演劇をベースにコミュニケーションを学ぶ
2021年春、兵庫県豊岡市に県立の専門職大学「国際観光芸術専門職大学(仮称)」が誕生する(設置構想中)。“観光やアートの分野で事業創造できる人材の育成”を掲げる同大学で、すべての学びの基礎となるのが、演劇やダンスなどの舞台芸術だ。
近年、IoTやAIの進化により、産業の構造も個人の働き方も急速に変化している。「Society5.0」とも呼ばれる社会の大転換期に向かう中で、AI等では代替することが難しい「クリエイティビティ」や「コミュニケーション力」を備えた人材が一層求められるようになると考えられる。そうした社会的背景のもとに、同大学では、舞台で自分を表現することや、公演を企画制作する実習等を通して、学生の企画力や創造力、コミュニケーション力を養う。
学長候補者・平田オリザ氏が語る「これからの社会に求められる人材」とは?
学長候補者は、国際的に活躍する劇作家・演出家の平田オリザ氏。これまで、全国の学校現場で演劇手法によるコミュニケーション教育を実践してきた。また、大阪大学の石黒浩教授と共同で「ロボット演劇プロジェクト」を指導するなど、“社会と演劇”や“テクノロジーと演劇”の関係をみつめ続けてきた。
演劇教育によって、どのような力を養うことができるのか、平田氏に聞いた。
「演劇にはいろいろな要素が入っているので、そこから得られることもさまざまです。自己肯定感や協働性……、異なる価値観を持つ人とどのように集団を作っていくか、ということも学べます。そして、観光やアートの分野で重要なのは、いかに人を楽しませるかということ。人の心を動かすにはどうすればいいのか、それを考えられる学生を育てたいと思っています」(平田氏)
そうした感性やスキルこそが、これからの時代を生き抜く人間力につながるという。
「海外の多くの国では、小学校や中学・高校で演劇を授業の中に取り入れていて、コミュニケーション力や企画力を磨いています。だからこの大学では、日本がもっと国際化していくためにも、そうした海外の人たちが当たり前に身につけている素養をキャッチアップしてもらいたいんです」(平田氏)
国際観光芸術専門職大学(仮称)は、演劇を本格的に学べる大学ではあるものの、必ずしも俳優や演出家だけを養成する場ではない。卒業後の進路としては、旅行会社や航空会社、メディア産業、文化施設などを想定。アーティストとして活動するとしても、社会的にも、経済的にも‟自立したアーティスト”を目指すことが求められる。そのため、カリキュラムでは経営やマネジメントなどにも重点が置かれている。
「人を楽しませるだけではなく、それをしっかり経済活動につなげていくことが大事。社会の課題に対して、演劇やアートがどういう貢献ができるかを考えられるようになってほしい。そのためには経済や経営をはじめ、幅広い知識と教養が必要です」(平田氏)
また、情報リテラシーやデータ解析など、ICT教育にも力を入れる。平田氏いわく、「今や、観光やアートの分野でもITスキルは必須」とのこと。たとえば、地域に多くの人を呼び込むためには、地域を取り巻く状況や世界のトレンドなど、さまざまな情報を集め、分析する力が必要となる。加えて、インターネットを通じて、地域の魅力を広く発信するスキルも重要だ。
“新しい学び”を実践する場
国際観光芸術専門職大学(仮称)は、国公立で初めて演劇を本格的に学べる大学であり、兵庫県但馬地域に初めてできる四年制大学でもある。また、「観光とアートを結びつける」「完全クォーター制」「授業の1/3が実習」など、これまでの日本の大学のスタンダードとはやや異なるような新しい取り組みも導入していく予定だ。さまざまな意味で‟新しい“大学となるため、入学する学生にも積極的にチャレンジしてほしいと平田氏は話す。
「今までもいろいろな大学や学部の立ち上げに関わってきて思うのですが、やっぱり1期生、2期生っていうのは大変なんですけど、一番魅力的なんですね。何もないところに、一歩を踏み出す。前例がないのは不安もあるかもしれませんが、‟わからない楽しさ“というか、自分でかき分けて進む楽しさがある。だからぜひ、チャレンジしてもらいたいと思います」(平田氏)
※設置構想中のため、掲載内容は変更となることがあります。