発に関わっているということだ。Acoustuneはデザインと音質の両面に優れていて国内でも人気のブランドだ。私は「HS1670SS」をよく使用しているので、新製品には興味があった。
音質面での特徴は振動板に使われている“ミリンクス”という素材である。ミリンクスは医療分野で人工皮膚や手術縫合糸などに使われる合成素材で、医療用語で鼓膜という意味を持つ。Acoustuneではこれを薄膜化し、ダイナミックドライバーの振動板に採用している。
なぜ、ミリンクスが音に優れているかというと、強度と柔軟性を両立しているからだそうだ。これは例えば、ムチのように強靭でかつよくしなるということだ。振動板の素材としては強度・硬度が高く変形しにくいことが正しい信号を伝えるのに重要だが、ミリンクスは「硬いのに柔らかい」という相反した要素を持つわけだ。これによって小さな音から大きな音まで正しく再現することができるという。
たしかにミリンクスドライバーの音を聞いてみると、独特の陰影感の再現など、単に高音質というのとは違う不思議な魅力がある。なかなか興味深い素材だ。
もう一つのAcoustuneの特徴はデザインの良さで、精悍でメカらしいカッコ良さがよく伝わる外観だ。これは機能性も備えていて、モジュラー構造により音響チャンバー部と機構部が分離されている。このことが歪みを抑えて音質をよくするとともに、以前書いたカスタムイヤーピースである「ST1000」の装着を可能としている。
またAcoustuneはイヤーピースの単体販売もしている。Acoustuneのイヤホンには3タイプの異なるイヤーピースが付属していて、これで装着感や音質を変えてみることもできる。
このうち、「AET06」は遮音性を重視した、ダブルフランジ形状を採用しているモデルだ。「AET07」は標準と言えるモデルで、中高域の減衰を抑えたバランスの良い音のモデルだ。私もAET07をよく使う。「AET08」はノズル内径を狭く長めに設計して低音域を押し上げるモデル。低音がもっと欲しいというユーザー向けだ。
新製品では各モデルとも添付の標準ケーブルとカラーリングが変更された。ドライバーは以前と変わらない。
「HS1677SS」は音響チャンバー部にステンレスを使用したAcoustuneの代表的なモデルだ。「HS1670SS」のアップデートモデルでカラーリングはツートーンシルバーに変更されている。またコネクター部に“Pentaconn Ear”を採用し、線材をシルバーコートOFCと極細OFCのハイブリッド8芯構成にした新ケーブル「ARC51」を採用している。私は旧モデルHS1670SSを所持しているので比較して視聴した。
HS1677SSは内箱が小型のアタッシュケースのようなハードケースに格納されている。手にとってみるとイヤホン筐体自体は同じように見えるが、ケーブルが黒になったことでより精悍な感じがする。以前はイヤホンとケーブルの接続部が固かったが、新ケーブルは取り外しがスムーズになり、確実に固定されているように思える。このPentaconn Ear新端子はなかなか気に入った。
HS1670SSと比べてみると、より音の広がりがよく、透明感が高くなったように感じた。特に低音域により迫力が感じられる。HS1670SSはAcoustuneの中でも中高域の美しさに定評のあるモデルだったが、この新ケーブルの改良により低音域が強くなったことで別のイヤホンになったような印象が感じられた。
「HS1697Ti」は音響チャンバー部にチタンを使用したトップグレードのモデルだ。第4世代のミリンクスドライバーに薄膜チタンドームを組み合わせた進化型のミリンクスドライバーを採用した「HS1695Ti Gold」の改良型と言える。ハウジングカラーが、HS1695Ti Goldからガンメタルカラーに変更された。他のモデル同様に新ケーブルのARC51を採用している。
試聴してみると、上質な音表現でニュートラルな音色だと感じた。高域は滑らかで上質、声の明瞭感も高い。トップモデルらしく音性能が高く、音の誇張感も少なくて3機種の中で一番音のバランスが良いモデルだ。
「HS1657CU」は音響チャンバー部にブラス(真鍮)を採用した求めやすいグレードのモデルだ。「HS1655CU White」の改良版で、カラーリングはマットブラック&ゴールド(HS1650CUオリジナルと同じ)に変更というか戻っている。ほかのモデル同様に新ケーブルのARC51を採用している。
音は落ち着いて少し温かみのある音がする抑えめの音だ。価格も求めやすいので、はじめてのAcoustuneに良いだろう。
3機種ともにケーブルに大きな変更が加えられたが、特にPentaconn Ear端子は素晴らしかった。もともとMMCX端子はイヤホンのリケーブル用ではないので、機種によってはめ込み方が異なり、やたらきつかったり、ゆるかったりするのだが、このPentaconn Ear端子はパチンとはめ込むのではなく、すっとはめ込んで、すっと取り外すことができる。それでいてしっかりと固定もできる。この端子はこれからのMMCX端子の標準になっていくのではないだろうか。

この連載の記事
- 第124回 Knowlesが提唱する新しいターゲットカーブが登場、イヤホン音質の底上げを進めるか
- 第123回 Pixel Buds Proが登場、Android 13のオーディオ機能はどう変わる?
- 第122回 iPodがついに終焉、ウォークマンとの対比でそのインパクトを思い出す
- 第121回 Sonosが独自のボイスアシスタント機能を開発中? 米国で報道
- 第120回 ヘッドフォン祭 miniで見つけた気になる新製品(佐々木喜洋)
- 第119回 開放型、骨伝導、再認識されつつある外の音が聞けるイヤホン
- 第118回 Apple Musicのクラシック音楽専用の再生アプリが登場⁉
- 第117回 第3世代AirPods、空間オーディオの付加価値はユーザーに刺さっていない?
- 第116回 アップルが高指向性スピーカーの特許を申請、自分だけに音が聞こえ、空間オーディオとも相性がいい?
- 第115回 2021年米国で久しぶりのCD売上増加、物理回帰の流れは進む? RIAA発表
- 第114回 日本限定のハイレゾ再生ソフト「Audirvana 本」、一瞬「?」なネーミング
- この連載の一覧へ