第53回
ほかのプレイヤーとつながり、お互いを助け合うシステムが魅力
「DEATH STRANDING」は、人とのつながりを疑似体験できる「人間賛歌=人間参加」型オープンワールドゲームの傑作
小島 秀夫監督が手がけた「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」(以下、デススト)は、「人間賛歌=人間参加」型のオープンワールドゲームであると考えている。ほかのプレイヤーと間接的につながり、お互いを助け合う「ソーシャル・ストランドシステム」と、つながりを意識したゲーム性が、デスストを人間賛歌=人間参加と呼ぶ最大の理由だ。
もちろん、美麗なグラフィックや豪華俳優陣、胸を打つストーリーも見逃せないポイントだ。従来のゲームで味わえなかった体験と感動を提供するデスストは、PlayStation 4版ならびにPC版でプレイできる。7月14日に発売されたPC版はハイフレームレートとウルトラワイドスクリーンなど、PCの性能を発揮した新機能が追加されている。より美しく、より滑らかな映像で楽しめるのが魅力となっている。
今回、デスストのPC版が発売されたのを機に、本作の魅力をいま一度掘り下げていきたい。
歩くだけでも楽しい!
絶たれた絆を紡いでいく配達アクションゲーム
デスストをわかりやすく例えると、荷物を指定された場所へと届ける「配達アクションゲーム」である。プレイヤーは伝説の配達人「サム・ポーター・ブリッジス」を操作し、荒廃と美麗が織りなす広大なフィールドを練り歩きつつ、荷物を配達することになる。謎の現象「デス・ストランディング」で文明が崩壊したアメリカを再建すべく、北米大陸横断の旅に赴く。途中、荷物を配達しながら中継地点を結び、「カイラル通信」を開放していく。それがプレイヤーに課せられた使命である。
本作を初めてプレイしたとき、ケビン・コスナー監督&主演のSF映画「ポストマン」を彷彿とさせるテーマ性が魅力的に思えた。この映画は、戦争で荒廃した未来のアメリカを舞台に、独裁者の圧政に苦しむ市民たちに手紙を届ける郵便配達人の物語だ。ポストマンはアクション色が濃いものの、ポストマンが提示する「絶たれた絆を紡いでいく」というテーマは、デスストのテーマに通じる部分があると感じた。
なんといっても、歩くこと自体が楽しすぎる。ゲームにおける歩行は移動手段のイメージが強かったが、本作の歩行は非常に娯楽性が高く、やり応えも抜群。「歩行=エンターテインメント」ということだ。安全快適なルートを開拓するだけでなく、雪山の頂を目指す、ほかのプレイヤーたちが重宝するであろう建造物を建造するなど、楽しみ方はさまざまだ。シミュレーションゲームの感覚で歩行が楽しめるのが面白さの秘訣だろう。
そのうえ景色を眺めながら探索することで、実際にハイキングをしているような気分にも浸れる。新型コロナウイルスの影響で家にこもる日々が続いていたが、デスストをプレイしていると、閉鎖的な日常から解放されたような多幸感を覚えた。現実を模した仮想世界にダイブしたような、心地よい感覚だ。
デスストの風景は、自然の息吹や音色がスクリーン越しに伝わってくるほど、限りなくリアルに仕上がっている。奇跡的な美景に何度も心を奪われた。現実世界とリンクする美しいフィールドを、思うがままに探索できる面白さも秘められていると感じた。
かつてアメリカ合衆国と呼ばれていたこの大陸には、他者とのつながりを歓迎するコミュニティーもいれば、つながりを拒絶するコミュニティーも存在する。配達時、さまざまな事情を抱えた依頼人たちと間接的にコミュニケーションすることになるが、荷物をちゃんと配達すれば少しずつ親密度が増し、次第にお互いの絆も深まっていく。依頼人たちとコミュニケーションを図れる点もデスストの魅力的な部分だ。
孤独だった人間同士が出会いを果たすことで、コミュニティーの規模が少しずつ拡大されていく。最初は孤独感を感じるだろうが、ほかのプレイヤーとつながったり、依頼人たちと積極的に交流を深めていけば、自分が多くの人に必要とされていることを実感できるようになるはずだ。人が持つ温もりと絆を感じ取れるゲームは、おそらくデスストだけかもしれない。これぞ人間賛歌というべきだろうか。
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