新規参入で激化必至
国産「TOYO TIRES」対中国系メーカーによるタイヤ戦争に注目!
ハイスピードで角度のあるダイナミックなドリフト走行を支えるタイヤ。他のモータースポーツカテゴリはワンメイクタイヤ制を採る中、D1グランプリはSUPER GT同様、タイヤメーカーが複数参戦し、熾烈なタイヤ戦争を繰り広げている。しかも使われているタイヤは他のモータースポーツカテゴリでよく見かける専用タイヤではなく、市販されているラジアルタイヤだ。
鈴木「今年は、新規参戦のタイヤメーカー、中国のサイロンタイヤに注目ですね。ベテランの日比野選手、上野選手、畑中選手、内海選手、田中選手あたりが、サイロンタイヤへ乗り換えるのですが、このタイヤが相当いいらしいんですよ。現在のD1グランプリのタイヤは殆どが中国で、2年連続チャンピオンマシンのタイヤも中国製。いっぽう迎え撃つ国産はTOYO TIRESだけという状況です。ですから中国タイヤ勢に対して、TOYO TIRESがどう立ち向かうか、というタイヤ戦争は見逃せないですね」
以上のように鈴木さんは語った。では、なぜ中国系企業のタイヤが強いのか。
鈴木「彼らからしたら競技用だろうがレース用だろうがタイヤは全部一緒で、それに勝つためにタイヤを開発し、そのまま一般販売するんです。日本のタイヤメーカーは安全性の面などから、それができないんですね。あと日本メーカーは根本的に横滑りするタイヤはイヤなんです。ですから、ものすごくグリップするタイヤを作るのですが、それがドリフトに向いているかというと(笑)。でもTOYO TIRESさんは、R888RDというドリフト用のタイヤを作ってしまったんですね。これはサーキット走行に適したSタイヤ R888Rをベースに、ドリフト用としてチューニングした“グリップしながら減らない”タイヤを作ってしまったんです」
つまり、中国系企業に対抗すべく、TOYO TIRESが専用タイヤを開発し、販売したというわけだ。もはや意地としかいいようがない。
鈴木「今年のタイヤはグリップを上げて摩耗をどう減らすかがカギになります。TOYO TIRESのエンジニアが“サイロンタイヤは凄い!”と言うんですよ。だから今年、TOYO TIRESがさらに上のタイヤを作れるかどうか、というのも楽しみですね」
さて、昨シーズンを振り返ると、路面温度の低い時は中国系タイヤが有利、一方、高温時はTOYO TIRESが強いという印象があった。TOYO TIRESのドライバーはそんなことはない、と口をそろえていたが、鈴木さんの目にはどう映ったのだろう。
鈴木「それはあったかもしれませんね。温度レンジの中で、どうタイヤを使っていくかということがもっとも重要なのですが、そこが各社、特に参戦1年目のヴァリノタイヤは悩んでいましたよね。というのも、去年の初戦筑波が雨で、そこでみんなハマってしまったんです。だから開幕戦はどういう天候でどのサーキットで行なわれるかはとても重要です。夏場は熱ダレした時の摩耗や空気圧をどうするかですから、最初が良ければ、後から帳尻はあわせられるんじゃないかなと思います。ですから初戦はとても重要です」
このように鈴木さんは分析する。今年の初戦は誰もが経験したことのない奥伊吹というコースで、しかも7月末開催なので、路面温度は高くなるだろう。奥伊吹を制したタイヤメーカーが、その後の主導権を握るかもしれない。
ドリフトという競技では、リアタイヤのグリップや摩耗はもちろんだが、前後バランスの重要性を鈴木さんは説く。
鈴木「タイヤはリアのトラクションを求めて作られるのですが、一方でフロントとのバランスもありますよね。昨年、藤野選手はそこで悩んでいたようで、結局フロントタイヤのグリップを稼ぐため、タイヤの幅を広げるという方法を採りました。ですが、ちょうどよいサイズがなかった。なければ作るしかないということで、TOYO TIRESさんは藤野選手専用タイヤを作っちゃうんですよ(笑)。もちろん中国系タイヤメーカーも、同様に必要なサイズのタイヤを作ってきます。タイヤメーカーは大変ですよ」
これまでのうっぷんを晴らすかのごとく
お客さんを入れられるようになったら会場でナマで見てほしい
新しいサーキットでの戦い、若手の台頭、話題のスポーツカー・A90スープラの大量参戦、そして中国系タイヤ対国産TOYO TIRESと、見どころがいっぱいの今年のD1グランプリシリーズ。
鈴木「せっかくの20周年なのに、開幕戦が延期になり日程が変わったりしましたが、やれることは必ずやります。ですから20年培ってきたD1グランプリを生で見に来てほしいですね。我々も外出禁止などで、あの白煙であったり音だったりを欲していますから、皆さんもそうだと思います(笑)。なにより僕自身、早くシリーズ戦が見たいですね。お客さんを入れても大丈夫な状況になったら、これまでのうっぷんを晴らすかのごとく、サーキットで生で見て、体験して、盛り上がってほしいですね」
鈴木さんは熱く語ってくれた。何より今年は、次の20年へとつながるD1グランプリになることだろう。例年以上に、今シーズンのD1グランプリからは目が離せそうにない。そんな彼が今、D1グランプリについて思うことを後編でお伝えする。
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