次は「モビリティ」。「Surface Pro X」がそれにあたる。Surface Pro Xは、Surface Proの進化系といっていい。
LTEを内蔵し、同じサイズでありながらディスプレイが12.3インチから13インチへ大型化し、さらに本体は薄くなった。タイプカバーもペンを内蔵できる、新しいものになっている。なにより、CPUがx86系ではなく、ARM系コアの独自SoCである「Microsoft SQ1」になっている。ARM系を採用することはパフォーマンスや互換性を維持する上でリスクだが、消費電力を下げつつ「常時通信ができる」ものにするには有利となる。
これまでに出たARM系プロセッサー搭載PCでは、メインメモリーが4GBしかなかったり、ストレージが低速かつ低容量だったりと、「PCとしての必要なスペック」に課題があった。だが、どうやらSQ1はそうした部分やGPUパフォーマンスなどに手を入れ、「モバイル機器ではなくPCとして使える」(パネイ氏)ものにした。「いつでもどこでも使える」というモビリティ面での価値を本気で開拓するためには、自分達でまず作ることが重要だったのだろう。そのくらい、Surface Pro Xは攻めた製品だ。
そして最後が「新奇性」。冒頭で挙げた「2画面」はその方向性だ。中でも「Surface Neo」は、Windows PCとしての新しい可能性を探る製品といえる。
Surface Neoが使うOSは、「Windows 10X」だ。Windows 10Xは、Windows 10であってWindows 10ではない。2画面PC専用に作られたOSになるからだ。現在のWindows 10のコア部分を切り出し、それを元に再構築されたものになる。アプリケーションなどの互換性は維持されるものの、「従来のWindowsに継ぎ足して作ったもの」ではなくなるのだ。そうしたOSを用意し、どう使うかをアピールするのもまた、Surface Neoの役割である。新しいOSであるがゆえに、発売は今年ではなく「2020年ホリデーシーズン」だ。
こうした切り口を、「OSを先に提示する」のではなく「ハードウエアと共に提示する」のが、今のマイクロソフトだ。それはすなわち、ユーザーは「ソフトだけ」を使うことはなく、必ずなんらかのハードとセットでOS・ソフトを使うからだ。「こういうハードと一緒に使うことで、過去のPCとはこんなに違う」ことを打ち出す。
それが今のマイクロソフトであり、「プロダクティビティツールとクラウドの会社である」ことの本質でもあるのだ。ツールをアピールするにはソフトだけでは足りず、ハードも必須。「体験」をいかに見せるかが重要であるからだ。
そうした姿勢を体現するSurfaceは、日本でもすぐに発売になる。マイクロソフトの思惑に乗るかどうかはともかく、同社が日本市場を「体験の質の良さを評価してくれる場所」として、大切に思っている証拠でもある。
西田 宗千佳(にしだ むねちか)
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。