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コロナ渦のいま、サイボウズ青野慶久氏とさくらインターネット田中邦裕氏が大いに語る<前編>

帰ってきたサイボウズ・さくらの社長対談 クラウドと働き方はどう変わったか?

2020年07月07日 12時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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パッケージからクラウドに乗り換え、「死の谷」を乗り切った

大谷:続いて青野さんに聞きますが、サイボウズもクラウド化が順調に進みましたね。

青野:2014年頃はクラウドへの積極投資を続けて、ちょうど利益を減らしにいっていた頃。2015年はサイボウズ創業で初めての赤字を出しています。背景にはクラウドが伸びているという市場動向もあるのですが、やはりサブスクリプションに切り替えられたのが大きいです。

僕たちはながらくパッケージのCD売り切りみたいなモデルだったので、売上が積み上がってこなかった。でも、いわゆる「死の谷」を乗り切って、確実にサブスクに切り替わることができました。

クラウド比率はすでに7割を突破(2020年12月期事業戦略説明会資料より抜粋)

大谷:当時、青野さんも事業説明会で「営業利益を減らしにいく」とか話していて、けっこう驚いたのですが(関連記事:2014年度の営業利益予想「0円」はサイボウズの不退転の覚悟)。

青野:ここでの営業利益って、あくまで単年度会計に基づく営業利益ですからね。でも、サブスクをやっているプレイヤーはライフタイムバリューやチャーンレートとか全然違う数字を見ていますよね。田中さんのところは、もともとサブスクモデルじゃないですか。あれがうらやましくて(笑)。

田中:原丈二さんとの食事会の時に、青野さんが「利益をゼロにする」とか言い出したのは私も驚きました(笑)。さくらもそうしようかなと思ったのですが、確かに当社はサブスクモデルだったので、利益ゼロにはならなかったんですよね。結局、現在はクラウド比率だったり、離職率だったり、利益以外の指標も回復し始め、それにともなって利益も上がってきました。

とはいえ、さくらってサイボウズから4~5年遅れている部分はあって、先日青野さんに「うちも5~6年くらいやっているけど、社員の働き方変わりません」とぼやいたら、「いやいや、うちなんて10年近くやってるし」と言われたんです(笑)。確かにほとんどの経営者さんは単年度で見ますけど、「10年続けてまだここまでなんで、これからも続けたらいいと思います」とアドバイスをいただいて、やはり5年・10年というタームで見ないとなかなか難しいということでを実感しています。

大谷:「働き方が先進的」というサイボウズの認知度はこの数年でずいぶん高くなってきていますよね。最近ではテレビや新聞でもよく取り上げられていますが、働き方についてはどうでしょうか? 

青野:僕らは十数年前から働き方改革を始め、対談をやった6年前はちょうど結果が出始めた頃ですね。離職率が5%を切り始め、定着率も上がってきた時期で、こうした取り組みを社外に配信しようとしていました。「チームワークあふれる社会を作る」という理念を掲げているので、自社の成功事例をどんどん出していこうと思っていました。

こうした情報発信をしていたら、政府から呼ばれるようになったり、総理大臣まで働き方改革とか言い出して、世の中が動いてきた感じがします。こうした働き方改革の波に乗れたので、採用もいまのところ順調ですし、定着も実現しています。

6年前との最大の違いは「人手不足の危機感」

大谷:市場や社会を見て、6年前と違うところはどこでしょうか?

青野:世の中的に見たら、働き方改革の追い風になっているのはやはり人手不足ですよね。人があふれているときは、みんなそれほど危機感を持ってなかったし、離職率が高くても放置している会社が多かったんでしょうけど、6年前と今は状況が大きく変わっています。学生は減りまくってますし、昭和型の採用や管理をやっていたら、人とれないと思います。

大谷:さくらインターネットも定着率高いですね。

田中:最近は辞めないどころか、社員が社員を呼んでくれるようになりました。なので、働きやすくして、自社サービスを拡充すると、うちの会社に来ていただける人も増えるなあという体感ですね。

青野:うちも田中さんと近いのかもしれませんが、いわゆる採用や転職のエージェントを使わなくなりました。自分たちで知り合いを集めた方が早いし、エンジニア向けのミートアップで集まった人たちに「うちに来ない?」と呼んでくるパターンですね。

大谷:今回のコロナ騒動で採用は大きく変わりそうですよね。

青野:既得権益だけで仕事になっていたいわゆるレガシーな会社が今回の新型コロナウイルスの話で大打撃を受けます。ネットを使った新しいビジネスモデル、新しい働き方を推進しているところが伸びていく。これが数ヶ月後の上場企業の決算発表で見えてきてしまうと思います。いい会社だと思っていた大企業のメッキがはがれると、新しい働き方できる会社にまた人が流れますよね。

田中:給与が高いと言われている会社でも、働く時間と給与の関係を考えると、本当に給与が高いと言えるのかはもはやわからないです。働く時間が短くて、生産性が高くて、いろいろ学べる会社の方がよいと思います。

転職価値という点でも、同じ会社にいるとその会社に最適化されてしまいます。でも、作業に対して最適化するのであればともかく、その人の性格や資質までその会社に最適化するのは愚かだと思っていて、ほかの会社では使えなくなってしまいますよね。今回の新型コロナウイルス対応で多くの人がこうしたことに気がついただろうし、変化が多いとこうした現象が顕在化しやすいです。

副業に関しても、青野さんは数年前に「副業禁止こそ禁止でしょう」みたいなことを言い始めていて、うちも3年前から解禁にしました。社員の中ではパラレルワークしている人も増えているので、もはや1つの会社の給与でなんとかしていく時代じゃないんだろうなあと思っています。

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