スタートアップビジネスに精通した弁理士との出会い方とは
「スタートアップ企業とスタートアップ特化弁理士の本音トーク スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE」レポート
パネルディスカッション「スタートアップ企業とスタートアップ弁理士の知財ガチトーク」
第2部のパネルディスカッションでは、スタートアップ企業の代表として、freee株式会社 法務本部長兼事業開発部長 桑名 直樹氏、株式会社ラフール CAO事業本部 サービス開発部 三浦 康司氏、カラクリ株式会社 執行役員 経営企画担当(登壇時、現在は取締役COO)鈴木 咲紀子氏の3名、日本弁理士会関東会中小企業・ベンチャー支援委員会から押谷 昌宗氏、木本 大介氏、竹本 如洋氏の3名、そして特許庁 ベンチャー支援班長 進士千尋氏が登壇。
「スタートアップ企業とスタートアップ弁理士の本音トーク」をテーマに、弁理士からみた視点とスタートアップからの視点を合わせて、スタートアップの成長に役立つ知財支援、知財の活用法について議論した。
Q.具体的な知財活動について教えてください。
桑名氏(以下、敬称略):「月1で弁理士さんとミーティングして、必要に応じて特許を出願し、サービスを展開するタイミングで商標を取得するのが基本。年間に何件特許出願、といったノルマを課してはいないのが現状です」
三浦氏(以下、敬称略):「これまで特許は2件、商標は5、6件登録済みです。知財活動としては、月1で社内のエンジニアと知財的な観点でのアイデアの吸い上げを行ない、弁理士さんにフィードバックして知財化の相談をしています」
鈴木氏(以下、敬称略):「弊社の場合、全体的なプロダクトのプランや中長期計画に沿った形で半年に2件を目標に掲げています」
竹本氏(以下、敬称略):「商標と特許でウェイトの違いはあるのでしょうか」
鈴木:「カラクリのサービスがローンチしたあとで商標を調べたところ、すでに「カラクリ」が取られてしまっていました。そのため、当初はどのように商標を譲受してもらうかに注力してきましたが、これからは特許に力を入れていきます」
竹本:「商標を調査せずに事業を始めて、リスクに直面した実例ですね。実際にどうやって譲り受けたのですか?」
鈴木:「実は、指定役務がかぶっている会社が2件あったんです。ひとつは人脈をたどり、法務部の方を紹介してもらいました。その商標でのサービスは流通しているものの、あまり使われていなかったことから先方から金額を提示していただき、わりとすんなり譲り受けることができました。もう1件はまったくつながりがなかったため、HPの代表の問い合わせにメールを送ったところ、3ヵ月間音沙汰が無く、これはもう難しいかも知れない、サービス名称の変更をも視野に入れ諦めかけたところにご連絡をいただき、結果的に快く譲渡してくださいましたが、こういったケースは珍しいと思います」
竹本:「スタートアップとミーティングをする際、弁理士さんは、どういうスタンスで訪問しています?」
押谷氏(以下、敬称略):「スタートアップは大企業と違って知財部や法務部がなく、調査も何もやっていない状態。予習する資料もないので、その場で調べながら、頭をフル回転させて、まずは相手の技術やアイデアを理解することに努めます。大事にしているのは、相手のアイデアを否定しないこと。その場でいい案がひねり出せなければ、いったん持ち帰って考えることを徹底しています」
竹本:「月1のミーティングには必ず弁理士さんが参加されているのでしょうか?」
桑名:「弊社では、プロダクトマネージャーとエンジニアで事前にブレストしたうえで、弁理士の先生と議論するようにしています。以前は、管理部が弁理士さんとミーティングしていたのですが、実際に何を作りたいのかわからず、伝言ゲームになってしまう。そこで、現在はプロダクトマネージャーと弁理士さんで直接ディスカッションしてもらう体制になりました」
Q.知財活動を始めたきっかけは?
桑名:「freeeは2012年4月の創業ですが、2013年3月に最初の特許出願をしています。社長がGoogleの出身なので特許の重要性を認識しており、プロダクトの構造を考える段階から弁理士に相談し、プロダクトをリリースする前に出願しました。」
三浦:「私の場合、前職で、大企業の特許を侵害して大変なことがあった経験が大きいです。ラフールに入社したら、社内で特許に詳しい人材がいなかったので、世界を目指すのであれば、知財意識を高くもったほうがいいと提案しました」
鈴木:「前々職は別のAIのスタートアップで今と同じようなポジションを担当していたのですが、当時はAIがブームになりはじめたばかりの頃で、オープンイノベーション的なお話をいただくことがとても多かったんです。そんななか、ある大企業から『NDAを結ぶからアルゴリズムを開示してほしい』と打診され、その契約内容を読むと、その後のアイデアはすべてその大企業のものになる、というような事が書かれていたのですね。そこから特許を意識するようになりました。今は、そのような不利な交渉は少なくなったので、それよりも製品をPRするためとリスク管理が特許取得のおもな目的です」
Q.知財予算はどのように決めている?
桑名:「管理部の予算として知財費用を計上しています。出願数のノルマは設けていませんが、出願の可能性のある最大数を予想して、それにかかる費用を枠として取っています」
三浦:「弊社は知財予算がまったくないので、その都度、説得してひねり出してもらっています」
鈴木:「カラクリでは、年間に特許出願2件という目標はありますが、予算に関しては特に決めておらず、いいものであれば出す、という形です」
木本氏(以下、敬称略):「予算はある程度きちんと考えておいたほうがいいけれど、あまり厳密にはしない方が良いと思っています。いかにノルマをつくらずに、エンジニアを巻き込んで特許を出そう、発明しよう、という雰囲気をつくっていくかが大事です」
竹本:「しかし外国出願になると大金がかかりますよね。そのときはどうすればいいでしょう?」
木本:「外国出願は、国ごとに、日本と外国の事務所と翻訳の費用かかります。手続きや翻訳の費用は、翻訳を内製化するなど、工夫次第で抑えられるとは思います」
三浦:「まだ具体的に海外展開を考えていない段階では、コスト負担を考えると、なかなか出願しづらいと思います。とはいえ特許は先願主義ですので、海外展開の可能性があるのであれば、とりあえずPCT出願をしておき、出願期限を先延ばしするのも手です」
進士氏(以下、敬称略):「ベンチャーの方は弁理士さんに『出願するべきか? どこの国に出せばいいか?』を相談したいのに、逆に、弁理士さんからは『出願したいですか? どの国に出したいですか?』と聞いてくる。このコミュニケーションをうまくやるにはどうすればいいんでしょうかね」
木本:たとえば、大企業と協業したプロダクトをローンチする際、スタートアップ側の技術が特許化されていないと、協業先に迷惑をかける可能性があります。特許性があるかどうかではなく、何を守りたいか、という発想で考えるといいかもしれません。
竹本:「海外展開する場合、現地に拠点や工場を作るには巨大なコストがかかります。海外の特許を持っていれば、現地の企業にライセンスしてビジネスをする可能性が生まれる。知財なら紙一枚でできることなので、考えてみるのもいいと思います」