3歳児くんの保護者をしてます盛田諒ですこんにちは。うちの近所に言葉がしゃべれず、代わりにスキンシップをしてくる知的障害者の人がいるんですね。肩をたたき、指で年齢をたずねて、なぜか肩をもんでくれる人。以前は突然肩をたたかれるたびにギョッとしていたんですが、最近肩をたたかれたときに「おっあんたですか、元気にやってますな」くらいの感覚で普通に握手をしている自分に驚きました。何度もやりとりをして慣れたというのもありますが、子どもがいるからってのもありそうです。子どもと数年暮らしたことで、知らず知らずのうちに違う世界を生きる人と接することの意味を学んできたのかもしれません。自分の世界がすべてじゃないとわかったというか、予想外のことに対しても「まーいっか」と笑える余裕ができたというか。
子がいると思いどおりにいかないことが当たり前になります。保育園に行くとき「そっちやーだ」と逆方向に腕をひっぱられたりして。初めはなんとか気分を替えてもらおうとなだめたりしていたのですが、最近は「じゃこっち行くか〜!」と逆方向に行ってみるようになりました。いざ逆方向に進んでみると普段と違う光景が見えて案外楽しいもんです。むしろ子のほうが不安げな顔になり「どこ行くの?」と言いはじめ、「あっ逆だったねこっちだった」と言って時間どおり保育園に着いたということもありました。着替えをしているとき、子が「見てー!」とちんちんを出してふざけていても、「えっ、ちんちん出てるな!?」とノリをあわせて大ウケしてしまったほうがむしろ楽しくスムーズに行ったりして。ただ余裕がないときにこれをやられると「えーいこのクソ忙しいときにちんちん出してるのは誰だーッ!フギャーッ!」ってな気持ちになるもんなのですが。
うちの話よりはるかに深刻な話なのですが、NHKで放送していた番組「#もしかしてしんどい?」も、親たちの余裕のなさが虐待につながっているという内容が大枠でした。男親として印象的だったのは、虐待事件を起こした男性たちがみな一所懸命に働いて評価されていたという話です。2014年、一人で子どもを育てていた父親が当時5歳の息子をアパートに置き去りにして死亡させる事件がありました。この男性は職場ではA評価、「正社員であることから下りられない」という重圧があったそうです。犯した罪が許されるものではないですが、人間まじめを通りこして余裕がなくなると「こうでなければいけない」という世界しか見えなくなってパンクしてしまうもんですよね。
男親はもとより、女性たちが「母親はこうでなければいけない」という世界に閉じこめられて、追いつめられて爆発してしまうというのは道理です。番組では「育児をしているお母さんに対する社会のネグレクト(責任放棄)が児童虐待の原因になっている」という表現がありました。そのとおりだなと思う一方、見方を変えればこの社会そのものが子どもを見る余裕がないほど追いつめられているということなんじゃないかとも思いました。他人に迷惑をかけず、礼儀正しく、自分のことは自分でする。そんなまじめな社会が余裕を失うにしたがい「他人に迷惑をかけるな、礼儀正しくしろ、自分のことくらい自分でやれ」という圧力を生み出し、自分自身を追いつめてきたんじゃないかと。
子どもというのは基本的に、他人に迷惑をかけて、礼儀を知らず、自分のことを自分でやらない人間です。それだけに、自分たちには見えていない外側の世界をあざやかに見せてくれる存在でもあるんですよね。今は親が社会に向けて「子どもがすみません」と頭を下げつづけているような状態ですが、報われないことがあったときにも「まーいっか」と思える余裕を与えてくれる子どもたちこそ、実は追いつめられた社会を救うヒーローだったりするんじゃないかと思うのです。けっして余裕があるわけでもない生活の中、そんなことをぼんやりと考えながら、今日もヒーローにパンツをはかせていきたいと思っています。そこのヒーロー待ちなさい!ちんちんをしまいなさい!
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。3歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。
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