次はフリーの画像編集アプリ「GIMP」を利用した検証だ。Phoronix Test Suiteで用意されている「リサイズ」「回転」「自動レベル」「アンシャープマスク」の4項目についてテストを実施した。
どのCPUもほぼ横ばいなのがリサイズと回転なのに対し、自動レベルとアンシャープマスクについてはリサイズを除けばRyzen Threadripper勢の方がRyzen勢よりも「遅い」点に注目。スレッド分割によるオーバーヘッドが大きいのか、コア数が多いほど遅いという興味深い結果となった。
大規模開発にRyzen Threadripper 3990Xは効くか?
次はやや方向性を変えてgccを利用したコンパイル時間を比較する。コンパイルするバイナリは「Apache」「gcc」「LLVM」「Linuxカーネル」の4種類をチョイスした。
Apache以外はどれもコア数が多い方が速く、特にRyzen Threadripper勢はLLVMやLinuxカーネルのビルドにおいて圧倒的に速い。ただ、Ryzen Threadripper 3990Xは速いことは確かだが、3970Xに対して圧倒的か、と言われると回答に苦しむ。gccのコンパイル時間ではそれが顕著だ。
ただ、巨大なソースから何度もビルドするような状況では、1秒でも早く待ち時間を短縮するためにRyzen Threadripper 3990Xという選択肢はありかもしれない。最も時間のかかる8C16TのRyzen 7 3800Xから乗り換えると仮定すると、12C24Tの3900Xに乗り換えるだけでジャンプアップが感じられるが、Ryzen Threadripper環境だと絶大な効果を得られるが、ビルドする対象によりジャンプアップ率は大きく変わるといったところだ。
最後におまけとして7-Zipによる圧縮処理も試してみた。7-Zipの処理はマルチスレッド化されており、Windows版だとベンチマーク機能も搭載されている。今回はPhoronix Test Suiteに組み込まれたCLI版7-Zipを使って同様のベンチを実施する。
グラフの数値はMIPS単位であるため、大きいほどより高速に圧縮できる。Ryzen 7 3800Xから見るとコア数の多いCPUほどMIPSも大きくなるが、Ryzen Threadripper 3990Xは3970Xよりもやや低く出ている。コア数が多すぎても使い切れないシーンは各所に存在するのだ。
まとめ:Ryzen Threadripper 3990Xは
現代計算機工学の限界を突きつける
以上で今回の検証は終了だ。実売50万円近い値段のRyzen Threadripper 3990Xだが、その投資に対し処理性能向上というリターンを得るには、相当に処理の内容を吟味する必要があることがわかった。プロセッサーグループの壁があるWindows 10(Enterprise版でもこれは存在する)が足かせでないことは、Linux環境でのベンチ結果が物語っている。
今のソフトウェア技術の下では、CPUコア数のスイートスポットはRyzen 9 3900X〜3970Xのどこかに着弾する。メモリー帯域が効くRAW現像系ならRyzen Threadripperだし、ゲーム単体で遊ぶならRyzen 9が好適だ。
Ryzen Threadripper 3990Xの発売からこのかた、さまざまな分野で多種多様ななベンチマークをしてきたが、3990Xは輝けるシーンが非常に限られている。(前にも書いたが)構造的に性能が出ないのではなく、それを活かすためのソフトウェア技術が個人で持てる論理128コアCPUに追い付いていない(使い切れない)のだ。
複数のソフトウェアを同時に動かすマルチタスクならRyzen Threadripperのコア数を活かせそうではある。それこそ、分散コンピューティングもそのひとつかもしれないので、次回試してご報告したいと思う。
古参の自作PCユーザーなら4コアや8コアのHEDT CPUが出た時にもマルチスレッド化の壁を痛感させられた覚えがあると思うが、Ryzen Threadripper 3990Xはその壁をとてつもない高さで復活させてしまった。Ryzen Threadripper 3990Xが凄いのは価格やスペックはもちろんだが、いち個人にも現代計算機工学の限界を感じる事ができること、ではないだろうか。

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