ドコモの5Gサービス開始に向けてキーパーソンに直撃
藤森氏インタビュー
MOBILE EVOLUTION 2019での講演が終わった直後に、藤森氏に単独インタビューを行った。講演で語りつくせなかったいくつかのトピックについて紹介する。
■講演で特に聴衆に伝えたいと思ったことは何か。
藤森氏:5Gを普及させるカギはパートナーの存在であること。パートナーあってのドコモ、5Gだと思っている。講演では10の事例を出したが、すべてパートナーと一緒に開発したもの。パートナーとドコモが手を組むからこそ、こういう社会が実現できるということを伝えたかった。
同時に、そういう世界が来年春にいきなりできるのではなく、徐々にそうなっていく予定である。
4Gについてもサービス開始当初は数10Mbpsの通信速度だった。10年のサービス期間を経て、1500Mbpsを超える速度を提供できるようになった。5Gでもいきなり20Gbps出るわけではなく、徐々に進化していくことになる。
■来年春にサービス開始ということだが、パートナーとの協創のソリューションが出てくるのはいつ頃をイメージしているのか。
ドコモ5Gオープンパートナープログラムへの参加企業・団体は現在3000社を超えているが、そのすべてがソリューションを持っているパートナー様だけではない。ソリューションを使うフィールドパートナー様もいる。来年春のサービス開始時には、いくつになるかはわからないが、実サービスをいくつか提供していきたい。そこから徐々に増やしていく。フィールドパートナー様にはそれらのソリューションを先行してご使用いただくことができる。
■講演に5Gを通してドコモが目指す世界についての話があったが、5Gがある社会の全体イメージをもう少し教えて欲しい。
(藤森氏が所属している)法人営業でいうなら、社会的な課題解決をすることが大きな目標となっている。ドコモ全体で考えるなら、講演の最初にお伝えした体感革新、ライフスタイル革新、ワークスタイル革新の3つになる。5Gを使って新たなスタイル革新を実現する、というのがドコモ全体のメッセージ。
中期計画で出したbeyond宣言に。5Gという技術を使ってこんな風に社会を変えていこうというものがあった。AIとかIoTだとかVRとかを使って、仕事や生活が便利になるとか、ゲームなどエンタメで楽しくなるといったものがわかりやすい。5Gからというのではなく、まずその方針から5Gを使って新しい社会を実現していきたい。その中で法人営業はこういう社会課題の解決に取り組んでいきます、という流れになる。
■各ソリューションが解決する個別の課題ではなく、もう少し大きなくくりでフォーカスしているテーマはあるか。
法人営業の範囲で様々な社会課題を解決しようと考えた時、9つの分野に注目した。例えば働き方改革とか、医療分野だったり、高齢化社会など。その9分野は5Gだけでなく、法人営業として取り組んでいきたいと考えているもので、2年くらい前から取り組んでいる。
その中で特に5Gが有効に働くだろうと思っているのが働き方改革。働き方改革と観光・街づくりにはニーズが多いので、そこから先行して取り組んでいこうと思っている
■3000社のパートナー企業もそういう分野が多いのか。
いろいろな企業がいる、流通・製造業が多いが自治体も多いし、多岐にわたっている。講演でも取り上げたサン電子のスマートグラスAceRealも、主として製造現場、保守現場などで使うものだが、他にも様々な利用シーンが考えられるし、イベントでも非常に問い合わせが多い。
■5Gは海外との競争も激しくなってくると思うが、ソリューションの海外展開などは考えられないか。
海外でのインフラは海外のキャリアがやるが、海外の進捗についてはウォッチしている。良いところも悪いところも聞いているので、それは来年のサービスに向けて生かしていきたいと思っている。ソリューションに関しては、スマートファクトリーなどが海外でも注目されている分野で、ドコモでも力を入れて実証事例を作っているところ。
ドコモ5Gオープンパートナープログラムのように数多くのパートナー企業・団体を集めて5Gを推進していこうというプログラムは海外ではまだない。さらに、フィールド検証に活用できるクラウド基盤の協創プラットフォーム「ドコモオープンイノベーションクラウド」を用意しており、そこでAIや画像認識などのドコモの自社技術・サービスとパートナー様の技術・サービスを組み合わせて、新たなソリューションを開発していこうとしている。
■5Gのアプリストアのようなイメージが沸いたが、そう思っても良いか。
そういうことを目論んではいる。大企業に対しては大規模開発が必要になるからドコモが受託してサービス開発をしていくが、今後は中小企業の方々にも手軽に5Gを使っていただくということを考えると、ストアのようなものから5Gソリューションをご利用いただけるようにする方が良いのではないかと思う。そこで様々なサービスを安価で提供できるようにしたい。
講演とインタビューを通じて、藤森氏が一貫して強調していたのがパートナーとの協創の重要性だった。確かに日本には様々な社会的課題が山積しており、それはプラットフォームを1つドンと用意すれば解決するというものではない。回り道に見えるかもしれないが、多様なソリューション群を腰を据えて構築していくのが結局は最短ルートなのだろう。
一方で収益的な期待もあるだろう。ドコモの5Gネットワークは確かに強力なプラットフォームではあるが、ITにおいてハードウェアプラットフォームよりそのうえで動くソフトウェアやサービスの方が収益性が高い。4Gから5Gへの革命的進歩に伴い、一新されるプラットフォームの上で動くソリューションは巨大な収益源になるかもしれない。特にインタビューの最後にあった、5Gのアプリストアのイメージには強烈なワクワク感を覚えた。スタートアップや大学の研究室などが、自由に5Gソリューションを作り、利用できるようになったら、どんな世界が拡がるだろう。ドコモ5Gオープンパートナープログラムの今後の展開に期待したい。