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山谷剛史の「アジアIT小話」 第164回

B級からS級になった中国のIT、その理由はソフトウェアアップデートの速さ

2019年06月22日 12時00分更新

文● 山谷剛史 編集● ASCII編集部

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最初はバグだらけでも、ユーザーの要望によって急速に改良し
模倣元とは似ても似つかぬ超強力サービスに進化

 実際に中国発のソフトウェアは強い。最初はバグだらけだったものが、アップデートごとに修正され、さらに中国人ウケのする機能を追加して、オリジナルの路線を突き進んでいく。

 日本のソフトではありえないくらい高頻度で更新し、一気に改良していくため、やがてすごいソフトへと化けていく。たとえば、微博(Weibo)はTwitterの模倣から始まったし、微信(WeChat)の前にはWhatsAppがあった。

 微博や微信はユーザー数を増やし改良に改良を重ね、微信であればキャッシュレスのWeChatPayやミニプログラム(小程序)と呼ばれるアプリ内アプリ(クラウドアプリ)プラットフォームを普及させるなど、インスパイア元を凌駕するサービスへと化けた。微博や微信はS級サービスだろう。WeChatPayやAlipayのキャッシュレス決済もいち早く普及させて世界中を驚かせたので、S級サービスと言えよう。中国のPCとインターネット普及の立役者であるQQというインスタントメッセンジャーも、もともとICQの模倣から始まって独自機能を付け加えたので、QQもS級サービスと言える。

テンセントのインスタントメッセンジャー「QQ」

 最近では中国発のサービスが外国に展開されて受け入れられている。日本でも若者を中心に利用されているTikTokは、中国のバイトダンスが出したものだ。また女性に支持されているフォトレタッチの「BeautyPlus(美図秀秀)」は中国のMeitu(美図)製だ。これらを利用する若い世代の中国製品のイメージはかなりよく、それより上の世代と大きな意識の差がありそうだ。これもまたS級だろう。

Meituの美顔補正アプリは世界で広く使われている。日本のキャラクターとコラボしたスマホもリリースしている

 「TikTok」や「BeautyPlus」は中国国外にも進出し普及したS級製品だ。中国国内で展開するサービスにはさまざまなS級サービスがある。たとえばキャッシュレスを越えて信用スコアなどのサービスを提供するフィンテックの「支付宝(Alipay)」ほか、シェアライドの「滴滴出行(Didi)」、フードデリバリーをはじめとして、多様なサービスでリアル店舗とつなぐ「美団(Meituan)」などだ。もっともS級となった背景には、デリバリーやシェアライドですぐ動ける労働者が非常に多いこともそうしたサービスの背景にはある。

 Android搭載のデジタル製品が発売され、ソフトウェアアップデートがより気軽に手軽にできるようになり、A級製品が増えてきた。また中国ではIoT機器が続々と発売され、導入されている。これもアップデート可能であり、ソフトウェア的には補正が容易だ。

 中国企業のIoTは日本企業のIoTよりも迅速にアップデートすることから、ハードウェア的な不良は出にくいだろうし、使いやすくなるまでの時間は日本よりもずっと短いことが想像できる。

 個人向けの有名どころではシャオミからはIoT機器が発売されているが、今後はむしろ生徒の成長をチェックできる学校への導入や、病院、自動化工場、さらにはスマートシティなどで、規模の大きなS級パッケージ・S級システムが誕生するのではないかと思う。社会実験を法制度ができる前に積極的にできる土壌の中国だからこそ、S級パッケージ・S級システムは出てきそうだ。

阿里巴巴のスマートシティ「都市大脳」

ソフトウェアアップデートが無い世界では
今後も日本は強いか

 今後もS級を出し続けるだろう中国だが、初めに書いたとおり、日本はアップデートできないハードウェアやコンテンツでは強い。軽量薄型のノートPCしかり、ダウンロード不要で遊べるコンシューマーゲームしかり。

 バランスが悪くても課金次第で進みやすくなるオンラインゲームは中国は強いが、各キャラクターのバランスが重要な格闘ゲームは中国は苦手とするところ。またアニメも技術では追いついているが、総合的な完成度では日本は高く、中国人も日本のアニメのほうを高く評価している。つまりネットでのアップデートでも変わらないところでは、日本はS級を出し続けると思っている。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。

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