日本では今春開始した5Gサービス
中国では昨年11月にスタートしている
日本でも3月に5Gの商用サービスが開始し、約1ヵ月が経過した。中国では先んじて昨年11月に5Gがスタートしている。
中国のモバイル市場は、「チャイナモバイル(中国移動)」「チャイナユニコム(中国聯通)」「チャイナテレコム(中国電信)」の3大キャリアがいずれも5Gサービスを提供。中国全土の都市の中心部などで使えるようになっており、今年も積極的に基地局を建設していく。また端末メーカーでは、ファーウェイ、OPPO、vivo、シャオミの4大メーカーが5Gモデルをリリースしている。つまりそれなりに5G対応機器が売られていて、5Gで利用できる環境ができていて、多少導入がこなれ始めた状況といっていい。
3G世代までは明らかに日本や韓国、欧米が優位に立っていたが、4Gで中国が台頭した。5Gでは中国流のやり方で活用していく。5Gの特徴といえば「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」であり、スマートフォンだけでなく、IoTで多様な機器がネットにつながることになることは伝えられている。そんな中国では、新型コロナウイルスの危機を先に迎えたわけだが、そこでも5Gが活用された。その活用例を見ていこう。
「超高速」かつ「超低遅延」の強みを生かしたものでは、工場でのIoT活用や自動運転車などの活用がよくイメージとして語られるが、中国の現場では、たとえば中国の一部都市の駅・空港・役所・ショッピングモール・学校などに導入されたサーモセンサーによる体温チェックシステムにおいての例が見られる。
体温をチェックするだけなら、サーモセンサーをネットにつなぐ必要はないと思うかもしれない。しかし、今回開発されたシステムでは、10m以内の人の顔認証を行ない、サーモセンサーで体温を測ったのち、体温に異常がある人については高速でクラウドにデータを転送。クラウドサイドのAI分析、その分析結果次第で端末側にもすぐ連絡が行き、必要があれば自動的に関係当局に通報される。市民や学生は多数いて、素早くチェックしないと、人がチェック待ちとなってしまう。5Gを導入することでこうした時間を削減、既存の製品よりも大幅な高速化が実現できたとアピールしている。
続いて、新型コロナウイルスが最初に蔓延した武漢で急遽作られた「火神山医院」や「雷神山医院」などの一部施設において運用された、チャイナテレコムとAI医療の「United Imaging Intelligence(上海聯影)」による「5G+クラウド+AI新型肺炎補助分析システム」を紹介しよう。
現地で撮影した患者のCTスキャン画像をクラウドに送信し、AIでウイルスタイプを判定するというもので、1人あたり300枚のCTスキャン画像から怪しい患部を発見・分析するのに、本来は5~15分かかった一連の作業が1分以内でできるようになったとしている。またAI分析により90%以上という高確率の正確さでウイルスの種類を判定できるようになったという。これにより作業時間が短縮できるのはもちろん、同じプロセスにおける医療スタッフ削減を実現し、効率アップを実現したとのこと。
武漢に近い湖北省黄岡市でも新型コロナウイルスによる肺炎患者は多数発生した。黄岡市は地方都市であり、大都市の病院と比べると医療の質は高くはない。そこで3月2日から、黄岡の「黄州総医院」で患者のCTスキャンを実施し、そのデータを5Gで送信し、内陸の大都市である四川省成都市の「四川大学華西病院」で人力で分析した。四川大学病院ではこのほかにもチベット自治区ギャンツェ市の病院の患者データをリモート診断したとしている。
また浙江省の「浙江大学第二医院救急センター」や雲南省の「昆明医科大学第一附属病院」の新型肺炎感染病エリアで導入されたのが、チャイナモバイルとVR企業の熾橙数字による遠隔診療システム「5G+VRリモート診療観測システム」である。VRを活用したリアルタイム360度ライブ動画は、4K動画同様に速度が必要だからこそ、5Gが生きる。このシステムによって、患者のいる診療室の様子を担当医やお見舞いにきた患者の家族親族がVRで病室内の様子を見ることができ、リスクを削減することができる。
さらに「多数同時接続」の強みを生かしたものでは、チャイナテレコムによる「5G+天翼クラウド会議サービス」がある。これは多数の人を繋げてオンライン会議をするためのものだ。それならば有線でもよさそうだが、新型コロナウイルスと戦う最前線では、ネットインフラを構築するスタッフを動かすことも難しい。中国各地の医療最前線に急遽設置された会議室同士をつないでオンラインミーティングするのには5Gは欠かせないとする。
各都市の中心で5Gインフラ整備はされたが、病院では5Gの電波が届いてはいなかったので、病院に5G基地局が急遽建設された。武漢で新型肺炎患者の搬送先である火神山医院や雷神山医院が急遽作られる際には、建物自体にも注目が集まったが、実は建物建設と並行して、チャイナテレコムは1月24日に、チャイナモバイルとチャイナユニコムは1週間後の31日にはファーウェイが5Gネットワークを整備し、「リモート診療プラットフォーム」を提供した。また前述の四川大学華西病院についても昆明医科大学第一附属病院についても、新型コロナウイルスの存在が顕著になった1月末に5Gインフラが急遽用意されている。
ちなみに5Gといえば自動運転車の活用にも期待されがちだが、現場での自動運転車については5G対応の清掃消毒機能を持った病院巡回ロボットが運用された程度だった。
5Gはスマートフォンでの通信速度が高速になるだけでなく、IoT機器も多数つながる。5G運用当初はどこの国でも自動運転車や無人工場、スマートホームなどがイメージされていたと思う。それだけではなく5Gは新型ウイルスと戦う現場など、災害現場の最前線においても固定回線に代わって活躍するインフラであり、すぐに建設できるようにすべきではないだろうか。
平常時でも、大量の画像撮影の処理をリモートでするのに5Gは活用できる。人口が少ない地域での診療で、画像データを別の組織に送って分析してもらうということも可能なはずだ。5Gは新型コロナ対策や災害対策に必要なインフラとして、日本でも取り組みの深化が求められそうだ。
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