別人への“なりすまし映像”をリアルタイムに生成するのも簡単に、楽しくも少し怖い現実
そのビデオ会議の相手はホントに本物? 進化するディープフェイク
2020年04月28日 07時00分更新
ディープフェイク映像の悪用を防ぐための研究や取り組みも進む
ディープフェイク映像の悪用を防ぐ対策の研究も始まっている。
たとえば前述のニースナー教授らは、1000本以上のYouTube動画をベースに、映像加工ツールのDeepFakes、Face2Face、FaceSwap、NeuralTexturesを使って180万のフェイク映像データセットを生成。さまざまな研究チームが開発するディープフェイク検出器(アルゴリズム)が、それらの映像をどの程度見破れるかのベンチマーク「FaceForensics benchmark」を公開している。
GoogleとAlphabet傘下のJigsawでも、28名の俳優に有償で協力を仰ぎ、高品質なフェイク映像を3000本以上生成。このデータセットを上述のニースナー教授らに寄贈、研究を支援している。また、写真がフェイクかリアルかを判定する実験的ツール「Assembler」も提供中だ。
FacebookやMicrosoft、Amazon Web Services(AWS)では、ディープフェイク検出システムの開発につながる研究を公募する「Deepfake Detection Challenge」を共同開催。すでに応募は締め切られているが、優勝者には総額1000万ドル以上の助成金および賞金が授与される。
Facebookは、フェイクニュースの蔓延に対して真剣に防御策への取り組みを進めており、2020年1月には「ディープフェイクの条件を満たす動画投稿を削除する」新たなポリシーを発表している。
「テキストのフェイクニュースと同様に、映像もそれが『100%事実』であることを示すエビデンスにはならない。悪意のあるディープフェイク映像が存在することを認識してほしい。また、(自分がフェイク映像の“素材”にされないように)鮮明に撮影された顔の映像をむやみに共有、公開しないよう注意すべきだろう」(スン氏)
ビジネス活用も広がるディープフェイク、大きな可能性も
もっとも、ディープフェイク技術そのものが「悪」というわけではない。Avatarifyでいたずらを仕掛けたアリエフ氏のように、純粋に楽しむための利用法もある。フェイク映像投稿の排除に取り組むFacebookでも、パロディや風刺コンテンツなど、誰もがフェイクだと気づいて楽しめる面白コンテンツについては「削除の対象外」としている。
ビジネスでの活用も広がっている。たとえば英スタートアップ企業のSynthesiaでは、BBCの協力を得て、英語で話すニュースキャスターの映像に他言語の吹き替えを重ね合わせ、口の動きを自然な形で再構築する吹き替え映像技術を開発している。
スン氏はそのほかにも、たとえば個々の顧客にパーソナライズされた内容で語りかけるマーケティングビデオを生成するような使い方もできるだろうと語った。
「ユーザーによりパーソナライズされたマーケティングコミュニケーションの方法として、ディープフェイクは大きな可能性を秘めている」(スン氏)