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10年間におよぶPro AV市場での取り組みで培ったネットギア製品の強みをアピール

「AV over IP」国内外有力企業17社の合同イベント、ネットギア本社で開催

2023年02月27日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 近年では業務用オーディオ/ビジュアル(Pro AV)市場でもデジタル化が進み、利便性の高いIPネットワークを使って伝送を行う「AV over IP」に注目が集まっている。企業会議室や商業/公共施設だけでなく、スタジアム、エンターテインメント/eスポーツ施設、映像スタジオ、企業会議室など、その活躍の場は数限りない。

 そんなAV over IP市場の国内外有力企業17社が集結するイベント「AV over IPパートナーサミット 2023」が、2023年2月21日と22日にネットギア本社(東京・京橋)で開催された。ネットギアのパートナーであり、市場をリードする各社からの最新ソリューションや事例の紹介、さらにソリューションのデモ展示もあり、AV over IPの最新トレンドに注目する多くの市場関係者でにぎわった。

米ネットギア 会長兼CEOのパトリック・ロー(Patrick Lo)氏

パートナー各社によるソリューション展示会場も設けられた

サッカーW杯で起きた“三苫の1ミリ”の背後に「AV over IP」あり!?

 冒頭のあいさつに立った米ネットギア 会長兼CEOのパトリック・ロー氏は、さまざまな用途で利用が進むAV over IPの最も有名な利用シーンとして、2022年のサッカーW杯で“三苫の1ミリ”を判定したことで大きな話題を呼んだ「VAR(ビデオ アシスタント レフェリー)」を取り上げた。

 サッカーW杯で使われたVAR技術は、ソニーグループのホークアイ(Hawk-Eye)が提供するものだ。ホークアイでは、広いフィールドをカバーするように設置された12台のトラッキング専用カメラからの映像データを、パートナーであるネットギアのAV over IP向けスイッチ「M4500シリーズ」を使ってIPネットワークで伝送している。

 さらにロー氏は、マカオのカジノリゾート施設「MGMコタイ」において壁面を高精細映像で彩る巨大ディスプレイ(LEDビデオウォール)、映像スタジオで高精細な背景映像をリアルタイムに生成/表示するLEDウォール方式のバーチャルプロダクションなどでも、複雑な制御を得意とするAV over IPが活用されていると語る。ちなみにこの2つの事例は、ネットギアのパートナーである米Megapixel Virtual Realityが手がけたものだ。

AV over IP技術を用いてMegapixel VRが提供した、カジノリゾートの巨大ビデオウォール、映像スタジオでのバーチャルプロダクション

Pro AV業界「5つのトレンド」の背景にある「ITとAVの融合」

 米ネットギアでAV over IPのビジネス開発担当VPを務めるリチャード・ヨンカー氏は、現在のPro AV市場における「5つのトレンド」と、それらのトレンドに共通する背景とは何かを説明した。

 ヨンカー氏が挙げたのは「ハイブリッドワーク&会議のバーチャル化」「パーチャルプロダクション&メタバース」「スタジオ、ビデオ会議システム、ライブストリーム&クラウド」「テレビの終幕(“リニアブロードキャスト”化)」「すべては“ライブ”ディスプレイ&センサーモーションへ」という5つだ。

米ネットギア AV over IP のビジネス開発担当VPを務めるリチャード・ヨンカー(Richard Jonker)氏。

 こうしたトレンドの共通点とは何か。ヨンカー氏は「ITとAVの世界の融合」だと説明する。たとえばバーチャルプロダクションにおいては、3D仮想空間(メタバース)内のカメラ位置に基づいて背景映像をリアルタイムに生成し、低遅延でLEDビデオウォールに表示させる必要がある。またスポーツ中継では、選手のモーショントラッキングによりリアルタイムに3Dモデル化された試合風景を、視聴者が自由視点で表示させるといった新たな楽しみ方が求められるようになっている。

 こうしてITとAVの融合が進むうえで、AV over IPはいくつもの強みを発揮する。IT側のネットワークと統合的に構築できる「柔軟性」に加えて、これまでPro AV市場で使われてきた伝送方式では実現が難しい「長距離伝送」や「拡張性」を可能にする。「QoS(サービス品質)」の仕組みを備えるため、AVトラフィックに優先度を設定できる。そして、ITの世界では汎用的なスイッチやケーブルを使うため、大規模なシステムでも「手ごろな価格」で導入できる。ヨンカー氏は、前述した5つのトレンドはこうした強みを持つAV over IPを源泉として拡大している、と語った。

「5つのトレンド」の背景にある共通点とAV over IPの強み

10年前から「AV over IP化の促進」に取り組んで来たネットギア

 続いて米ネットギアでPro AVデザインチームの本部長を務めるローレン・マシア氏が、「AV over IPとは何か」というテーマで講演を行った。

 前述のとおり、AV over IPではデジタル化したオーディオ/ビジュアル信号をIPネットワークで伝送する。その優位性として、マシア氏はまず「柔軟さ」を挙げる。

 「(AVの伝送方式が)アナログからデジタルに移行しても、基本は“1対1”で固定された有線の直接接続に変わりなく、柔軟性がなく面倒な配線が必要だった。たとえばHDBaseTはネットワークケーブルを用いて伝送を行うが、Ethernetではないのでネットワークスイッチを併用することができない。一方で、AV over IPならば標準的なIPネットワークとして機能するので、非常に柔軟に構成できる」(マシア氏)

(左)米ネットギア Pro AVデザインチーム 本部長のローレン・マシア(Laurent Masia)氏 (右)AV over IPの主要なユースケース。左のソースと右の表示/再生デバイスを、ネットワークスイッチ経由でシンプルに接続できる

 上図のように複数のAVソース/デバイス間を接続(ルーティング)するために、これまではマトリクススイッチャーのようなハードウェアベースのソリューションが用いられていた。一方、AV over IPはソフトウェアベースでルーティングが可能であり、スケーリングも容易だ。ここも大きなメリットである。

 「ただし、AV over IPのシステムを構成するうえでは、スイッチングファブリックが非常に重要な役割を果たす。したがってスイッチが良いものでなければ、周辺にあるAVシステムがいくら高価なものであっても無駄になってしまう」(マシア氏)

ちなみに同イベント会場のPAマイク、Web中継用カメラ、プレゼンテーション表示用ディスプレイなども、すべてAV over IPで構成されていた

 ネットギアでは約10年前にVideo over IPのメーカーと初めて提携し、その後2017年には、ソニーやクリスティ、セムテックなどのPro AV機器メーカーと共にSDVoEアライアンスの設立にも参加した。それ以降も、さまざまなAV over IPの標準化アライアンスに参画し、パートナー企業も拡大して、Pro AV市場のAV over IPへの移行を促進する活動を続けてきた。

 「ネットギアでは、AV over IP化へのプロセスを“ITの視点”ではなく“AVの視点”からとらえ、シンプル化かつ標準化していく取り組みをサポートしている」(マシア氏)

ネットギアが参画する標準化アライアンスと、提携するPro AV市場のパートナー企業。パートナー数は200社を超えた

 ネットギアが取り組む「シンプル化」のひとつが、パートナーAV機器メーカーとの相互接続認証の取り組み、およびそれに基づくスイッチへのプロファイルの搭載だ。認証済みパートナーのAV機器であれば、ネットギアのAV over IP向けスイッチ経由で必ず接続することができる。さらに、あらかじめ用意されたプロファイルを管理画面で選択するだけで、最適な接続設定も完了する。ITネットワーク機器の設定に慣れていないPro AV業界のユーザーであっても、機材選定やセットアップの時間を大幅に短縮できるわけだ。

ネットギアでは“Pro AVライン”として幅広いスイッチをラインアップしている。あらかじめ用意されたプロファイルを選択するだけで設定可能なPro AV向け管理画面も提供

 これに加えて、実際の現場では「これから構築するシステムではどのスイッチを導入したらよいか」「複数のスイッチを連結する場合はどう設定すべきか」「特定の機器間でうまく通信できないが何が問題か」といった問題も起こりうる。それに備えて、ネットギアではグローバルで「Pro AVデザインチーム」を組成しており、メールひとつでサポートを行うと紹介した。

 「Pro AVデザインチームによるサポート、AVインテグレーターからの声とアドバイスに基づいて開発したスイッチハードウェア、シンプルで簡単に使えるAVプロファイルやWebインタフェース――。これらがまさに、ネットギアのPro AVライン製品が世界中のAV over IPの現場で選択されている理由だ」(マシア氏)

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