オラクルが10カ国調査、「バックオフィスでの業務AI活用が遅れている」日本企業の課題も解説
「人間のマネージャーよりAIを信頼」が76%、日本企業のAI意識
2019年11月14日 07時00分更新
日本オラクルは2019年11月13日、オラクルがグローバル10カ国/地域で実施した「職場におけるAI(人工知能)」に関する意識調査の結果を公表した。「職場において何らかの形でAIを利用している」回答者はグローバル平均で50%、しかし日本は29%と調査国中最下位の活用度となっている。
同日の記者説明会には慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏も出席し、特に日本企業における業務AI活用に向けた課題について解説した。
「マネジメントが論理的、合理的に行われていない」から人間よりAIが信頼される
この調査は2019年7~8月、世界10カ国/地域(米国、英国、フランス、中国、インド、オーストラリア/ニュージーランド、シンガポール、UAE、ブラジル、日本)の企業正社員(一般従業員、マネージャー、人事リーダー)、合計8370名を対象としてオンライン調査で実施したもの。うち415名が日本の回答者だった。なお、同調査における「AI」の用語は厳密には定義されておらず、回答者が「AI」と考えるもの(たとえば何らかの自動化や予測のシステム、チャットボットなど)を指している。
前述のとおり、「職場において何らかの形でAIが利用されている」と答えた回答者はグローバル平均で50%だった。ただしその結果は国ごとに大きく異なり、上位3カ国のインド(78%)、中国(77%)、UAE(66%)と最下位の日本(29%)では、40~50ポイントほどの格差が見られる。
これと同様に「自分の会社は、将来的にAIを使った取り組みを実行できるスキルを持っていると思う」と答えた回答者も、グローバル平均が58%のところ日本は最下位の36%であり、やはり上位の国々と40~50ポイントの差があった(トップ3はインド87%、中国79%、UAE77%)。
岩本氏は、日本企業でも事業部門においてはAI活用の気運が高まっている一方で、人事や総務、経理といったバックオフィス部門(間接部門)におけるテクノロジー活用意識が「極端に遅れて」おり、データ活用スキルをもつ人材もいないと指摘する。そもそも、AI導入の前提条件となる「業務のデジタル化」や「データの収集/統合」すら実現できていない現場が多い実情もある。
ただし、日本でも業務AI活用への期待そのものは高い。「自身のマネージャーよりロボット(※ここではAIとほぼ同義)を信頼する」という回答の総計は、日本の76%がグローバル平均の64%を超えている。内訳を見ると、日本では「特定の仕事や質問で」AIのほうがマネージャーよりも信頼できる仕事相手だという回答が多かった。
「(人間の)マネージャーよりもロボットがより優れている」と思う点について、日本では特に「バイアスのかからない情報の提供」「仕事のスケジュールのメインテナンス」「予算管理」といった回答が、それぞれグローバル平均より10ポイント以上高い結果だった。
また、その反対の「ロボットよりもマネージャーが優れている」と思う点について、日本では「(業務の)権限委譲」や「コンフィデンシャルな(内密の)質問を恐怖心なしで行える」という回答がグローバル平均より10ポイント以上低く、マネージャーに対する“信頼の薄さ”がうかがえる結果となっている。
「これは『マネジメントが論理的、合理的に行われていない』と(部下に)見られている結果だと考えられる。データを活用した合理的なマネジメントではなく“感覚的”な指導がなされており、結果的に働き方の効率も悪くなっている。マネジメントは100%データだけでできるものではないが、あまりにも合理性がなさすぎるのが日本の現状ではないか」(岩本氏)
また「AI活用によりもたらされる機会は何か」という質問について、日本では「自由時間が増える」という回答が42%と高い一方で、「給与が上がる」(7%)や「昇格スピードが速くなる」(4%)は低く、グローバル平均と10ポイント以上の差があった。日本におけるAI活用はまだ「既存業務の自動化」というイメージが強く、その先にある「業務生産性の向上」や「自社の競争力向上」まではイメージできていない結果と見られる。
まずはAI活用の前提「デジタルデータの収集」「合理的マネジメント」を整えよ
岩本氏は、バックオフィス業務におけるAI活用の成熟/進化を5段階のチャートで示した。まずはAI活用の大前提となる「データの収集、入力」を進め、データに基づく合理的なマネジメントも実践していく。ここでは単にデジタルデータ化するだけでなく、それを統合してデータ分析しやすい環境を作る必要がある。
「たとえば人事領域を見ると、日本では大手企業でも十数社の人事システムが入っているようなケースがある。『データ』はあるがバラバラで、『記録』が目的となっており、分析しやすい形にはなっていない。データ活用に対する意識は高まっているが、バラバラのデータをつなぎ合わせるのに苦労している実態がある」(岩本氏)
データの収集が進み、AIによるデータ分析を通じて「インサイト(洞察)」が得られるようになれば、マネージャーは部下のモチベートなど「人間でしかできない業務」を通じて付加価値を出していく。
次段階の「優先度の決定」も、AIがデータから導いた結果に対して経営の意思や考え方を融合していく、人間にしかできない仕事となる。この人間による意思決定を学習させることで、AIは経営の意思や考え方も反映した判断ができるようになり、より高精度な「レコメンデーション」が実現できるようになる。
日本オラクルの原智宏氏は、このAI活用の成熟度モデルを会計やサプライチェーン管理といった業務に当てはめ、具体的な効果を説明した。会計業務の場合、請求処理の自動化から始まり、AIによる例外処理(異常値)の発見、例外処理の順位付け、そして過去の処理事例から学習した例外承認やアクションのレコメンド、といった進化過程が期待できる。最終的には業務プロセスが最適化され、業務負荷軽減と生産性向上、決算業務の早期化が促進されるというストーリーだ。
「オラクルでは、『AIが人を介さずに意思決定を行う』という考え方ではなく、『最終的な意思決定を人が行うために』データ収集やインサイト獲得といった部分をいかにAIで省力化できるか、アプリケーションを通じていかにサポートしていくかを考えている」(原氏)
オラクルでは従来から、さまざまなAI技術を「アプリケーション/SaaSに埋め込んだ形で」提供する戦略をとってきた。そのAI戦略の下で、現在は特に、人間の意思決定をアプリケーションに埋め込まれたAI機能でサポートする「Adaptive Intelligent Apps(AIA:適応型インテリジェントアプリ)」、そして「Intelligent UX(インテリジェントなユーザー体験)」と「Digital Assistants(デジタルアシスタント)」の3領域にフォーカスしているという。
後者の2領域については、「Ask Oracle」や「Digital Assistant」といったオラクルアプリケーションの将来像を紹介した。Aks Oracleでは、人間がアプリケーションや機能を選び起動するのではなく、『やりたいこと』をAIに伝えれば自動的にその処理が行われ、結果を伝えてくれるようなユーザー体験を実現するという。