「使い勝手」「エコシステム」で差別化するアップル
一方で、デバイステクノロジー面でいえば、iPhone 11には特別なところは少ない。特に日本以外の国では、5Gモデルがまだないことが気になる。おそらく来年登場することになるのだろう。そうした点が同社の顧客にどう影響するかは重要な点だ。
だが、彼らの狙いはあくまで「使い勝手での差別化」であり、ソフトとハード、サービスの組み合わせによる他のプラットフォームとの違いを打ち出せればいい。
そのことは、意外にも発表会では言及されなかった機能によく現れている。
iPhone 11には「U1」という新しいワイヤレスチップが搭載されている。ワイヤレスチップといっても、Wi-FiやBluetoothではない。「UWB」という規格だ。スマホに搭載されるのはほぼ初のはずで、日常見かけることもない。逆にいえば、「これがあるから他よりハイスペック」といえるほど、人目を惹く要素ではない。だから他社は搭載していない。
この通信規格は主に位置と方向を認識するのに使われており、Wi-FiやBluetooth(誤差数十センチから数メートル)よりも高精度な位置測定ができる。
これをなにに使うかというと、ファイル転送技術「AirDrop」の使い勝手向上だ。ファイルを送りたい相手にiPhone 11を向ければその人を認識して優先的に表示するので、とてもシンプルかつすばやくファイル転送ができるのだ。
この技術は9月30日に予定されている「iOS 13.1」へのアップデートで利用可能になり、すぐには使えない。また、現状はU1を搭載しているiPhone 11シリーズ同士でのみ有効なものだ。だが、今後U1は様々なアップル製品に搭載されると見られており、使える範囲が広がっていくだろう。
AirDropはアップル製品同士でのみ使える技術だが、その使い勝手を洗練していくことは、「アップル製品を次にも選ぶ」モチベーションになる。そうなれば、「普通のスマホにはあっても意味が薄い」と思われていた技術も、差別化点に化ける。
サービスでの差別化も同様の意味合いを持つ。
ゲームの定額制遊び放題サービス「Apple Arcade」は、持っているiPhone・iPad・Mac・Apple TVなどで同じゲームが追加料金なしに楽しめる。しかも、用意されるゲームは「他のゲームストアには当面でない」「AppStoreにもない」エクスクルーシブなものだ。
映像配信サービス「Apple TV+」はテレビなどからも視聴できるが、これからアップル製品を買った人には「1年分の無料利用権」がついてくる。月額600円なので、7200円分のディスカウントといっていい。
これらのサービスを、他のスマホメーカーはもっていない。価値あるサービスによって「iPhoneを選ぶと得」という要素を付け加えていくことは、ハードウエアの外にある価値といえる。
Apple WatchのようなiPhoneでのみ使える周辺機器の存在も、iPhoneの差別化点となる。
「ハードウエアを洗練させ、サービスや周辺機器などの総合力で、ひとたびiPhoneを使った人は次もiPhoneを選ぶようにする」のが、アップルの最大の戦略だ。「iPhone 11に驚きがない」と言う前に、その点を考慮した方がいい。
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