子どもとスマホの啓蒙は「みんなで繰り返し」が有効
「ゲーム機でSNSに入り浸る子ども」を狙う大人たちがいる世界で親ができること――高橋暁子×マカフィー対談
2019年10月04日 11時00分更新
「友達が多いこと」と、「人気を博すこと」は別
高橋 共感します。講演で中学校に招かれたときに聞いたのですが、Zenlyは友達が少ないと使っていても面白くないので、あえてTwitterとZenlyのIDを交換する掲示板などでフレンドを募り、知らない人も友達に追加しているそうです。それによって、知らない人に自分の居場所や自宅が明らかになってしまうにも関わらず、「それは便利だし、相手に居場所をいちいち聞かなくてもわかるから楽だ」という評価になっています。私はそれが非常に心配だし、保護者としては知らない人とはつながって欲しくないと強く思います。
ギャリー 『友達』と『人気を博す』、この2つは異なる概念だと思うのですが、子どもの間ではこの2つは線引きできないものなのだと思います。たとえば何か悪いことをして人気になるということは、友達がいることにはなりませんよね。
とはいえ、やはり子どもは周りに自分を受け入れて欲しいという気持ちがあります。その点に関しては子どもに共感できる部分もあります。それでも私は、エンターテイナーであるがゆえに知り合いが多いという状態ではなく、真の友人を子どもに見つけて欲しいと思います。ですからアプリの使い方を理解している者としては、他の親御さんに「このアプリにはこういった危険性があるので子どもたちと話し合いをしてくださいね」という風に啓蒙・教育していく必要があります。
高橋 子どもたちの間では、フォロワーがいるとか、いいねが多いとか、いっぱいリツイートされたりすることがステータスだし、クラスでも「あの子は有名人だから凄い!」と言われます。そのような価値観のなかで過ごしているので、少しでもPVをアップさせようとして、言動がどんどん過激化し、なかには犯罪まがいの行為をしたり、服を脱いでしまうといった子どもが現われるのです。ただ、過激な行動を起こすことで一時的にPVはアップするため、承認欲求が得られてしまう。気分もいいし、自分にはそれだけの価値があると勘違いしてしまうんです。
保護者の方々には、こういった価値観が子どもたちの間に存在することを知っていただいたうえで、「あなたの過激な言動を見てちやほやしてくれる人たちは本当の友達ではないし、書き込みや動画は将来にわたってずっと残るし、それは自分にとってデメリットになりかねない」ということをきちんと子どもに伝えて欲しいです。また、私たちも保護者への啓蒙を続けることが必要でしょう。
ギャリー その通りです。子どもは馬鹿なことをしてしまうのです。ですから保護者として、「これは良い行動、これはやってはいけない行動」というのを、きちんと子どもに教えなくてはいけません。これは、一回話したらそれで終わりというものではなく、何度も何度も子どもに伝えなければなりません。なぜなら、学校に戻れば人気者になりたいという、ほかの子どもたちからのプレッシャーに晒されるわけですから。親として、子との会話は何度も持たなくては。
啓蒙は「誰か」がやってくれるものじゃない
青木 「では、誰が子どもに教えるべきか?」という話になるのですが……保護者は学校で教えて欲しいと言うし、学校は保護者が教えて欲しいと言う。たまにモバイルショップで教えるべきという意見も出ます。つまり皆、『誰かにやってもらいたい』と思っているのです。
高橋 親世代はIT教育をいっさい受けていないので、自分では使っているものの、子どもが使う際のリスクを知りません。また、子どもたちがなぜそういうことをしたいと思うのか——承認欲求にかられたり、プレッシャーを周りから受ける——をわかっていません。
そのため、「うちの子はそんなことをするはずがない」とか「私はわからないから、わかる人が教えてくれたらいいな」といった他人任せの気持ちが生まれ、その結果、「使わないで欲しい、禁止したい、誰か(子どもに)教えて」という反応が返ってくるのです。
ギャリー なるほど。しかし、子どもへの啓蒙は集団の責任だと思うのです。保護者は常に危険性を理解していなくてはならないし、そのことについて子どもときちんと話し合う必要もあります。そして我々は何らかのコミュニティーに必ず属しているはずです。たとえば教会でも子どもたちに啓蒙する必要があるでしょう。すなわち保護者、学校、コミュニティーの皆で子どもたちに啓蒙活動をすれば、少しでも子どもたちの意識改革につなげることができるのでは、と思います。これをサイバー・ハイジーン(衛生管理)と呼びます。
青木 高橋さんが話されたようなエピソードはアメリカでも起こっていますか?
ギャリー はい。これは日本特有の問題ではなくてグローバル現象だと思います。たとえば5年前であれば「ある特定の国に起こっていること」だったかもしれません。ですが今はフランス、アメリカ、ブラジル……どの地域でも保護者は同じような問題に直面しているはずです。いまの子どもは産まれたときからインターネットとつながった機器に囲まれていますから。
TikTokやFaceAppなどのアプリは、爆発的なヒットをすると、国境で止めることができません。フェイクニュースには規制がかかりますが、アプリに関してはいったんヒットすると圧倒的に広がってしまいます。
とはいえ、アメリカや日本のような先進国が、カザフスタンのようにHTTP経由で入ってくるトラフィックをすべてモニタリングするような方向に進んでほしくはありません。あくまでもインターネットでやっていいこと、ダメなことを啓蒙することで被害を抑えたいと思います。
青木 日本の場合、子どもがスマホを買うときはフィルタリングソフトを入れないといけません。総務省が規程を定め、各キャリアが実行しています。でも僕らが調査したところ、スマホを購入して一番最初にやることがフィルタリングソフトをアンインストールすることなんです。これではあまり意味がありませんよね。このあたり、高橋さんはどう思いますか?
高橋 子どもは「自分専用のスマホを入手すること=自分の世界が持てた」なのです。ですからフィルタリングソフトがインストールされていると友達と同じことができないので、なんとかしてアンインストールしてもらおうとします。
フィルタリングは低年齢の子どもには有用だと思いますが、一定の年齢以上では必ずしも効果は期待できなくなってきます。ですからフィルタリングソフトよりも、「こういった使い方をするとこんなリスクがある」「親としてこんな使い方はして欲しくない」など、気になっていることを直接伝えて、子ども自身で注意させたり、いつでも相談に乗る姿勢を親として示すことが大事でしょう。
ギャリー 同感です。一方、利口なシステムではないかもしれませんが、日本政府がやろうとしていることには一目置くことも必要かと思いますので、フィルタリングソフトの代わりになる、より良いシステムが作れないか考えるべきだと思います。たとえば子どもたちが不正なコンテンツにアクセスしていたら親に通知が届くようにして、その際に親は子どもとネット越しに話もできるというシステムなどですね。