「基盤は統一」の真意はどこに
「ここからさらに大統一」となるのか、それとも「基盤は1つ、姿はそれぞれ」のままなのか。
今回のアップルの年次開発者会議「WWDC20」基調講演での「Mac、ARMへ移行」というニュースを見て、どちらの印象を持っただろうか。「いよいよOSを1つに」という印象を持った人もいるだろうが、筆者はむしろ、「ああ、デバイスごとのUXの違いを維持するのだな」と考えた。
ARMでMacを作るということは、その中身がiPadに極めて近いものになる、ということだ。なら、iPadにmacOSモードがあったり、Appleシリコン版Macにタッチが追加されたりするのか? というと、OSのUIを見る限り「それはなさそう」に思えるのだ。
クラムシェルで「キーボード+タッチパッドに特化したUIの機器」としてMacがあり、もう少しライトでコンテンツ視聴も多い機器としてiPadがあり、ポケットに入れて持ち歩くデバイスとしてiPhoneがある……という枠組みは崩さないのだろうな……という印象が強いのだ。
一方、Macで正式にiPhone・iPadのアプリが使えるようになるのは大きい。もはやアプリ市場でお金が動いているのはモバイルプラットフォームの方だが、そこにある価値が「いわゆるパソコン」の上で不要か、というとそうではない。
PCでもモバイルでも同じアプリが使える、という枠組みは、かつてマイクロソフトが「Windows 8」で試みたものでもある。彼らはPCからモバイルへとストア展開しようとしたが、それはうまくいかなかった。マイクロソフトは現在、「Project Reunion」として、Windows 8で立ち上げた「UWP」と広く使われる「Win32」というアプリケーションの世界の「統合」を進めている。そうやって過去を清算し、PCとしての価値を高めようとしているのだ。
それに対してアップルは、OSのUIなどは単純統合しなかったが、プロセッサーや開発基盤などを「ユニオン」して、生産・開発効率を高めようとしているのだろう。
機能面では「OSの境目」が小さくなった
UIそのものの統合はしていないものの機能を見ると、iOS・iPadOS・macOSはずいぶん共通性が高まってきた。今回のアップデートの目玉である「ウィジェット」や「Safariでのセキュリティ対策」、「Siriの改善」に「ローカルでの自動翻訳」といった部分は、どれも共通性が高い。各OSに組み込むコンポーネントやバックエンドのサービスの共通化が進んでいる証拠だろう。
一方で、iPadOS 14に搭載された「ユニバーサルサーチ」機能は、macOSでは「Spotlight」としてお馴染みのものに、UIも含めてずいぶん似てきた。それぞれが影響しあい、「どれを使っても機能としては近いものがシームレスに使える」ことを目指しているのだろう。
ウィジェットの設置方法など、かなりAndroidを意識した進化も見られて、相変わらず競争が激しいことがうかがえる。
iOS 14では、標準で使うブラウザーやメールアプリを設定で切り替えられるようにもなっており、ずいぶんといろいろ配慮したのではないか、という感触も受ける。アプリの整理方法やウィジェットの配置に伴う「ホーム画面の変化」まで、iPhoneの使い方は特に、今回のバージョンで大きく変わってしまいそうだ。
それはそれでいいことだと思うが、そろそろ「あえてUI設定の基本は変えないモード」をスイッチで用意し、機能や操作を覚えたくない人に配慮することも必要かもしれない。

この連載の記事
- 第25回 macOS Big Surレビュー「iPadOS化」とは言わせないmacOS独自の進化
- 第24回 秋まで待てない! watchOS 7の「睡眠」機能を先行体験レビュー
- 第23回 Apple Watch「watchOS 7」パブリックベータを試した! 文字盤交換が楽しい!
- 第22回 アップル「watchOS 7」パブリックベータ版を公開
- 第21回 アップルが「macOS Big Sur」のパブリックベータ版を公開
- 第20回 macOSに近付いていく? 「iPadOS 14」パブリックベータ・インプレッション
- 第19回 7月17日は「世界絵文字デー」iOS 14の新ミー文字と絵文字を先行プレビュー
- 第18回 iOS 14/iPadOS 14にパブリックベータが登場 広くインストール可に
- 第17回 アップル新「マップ」の躍進、Googleマップと真逆のアプローチとは
- 第16回 アップル独創アイデアに敬意「Apple Design Award」受賞者を発表
- 第15回 Apple Watch新機能「睡眠」こだわりをアップルのテクノロジーVPに聞いた
- この連載の一覧へ