Kubernetes/VMwareを中核にエンタープライズのSoR&SoEサポート、クラウド担当GMが戦略を語る
企業のクラウド移行が進み見えてきた「崖」、IBM Cloudの戦略
2019年06月25日 07時00分更新
日本IBMは2019年6月21日、東京で開催した「Think Summit」において、米IBMのクラウド担当GMと日本IBMのクラウド事業本部長が出席するプレス向けラウンドテーブルを開催した。IBM Cloudの主要ターゲットであるエンタープライズ顧客におけるクラウド移行の現状と課題、IBMが提案するソリューションなどを紹介した。
企業のクラウド移行が進み「想定していなかった課題」も明らかに
IBMクラウド・プラットフォーム担当GMのハリシュ・グラマ氏はまず、エンタープライズにおけるクラウド採用の現状と、クラウド採用が進むにつれて見えてきた課題について説明した。
2月に米国で行われた「IBM Think」で同社会長兼社長、CEOのジニー・ロメッティ氏も指摘したように、企業におけるクラウドの採用が進んでいると言っても、現実にはまだ業務アプリケーションの8割がオンプレミス環境に残っている。「何十年もオンプレミスで稼働してきたアプリケーションをクラウドに移行するのは、そう簡単なことではない」(グラマ氏)。
エンタープライズ顧客を主要なターゲットとするIBMとしては、クラウド移行を阻害している要因を取り除き、クラウド移行をサポートしていく必要がある。この「残り8割のオンプレミスシステムを解放していく」ことこそが、「クラウドの『第2章』」でIBMがなすべきことだとグラマ氏は語る。
IBMが世界各国の顧客エンタープライズCIOを対象に実施した調査によると、マルチクラウド環境を利用する企業は67%、ハイブリッドクラウドまたはマルチクラウド環境を利用する企業は94%に達する。その中で、多くの企業は「クラウド間の接続性」「クラウド間の移行(特定クラウドへのロックイン)」「管理の一貫性」に対する懸念を持っている。
さらには、クラウド移行が進む中で明らかになってきた課題もある。
たとえばレガシーアプリケーションをそのままIaaSへ移行する「クラウドシフト」の場合、アプリケーションそのものがクラウド環境に適した設計になっておらず、TCO(総所有コスト)削減が目的であるにもかかわらず「むしろTCOが上がってしまう」ケースがある。かといって、アプリケーションとPaaSを組み合わせようとしても、うまく行くのは20%程度であり80%程度のアプリケーションは残ってしまう。従来のミドルウェアは捨てて、アプリケーションをすべてマイクロサービスで書き換えるというドラスティックな方針をとろうとすると、その再開発には大きな時間とコストがかかってしまい、やはり20%程度しかクラウド移行できない結果になると述べる。
「いずれにしても“20:80の法則”が働くのであり、レガシーアプリケーションの80%はオンプレミスに残ってしまう」(グラマ氏)
こうした課題に対するソリューションとして注目されているのが、ヴイエムウェア仮想化やコンテナ技術によるあらゆるクラウド間(パブリック、プライベート)でのポータビリティ確保だ。特にコンテナについては、オーケストレーターであるKubernetesの機能進化に伴って、マイクロサービスも利用したアプリケーションのモダナイズを推進する仕組みとしても期待されている。
ただしグラマ氏は「ここにも課題がある」と指摘する。コンテナ技術の活用といっても、顧客自身でミドルウェアを分割し、単純にコンテナに格納するだけではうまくいかない。エンタープライズ環境、さらにはKubernetesの管理環境に適合した構成や設定が必要だからだ。
マネージドKubernetesサービスだけでは“Kubernetes Everywhere”は実現しない
2月のIBM Thinkで強調されていた“Kubernetes Everywhere”戦略は、Kubernetesベースのプライベートクラウド「IBM Cloud Private(ICP)」と、パブリッククラウドのマネージドKubernetesサービス「IBM Cloud Kubernetes Service(IKS)」を中心に構成される。これらのKubernetes環境に、プリパッケージ/最適化済みのミドルウェアコンテナ群「IBM Cloud Paks」や共通の運用サービス(非機能要件)も付加することで、IBM独自の価値提案を行っていくとグラマ氏は説明する。
「IBMでは、IBM製およびオープンソースのミドルウェアを(Kubernetes環境向けに)書き直し、最適化したうえでコンテナ化して提供する。IBMのミドルウェアコンテナを使えば、たとえばサービスのロードバランシングなどKubernetesの管理要素をすべて生かすことができ、実行効率がぐんとアップする」(グラマ氏)
さらにグラマ氏は、主要パブリッククラウドベンダーはいずれもマネージドKubernetesサービスを提供し始めているが、「IBM Cloudだけが唯一、クラウドネイティブサービスを(プロプライエタリな独自技術ではなく)すべてKubernetes/コンテナベースで実装している」ことも強調した。
ちなみに日本IBM 三澤氏によると、IBM Cloud Paksでは、顧客の利用目的や実行したいアプリケーションに合わせて、IBM Cloud Pak for Application/for Data/for Integration/for Automation/for Multi-Cloud Managementといった多様なパッケージが用意される予定だという。それぞれの用途に応じたミドルウェアコンテナ群と、その推奨構成や推奨設定も含め提供される見込みだ。
「オープンソースのKubernetes環境をエンタープライズ自身で構築、導入していくというのは、技術的なハードルが高くナンセンスだ。そこに(ICP+IBM Cloud Paksという)プリパッケージ済みのプラットフォームを提供することで、ハードルがぐんと下がる。今回のThink Summitで紹介された第一生命(Watson活用のコールセンターシステムをIKSで実装)のような、Kubernetesの導入事例も多数生まれてくると考えている」(三澤氏)
VMware on IBM Cloudの強み、さらに「組織や人材の改革」までを視野に
三澤氏は、主にSoRアプリケーションのハイブリッドクラウド化ソリューションである「VMware on IBM Cloud」についても、IBMならではの強みを強調した。ちなみに今回のThink Summitでは、福井県に本拠を置く地銀の福井銀行、フィルムデバイス(タッチセンサー)や産業資材のメーカーであるNISSHAが、情報系システム群の大半をVMware on IBM Cloudを使って、短期間でクラウドに「リフト」した事例が紹介された。
VMware on IBM Cloudの強みとして三澤氏は、競合サービスである「VMware Cloud on AWS」を意識しながら、ベアメタルサーバー1台のPoCレベルからスタートできること、東京リージョンの3データセンターでVMware環境が提供されておりHA構成がとれること、データセンター間やリージョン間のネットワークが無料で使えること、顧客環境のコントロール権限はすべて顧客側にあり、アップグレードやパッチも顧客側のタイミングで行えること、などを挙げた。
また三澤氏は、エンタープライズがオンプレミスシステムをクラウド移行し、さらにクラウドネイティブ型にモダナイズしていくうえでは、テクノロジーだけでなく「ガバナンス」や「組織」といった障壁も存在すると指摘し、そうした課題の解決を支援することもまたIBMの役割だと強調した。
「たとえば、社内エンジニアが『開発』と『運用』の部隊に分かれている企業は多い。レガシーシステムの時代ならばそれで良いが、これから必要となるDevOpsは回らない。IBMはさまざまなサービスを提供しており、レガシーな顧客がクウドジャーニーに乗り出すうえでの人材変革や組織変革、それもIBMがやっていかなければならないことだと考えている」(三澤氏)