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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第118回

アフターコロナでもハンコは必要? デジタル化が進まない理由

2020年06月16日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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 日本ではすっかりおなじみになった電車やバスでの非接触決済。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、今年10月までに完了予定だったニューヨーク市での公共交通での非接触決済の全面展開が延期されました。同紙は、新型コロナウイルスの渦中、今年の12月までは旧式のメトロカードやその販売機を使い続ける必要があることを伝えています。

 こんなふうに世界中で影響を与える新型コロナウイルスですが、今回は前回の「アフターコロナについて」の続編です(第117回「アフターコロナがどうなるか、マジシャンがシカケなしで予測した」)。前回書けなかったアフターコロナを読み解くためのキーワードや課題について考えてみたいと思います。

難航するデジタルトランスフォーメーション(DX)

 「デジタルトランスフォーメーション」(Digital transformation。以下、DX)とは、スウェーデン、ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「デジタル化することで、人々の仕事や生活が向上する」という概念です。2018年にも経済産業省が「DX推進ガイドライン」を作成しています。

 ところが、順調にIT化やデジタル化が普及しているかに見えても、一部では旧態然としたシステムが残っているのが現状です。

 たとえば、現在受付中の一律給付金(10万円)の処理作業でも、ある自治体では「オンライン申請はプリントアウトしてチェックする作業が必要」や、さまざまな市、区役所で「申請に必要なマイナンバーカードの暗証番号を忘れ、窓口を訪れた人が行列を作る」など、本末転倒な出来事がニュースになっています。

 京都市では、「オンラインで申請した人には受付番号が届き、その番号により振込み予定日をホームページ上から確認できる」という、一見便利そうなサービスを始めました(京都市:「特別定額給付金」のオンライン申請における給付スケジュール及び申請書の郵送時期の前倒しについて)。

京都市では、オンライン申請時の受付番号で特別定額給付金の振込(予定)が確認できるのだが

 しかし、問題は、その番号が15桁の数字で、最多6500件が表示されるページから、目視で自分の番号を探し当てる必要があったと報道されています(冒頭の画像。現在はブラウザでの検索の説明が加わっています)。

 「それなら、郵送申請のほうが簡単かも……」と思った人も多いかもしれません。しかし、横浜市で、開封され路上に散乱している給付金の申請書が複数見つかるなど、郵送ならではのリスクが浮き彫りになっています。

 テレワークやリモートワークが活用され、アフターコロナでの新しい働き方に目が向いています。しかし、筆者が訪れた大手家電量販店の店頭でも、「プリンタのインク」を購入する人が多かったのが意外でした。やっぱり、プリント派は多いのでしょうか。

ハンコ? サイン? デジタル署名など、紙問題は変化するか

 日本では長い間、デジタル化を阻んでいると問題視される紙問題。テレワークやリモートワークのさなか、駅のポスター広告「ハンコを押すためだけに出社」に注目が集まりました。

 この紙問題の根本は、2つあると筆者は考えています。

 1つは日本ならではの印鑑。これは、「印鑑を押す側」と「受け取る側」のデジタル化への同意が必要であるのと同時に、セキュリティの観点から、双方で「どの電子印鑑サービスを選び、導入するか」という問題です。

友人からのプレゼントされたネーム印。印鑑には使えませんが、鳥と猫が隠れている遊び心も

 もう1つは法律が絡む問題。デジタル文書についての法律は、平成16年に施行された「e-文書法」があります。しかし、この法律、国税の関係書類などを電子データで保存することを容認することを基本にしています。たとえば、3万円以上の領収書などは紙で保存する必要があり、まだまだデジタル化への整備の課題は多く残ります。

 また「本人以外が押した印鑑に効力はあるか?」という、いわゆる署名代理や押捺代理の法的な判断は、判例がなく法的には定かではないとされているようです(川添利賢「署名代理と二段の推定」(立教法務研究、2008))。

 フリーランスである筆者も、クライアントに出す請求書はプリントしてハンコを押し、スキャンしてからメール添付、もしくは郵送しています。毎回、クライアントの担当の方々の手をわずらわせて恐縮に思っているので偉そうなことはいえませんが……。

 米国にも住んでいた筆者としては、「ハンコよりも、欧米みたいにサインのほうがラクチン」と若い頃は思っていました。しかし、しっかりした契約の場合、公証人や領事館でのサインの認証(ノーラリゼーション)が必要になるケースもあるので、想像するほどラクではありません。

 認証が必要ない銀行窓口での引き出しや買い物時の小切手の振り出しでも、同じサインと顔写真の入ったパスポートや運転免許証が必要なので、手数としては同じかもしれません。

 筆者の予想では、この問題のDXは、日本では電子印鑑を飛び越し、「マイナンバーカードと暗証番号での本人確認」になる気がしています。しかし、同サービスへの全面移行へのハードルも高いようで、一律導入の目処はわからないのが正直なところでしょう。

知っておくとわかりやすい、対数グラフ

 新型コロナウイルスの話題に絡め、日本ではなじみがない事例として、もう1つ挙げておきたいものがあります。

 日々ニュースで報道される「感染者数」。その人数が、「多いのか、少ないのか」、「感染が収束しているのか、してないのか」などが、わかりにくいと感じる人もいるかもしれません。

 その理由のひとつに「対数グラフが日本ではなじみがないから」と筆者は推測しています。

 対数グラフは、大きなデータ推移などに使われるグラフで、市場規模など、国によってバラバラのデータを俯瞰するのに役に立ちます。IT業界では、よく知られた「ムーアの法則」にも使われています。

ムーアの法則。縦軸が対数になっている。

 普通のグラフのように「1、2、3、4……」の目盛が等間隔に並ぶの対し、「1、10、100、1000」などが等間隔に並んでいます。よく使われるのは、片対数グラフと呼ばれるY軸の目盛が対数になっているものです。

 先月初め「日本だけ感染者数の推移がおかしい」なんて、怖いニュースも流れました。しかし、片対数の最新のグラフを見ると、他の国同様、ちゃんと横ばいになりはじめています。気になる方は「対数グラフ」「感染者数」のキーワードで検索してみてください。まだまだ警戒が必要段階ですが、とりあえずは過度な不安は必要ないと筆者は思っています。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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