SDVoEアライアンス各社が日本市場での取り組み拡大に向けたミーティングを開催
業務用AV市場に「SDVoE」の波、ネットギアが注力する理由を聞く
2019年12月10日 08時00分更新
IPネットワークを使った業務用映像/音声伝送(AV over IP)の標準規格、SDVoEの普及促進を目指す業界団体「SDVoEアライアンス」は2019年11月12日、東京・京橋のネットギアジャパンオフィスにおいて、国内のアライアンスメンバー7社が集まり第1回のミーティングを開催した。ネットギアのほか、業務用映像音声(Pro-AV)機器メーカー、チップメーカーなど幅広いメンバー企業だ。
2017年に創立されたSDVoEアライアンスには現在45社(公表分のみ)が参加しており、SDVoE規格に準拠したPro-AV製品/ソリューションも次々に市場投入されている。多様なアライアンスメンバー各社が協調するエコシステムによって、寡占状態だった旧来のAV市場を大きく塗り替えていくこと――これがアライアンスとしての大きな目標だ。日本国内ではこれからSDVoEのプレゼンスを高め、その価値を訴求すると共に導入事例を拡大していく段階にある。
SDVoEアライアンスの創立メンバーでもあるネットギアでPro-AV市場向けサービスやフルマネージスイッチを担当するプロダクトラインダクレクターのローレント・マジア氏に、グローバル市場でのSDVoEの現況と今後の見通し、日本市場への期待、さらに“SDVoE/Pro-AV専用”として発売された100ギガビットEthernetスイッチ新製品「M4500シリーズ」などの話を聞いた。SDVoEアライアンスミーティングの模様と合わせてお伝えする。
「SDVoEは、HDBaseTを置き換えるうえで最良のテクノロジーだ」
マジア氏はまず、Pro-AV市場における伝送規格の現状と今後の見通しを説明した。
現在のPro-AV市場では、映像入力/出力側合わせて年間およそ400万ポートの製品が出荷されている。3年ほど前は、そのほとんどをHDBaseT規格の製品が占めていた。HDBaseTはEthernetケーブルを使ってフルHD映像を伝送するための規格だが、レガシーな映像伝送技術の延長にあり(IPベースの技術ではなく)、基本は映像ソースとディスプレイを“1対1”で接続する仕組みだ。“多対多”で接続を柔軟に切り替えたり、マルチディスプレイに分割表示したりするためには、従来どおりマトリクススイッチなどの専用機器を間に挟む必要があり、コストもかかる。
そこで新たに登場したのが、SDVoEのようなAV over IPの技術だ。もともと“多対多”の接続が前提のIPネットワーク技術をベースとしており、映像ソースとディスプレイ間の接続や表示方法(マルチディスプレイへの分割など)をソフトウェア的に柔軟に制御できるという大きな利点がある。普及しているIPネットワークの技術や製品、部品を使えるため、価格的にも割安に実現できる点もメリットだ。
マジア氏によると、HDBaseTからAV over IPへの移行は急速に進みつつあり、すでに市場の10%程度はAV over IPに切り替わっているという。そして、3年後にはこれが50%程度まで拡大する見込みだ。そしてSDVoEは現在、このAV over IPのおよそ半分を占めている。
SDVoEの採用は特に米国で進んでおり、現時点ですでに20%程度の市場シェアを獲得しているという。名前は明かせないものの、世界トップクラスの時価総額を誇る複数の米国テクノロジー企業や、米政府機関などもSDVoEのユーザーだという。公表されている導入事例はEU議会のほか、空港やビル、スタジアム、ビル、大学キャンパス、病院など多彩だ。
「当初、HDBaseTがPro-AV市場で多く選ばれたのは、映像品質が“パーフェクト”だったからだ。フルHD映像を非圧縮で伝送し、レイテンシもゼロだ。一方で、AV over IPでは多くの技術がパーフェクトではなかった。しかしSDVoEは、HDBaseTのように映像品質を第一に考えており、レイテンシもゼロだ」(マジア氏)
SDVoEでは、視覚的にオリジナル映像と見分けのつかない独自の映像圧縮技術(ビジュアリーロスレス圧縮)を採用しており、レイテンシもない。さらに導入しやすいコストも実現できるため、「SDVoEはHDBaseTを置き換えるうえで最良のテクノロジーだ」とマジア氏は強調する。
またSDVoEは、大型のビデオウォールやデジタルサイネージといった大規模な導入シーンだけではなく、たとえば企業会議室に設置するビデオ会議システムのような、より小規模で汎用的な用途にも対応している。「一例として、アライアンスメンバーのSavant社では、家庭向けのSDVoEソリューションを提供している。HDBaseTの適用領域は、すべてSDVoEでカバーできる」とマジア氏は紹介した。
「年間400万ポート」の販売が見込める市場の誕生、ネットギアの狙い
ネットギアは、SDVoEアライアンス創立メンバーの1社であり、唯一のネットワークスイッチメーカーである。なぜネットギアはSDVoEアライアンスに参加することにしたのか。マジア氏は、その背景となるエピソードを披露してくれた。
6、7年前のこと、Pro-AV市場のメーカー企業が急に、こぞってネットギアのスイッチを購入し始めたという。不思議に思ったマジア氏らは顧客らに話を聞き、AV over IP時代の到来で「HDBaseTの400万ポートが“10ギガビットEthernetの400万ポート”に切り替わる」という、AV市場の大転換期が訪れていることを理解した。これは、ネットギアにとって大きなビジネスチャンスの発見だった。
「Pro-AV市場では、たとえばシスコが提供するような、高機能だが複雑で価格も高いデータセンター向けスイッチは求められていなかった。顧客はシンプルで信頼性が高く、コスト効率の良いネットワークスイッチ――、つまりネットギアの特徴と合致したスイッチを求めていた」(マジア氏)
マジア氏は、AV over IPが成功を収めることを確信している。これまでも電話、監視カメラといったものがIPベースのテクノロジーに置き換わってきた。「顧客が欲するのは『新しい技術/方式』ではなく『新しい使い方』だ」(マジア氏)。それを実現できるのは、HDBaseTにはない柔軟さを実現するIPベースのテクノロジーだと強調する。
こうしてネットギアはSDVoEアライアンスの立ち上げに参加した。アライアンスの取り組みにおけるネットギアのゴールは、「Pro-AV市場のネットワーク分野におけるリーダーになることだ」とマジア氏は説明する。そのために、Pro-AV市場のユーザーが利用しやすいシンプルかつ信頼性の高い製品を提供していく。
「製品をシンプルにするだけでなく、Pro-AVシステム構築時のネットワーク設計や導入、機器設定の作業も可能な限りシンプルにする。さらにビジネスサポートも、Pro-AVユーザーに適したかたちで提供していきたい」(マジア氏)
こうしたネットギアの新たな方向性を示す動きが、新製品であるM4500シリーズのリリースだ。M4500シリーズは100GbE対応のフルマネージドスイッチだが、明確に“SDVoE/Pro-AV専用”モデルと銘打たれている。
M4500シリーズを開発したきっかけについて、マジア氏は「Pro-AV市場の顧客から『100GbEスイッチのラインアップはないのか?』と質問を受けるようになったためだ」と語る。SDVoE市場には多数の映像ソース(エンコーダー)とディスプレイ(デコーダー)を接続するニーズもあるが、それまで多数のポートを備えるスイッチは主にデータセンター向け製品であり、Pro-AVの現場で利用するには複雑すぎた。そこで、シンプルかつ安価なスイッチを開発することにしたという。
このM4500シリーズによって、最大で320入力×320出力のSDVoEシステムが構築できるようになった。マジア氏は、適用先のユースケースとしては「映像ソース(入力)の多い現場」だと語り、具体的には多数の監視カメラ映像を表示する警察や警備企業の監視センター、大規模なアミューズメントパーク、多数の会議室間をつないでビデオ会議を行う企業本社などを挙げた。
なおネットギアでは、従来から“SDVoE Ready”スイッチとして展開している「M4300シリーズ」においても新製品を発売している。より小規模なSDVoEシステムにも対応できる、10GBASE-T×16ポートの「M4300-16X」などもラインアップされた。
日本市場の今後についてはどう見ているのか。マジア氏は、現在の日本市場は米国市場から2年ほど遅れているが、グローバルで起きているSDVoEの急成長は、やがて日本でも同じように見られるだろうと自信を覗かせた。「市場の変化は日本でも必ず起きる」。
Pro-AV市場での急速な注目の高まりと、日本市場における今後の展開
東京で初開催となったSDVoEアライアンスのミーティングには、Aquantia(Marvell)、Christie(ウシオライティング)、Semtech 、Black Box(ブラックボックス・ネットワークサービス)、IDK、Canare(カナレ電気)、そしてネットギアの各メンバー企業が出席した。
ミーティングではまずSDVoEアライアンスのチャールズ・ダブソン(Charles Dobson)氏が、アライアンスの現況やグローバルでの導入事例、マーケティング活動の成果などを紹介した。
アライアンスでは現在、SDVoEシステムの導入に携わるエンジニア向けのオンライントレーニング「SDVoEアカデミー」を提供している。ダブソン氏は、SDVoEアカデミーでは約30のコースを提供開始しており、受講生(登録ユーザー)の数は現在1600名を超える規模に拡大していると紹介した。ちなみにニュースレターの登録数、Webサイトへのアクセス数とも昨年比でおよそ2倍となっており、SDVoEのプレゼンス拡大とAV業界からの関心の高まりが感じられる。
来年2020年は、引き続き導入事例の発表件数拡大とアカデミーのコース拡張を図っていくほか、日本や中国でのプレゼンス向上を目指してWebサイトなどのコンテンツローカライズを進めていくと説明した。また認定パートナープログラムについても新たなバージョンを開発していく方針だという。
ミーティング後半では、APAC他国での取り組みを参考にしながら、日本市場におけるプレゼンス向上に向けた取り組みについてメンバー各社間で活発な議論が交わされた。
議論の中では、前述したオンラインコンテンツの日本語化だけでなく、SNSなどを通じたマーケティングとコミュニケーションの強化、SDVoEアライアンスとしての展示会への出展、さらにメンバー各社のプライベートショーへの相互出展などのアイデアが出た。日本国内のメンバー企業は現在14社だが、メンバーの輪をさらに拡大し、より大きな市場の動きへとつなげていく方策も探っていく方針だ。
(提供:ネットギア)