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ツールもある、データもある、人も投入した―それでもうまくいかない企業への処方箋

データドリブン経営の実現をはばむ「3つの壁」、セゾン情報に聞く

2020年01月28日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 「2019年は“データドリブン経営元年”だった」。セゾン情報システムズ 流通ITサービス事業部の今野達矢氏は、昨年を振り返ってこう語る。データ連携プラットフォームの「DataSpider Servista」やセルフサービスBIツール「Tableau」などの導入支援サービスを手がける同事業部でも、昨年は新規顧客20社を含む40以上のプロジェクトを手がけたという。

セゾン情報システムズ 流通ITサービス事業部 事業部長 リンケージサービス部 部長の花香 勝氏、同社 流通ITサービス事業部 営業部 部長の今野達矢氏

 社内に眠る多様で膨大なデータを集約/分析/可視化してビジネスのインサイト(洞察)につなげ、最適な経営判断や新規事業立ち上げなどを実現する――。国内企業でも、そうした「データドリブン経営」を目指す動きが加速していることは間違いない。しかし、そうした理想像を夢見てプロジェクトに着手しても、現実には「7割近くの企業が“壁”に突き当たる」と今野氏は指摘する。「ツールもある、データもある、プロジェクトに人も投入した、でもうまくいかない。そういう企業を数多く見てきた」(今野氏)。

 そうした知見をふまえ、セゾン情報ではTableau Japanとの共催セミナーにおいて、データドリブン経営を目指す企業が突き当たりがちな「壁」やその解決策を紹介しているという。どんな「壁」があるのか、その内容を詳しく聞いた。

自社の経営改革で培ってきたノウハウを生かす「リンケージ・サービス」

 セゾン情報がTableauとセミナーを共催する背景には、セゾン情報自身がこれまで取り組んできた企業改革がある。

 今から5年前の2015年、セゾン情報では顧客企業から受託した大型システム開発プロジェクトで遅延を引き起こし、約150億円の賠償金を支払うという危機的な事態を迎えた。同社ではそれを契機として、経営だけでなく、財務、マーケティング/営業、技術、人事と、社内のあらゆる部門で根本的な業務変革を図った。具体的には、「データドリブンな」業務姿勢への全社的な変革である。リンケージサービス部 部長の花香 勝氏は次のように説明する。

 「(危機的状況を受けて)会社のすべてを変えていこう、という方針の中で、経営課題からプロジェクト課題、人事の課題、あらゆる部門の課題を解決する手段として、セルフサービスBIのTableauを導入した。たとえば経営会議でも、それまでのExcel帳票とは違ってその場ですぐに必要なデータの分析ができるようになり、経営判断が非常に早くなった」(花香氏)

セゾン情報では2016年から、経営だけでなく全社的な取り組みとして「データドリブン経営」に取り組んできた

 もうひとつ、こうした業務変革の流れの中で、SaaSの積極的な導入を通じた業務の効率性と生産性の向上も図った。これらの業務SaaS群に蓄積されるデータは、自社製品であるDataSpiderやHULFTを中心に据えて“つなぐ(連携する)”ことで、Tableauを使って一元的に分析/可視化できるようにしている。

 「経営や財務だけでなく、勤怠や経費精算まですべて可視化し、経営層が“会社の健康状態”をすぐに判断できるようにした。その結果、(3年間で)会社自体は減収であっても一人あたりの売上高(25%増)や利益率(39%増)は向上し、残業時間も大きく削減(20%減)できた。非常にいい形でデータドリブン経営が回っている」(今野氏)

訂正とお詫び:初出時「売上高(39%増)や利益率(25%増)」と記しておりましたが、正しくは上記のとおりです。関係者の皆様にお詫びのうえ訂正いたします。(2020年1月28日)

 こうして蓄積してきたノウハウを顧客企業にも展開しようというのが、現在のセゾン情報が新たな事業の柱として注力する「リンケージ・サービス」である。DataSpiderやHULFTを中心に据え、オンプレミス/SaaSの多様な業務システムに蓄積されたデータを集約/整理し、Tableauを通じて分析/可視化する環境を提供するものだ。

セゾン情報が提供するリンケージ・サービス。DataSpiderとHULFTによるデータ連携を軸として、多様な業務システムのデータを“つなぐ”

 「従来からTableauの導入/構築支援サービスを提供してきたが、多くの顧客企業ではその前段階となる『データ整備』ができていないことに気付いた。Tableauを導入しても、分析できる形でデータが準備されていないために思ったような効果が出ない。データ整備を行うためにDataSpiderも導入したいというニーズが広がったことで、現在のリンケージ・サービスが生まれた」(花香氏)

 こうした経緯があり、セゾン情報ではTableauとセミナーを共催することになった。セミナーの主要な対象者は、IT部門ではなくマーケティングやデジタル推進室、経営企画室といった事業部門(LOB)の顧客であり、実際に参加者の約9割はLOB所属だという。そうした理由は次に説明するとおり、データドリブン経営への道のりにある“壁”は技術的な障壁だけではないからだ。

3つの壁(1):ステークホルダーごとに思惑が違う「組織の壁」

 今野氏は、企業がデータドリブン経営の礎となるデータ分析を進めていくうえで直面しがちな「壁」が大きく3つあると説明する。「組織の壁」「データ未整備の壁」「パフォーマンスの壁」だ。

データドリブン経営の実現には「組織の壁」「データ未整備の壁」「パフォーマンスの壁」が立ちはだかる

 まずは「組織の壁」である。今野氏は、これは特に大きな組織、中でも買収合併(M&A)を繰り返して拡大してきた組織でよく見られる問題だと語る。

 データドリブン経営を目指したBI導入プロジェクトは、たいていの場合、経営層直属でBI推進担当部署/担当者が設けられ、そこがハブとなって各現場やIT部門との調整を進めていく。当初は全社的に大きな期待感があり現場やIT部門も協力的だが、3カ月ほど経つとそれぞれに問題と不満が表面化し、成果も上がらず、BI推進担当者が孤立してしまうような事態に陥りがちだという。

BI導入の「期待」と「現実」。組織の壁が乗り越えられなければ、プロジェクトが暗礁に乗り上げることも少なくない

 そうなってしまう理由として、今野氏は「組織間(経営層と現場)での目的/指標(KPI)の合意が不十分」であることを挙げる。

 BI推進担当者は、主に経営層の意向を受けてKPIを設定し、BIを構築していく。しかしここで、KPIの意味合いについて現場への説明と「合意」が不十分であれば、新たなBIツールでKPIを見た現場では「これまで使っていた数字と違う」と混乱したり、「このKPIで経営層に判断されても困る」と不信を募らせたりすることになる。

 「特にM&Aで異なる会社が合併したようなケースでは、データの名前は同じでもまったく違う意味合いで使われていることがよくある。社内のステークホルダーが多くなると、こうした問題も起きやすい」(今野氏)

 こうした「組織の壁」の対処法としては、BI推進担当者が現場と対面してKPIをひとつずつ「合意し直す」ことだという。実際に、セゾン情報が手がける導入支援プロジェクトでも、同社が仲介役として入りこの作業をするケースが多いという。

 具体的には、経営層が新しいBIに何を期待しているのかを現場に説明し、それに向けてどんなKPIを設定するのが適切なのか、現場がどんなデータを必要としているのかなどを議論する。経営層は知らないが、実は現場で重視されているKPIが存在するようなケースもあるという。あらかじめこうした「KPIの再設定」作業を行うことで、現場との意識の食い違いをなくすことができ、現場からの協力も得られやすくなるという。

ポイントは現場と対面してKPIを「合意し直す」こと

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