余力を持った状態で獲得した成果
そして、この世界1位には、加えておきたい3つのポイントがある。
ひとつは、2位以下に大きな差をつけて、1位になったという点だ。
富岳は、415.5PFLOPSを達成。2位となった米オークリッジ国立研究所のSummitの148.6PFLOPSに対して、2.80倍という大きな差をつけたのだ。
2つめは、富岳が1位となったのは、TOP500だけではなく、HPCG、HPL-AI、Graph500という3つの部門でも同時に1位とを獲得。4冠を達成したことである。HPL-AIは、今回が初めてのランキング発表であり、4冠を獲得したのは、富岳が史上初となる。そして、TOP500以外の3部門においても、2位以下には大きな差をつけて1位を獲得している。なかでも、HPCGでは、2位のSummitに4.57倍という圧倒的な差がある。
ちなみに、HPCGは実際にアプリケーションを稼働させたときの性能に近いと言われ、HPL-AIはディープラーニングなどのAI処理の性能を評価するもの。そして、Graph500は、ビッグデータ処理などの性能を評価する指標といえる。
つまり、幅広い領域において、2位に圧倒的な差をつける高い性能を達成したのだ。
そして3つめは、この性能が100%の状態ではないという点だ。
富岳は、2019年12月から設置が開始され、5月13日に搬入が完了したばかりだ。そして、2021年度からの共有運用に向けた準備を進めている段階にある。
理化学研究所 計算科学研究センターの松岡聡センター長は、「現時点では、100%の性能をまだ発揮していない」と発言。理化学研究所 計算科学研究センター フラッグシップ2020プロジェクトの石川裕プロジェクトリーダーは、「Graph500での計測値は、6割程度の計算リソースを動かした段階」とする。
まだ余力を持った形で、あらゆる部門で、2位に圧倒的な差をつけて、世界1位を獲得したということになる。
石川プロジェクトリーダーは、「富士山で言えば、8合目にたどり着いたところ。ソフトウェアが一部完成していないところもあり、チューニングも必要である。さらに、すべてのCPUを動かした際にも安定稼働ができる状態にしなくてはならない。富士山でも、8合目以降は、道が険しくなる。月単位、週単位で能力を確認していくことになる。これから半年をかけて、システムのチューニングを行ない、同時に安定化を確保していく。厳しい登山になることを想定しながら、気を引き締めて、2012年度からの共用開始につなげたい」と語る。
理化学研究所の松本紘理事長は、「富岳は、四冠馬ならぬ、四冠機となった」と前置きし、「まだ性能をあげる余地があり、最大限の性能を引き出すことに取り組みたい。世界のトップに立ったことに慢心することなく、富岳の力を引き出す努力をしていく」とする。
今回達成した記録がどこまで伸びるのかも楽しみであり、今後のさらなる性能向上が注目される。
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