“Gen2 Cloud”とAutonomous DBで「より基幹に近い業務システムも載せられるクラウド」提供
「Oracle Cloud」東京リージョン提供開始、強みと市場戦略は
2019年05月09日 07時00分更新
日本オラクルは2019年5月8日、「Oracle Cloud」東京リージョンの開設と運用開始を発表した。新世代アーキテクチャを採用した“Generation 2 Cloud(Gen2 Cloud)”インフラや、自律型データベースサービス「Oracle Autonomous Database」などの強みを生かし、ミッションクリティカルな基幹業務システムのクラウド移行にも対応する環境を提供するとしている。
同日の発表会には同社 CEOのフランク・オーバーマイヤー氏、クラウドプラットフォーム戦略統括の竹爪慎治氏らが出席し、Oracle Cloudの強みや競合差別化のポイント、ターゲット領域、国内市場における販売/パートナー戦略などを説明した。
アジア太平洋地域で初めての“Gen2 Cloud”リージョン、その強みは
今回のOracle Cloud東京リージョン開設は、オラクルが従来から進めてきたグローバルなクラウドインフラ(データセンター)拡張計画の一環。発表によると、Oracle Cloudは総数20リージョンに拡張する計画で、大阪リージョンも「今後6カ月以内」(昨年のOracle Open World発表では「2019年12月」まで)に開設する。
「これから半年間のうちに、日本国内で完全にDRができる環境が整う」(オーバーマイヤー氏)
東京リージョンは、オラクルが“Gen2 Cloud(第2世代クラウド)”を標榜する新アーキテクチャを採用しており、アジア太平洋地域では初のGen2 Cloudリージョンとなる。東京リージョンの各サービスは、海外リージョンと同一の利用価格で提供される。
なぜ“Gen2 Cloud”が必要なのか。竹爪氏は、これまでのクラウドサービス(いわば“Gen1”Cloud)は「使った分だけ支払い(従量課金)」「柔軟なリソース追加」「大規模なスケール性能」といった利便性を実現した一方で、「妥協のないセキュリティ」や「パフォーマンスの安定性」「バランスの取れたコスト」といった要件を達成できておらず、基幹業務システムをクラウド移行したいと考える顧客企業のニーズを十分に満たすものではなかったと指摘する。
そこで、新たなアーキテクチャやテクノロジーを採用してこれらの要素を達成し、さらには大規模なデータベースワークロードが求めるパフォーマンスをも実現するインフラを用意することで、「これまでパブリッククラウドに載せられなかった、基幹に近いワークロードも載せられる」新世代のパブリッククラウドサービスを提供する。これがオラクルの考えるGen2 Cloudである。
具体的には、データセンターインフラに最先端のテクノロジーを採用し、高いパフォーマンスやセキュリティ性を実現している。たとえばネットワーク環境は完全にフラットな構成で、顧客ごとのトラフィックは物理レイヤーで分離してセキュリティを担保し、さらにオーバーサブスクリプションを排除して高いSLAを保証する。そのほかOCI Edgeを統合したWAFやDDoS緩和、DNSなどのエッジセキュリティ、仮想化環境の管理プレーンのオフボックス化/オフロードによるセキュリティ強化やパフォーマンス影響緩和など、従来のクラウドにあった課題を解消する。
「こうしたインフラを用意し、複雑なネットワーク要件のある『Oracle Exadata』や『Oracle RAC』なども完全に稼働する環境を構築することで、これまでクラウドに載せられなかった、よりミッションクリティカルなワークロードも載せられるクラウドとして提供していく」(竹爪氏)
Oracle Cloud環境は、各キャリア回線と「Oracle FastConnect」を介して顧客オンプレミス環境との閉域網接続も可能だ。Oracle Cloudが提供するサービスはおよそ100あるが、東京リージョンは「まず30のサービスからスタートする」と竹爪氏は説明した。将来的にはERPやSCM、CXといったSaaS群も順次、東京リージョンから提供していく予定。
「既存のアプリケーション(SaaS)だけでなく、クラウドネイティブな新サービスの実現、またパートナーISVのパッケージソリューションなど、多様なサービス群をいち早く東京リージョンに持ってきたいと考えている」(竹爪氏)
データベース構築/運用を自動化して「DX」を可能にするAutonomous DB
Gen2 Cloudを利用して提供されるIaaSが「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」であり、さらにその上に載るのがPaaS/DBaaSの「Oracle Autonomous Database(Autonomous DB)」だ。オラクルではこのAutonomous DBを、Oracle Cloudを特徴づけるもうひとつの強みと位置づけている。
「たとえばDBのセキュリティを高めるためには、パッチ適用から始まりさまざまな作業が必要だ。しかし、そうした作業の中でヒューマンエラーは不可避なものだ。そこをAutonomous DBを使って自動化、自律化することにより、より高いレベルでのDBセキュリティが実現する」(オーバーマイヤー氏)
さらに竹爪氏は、AutonomousDBはDBの構築や管理といった付加価値を生まない作業からエンジニアを解放し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促すものだと説明する。
「Autonomous DBは、一言で言えば『DBの構築、管理作業からの解放』。たとえばセットアップにかかる時間が格段に短縮される。DBの運用やパッチ適用といった作業は重要なものだが、それはオラクルにお任せいただき、その時間を新しいサービスの開発、データ解析といったより付加価値の高いイノベーションに充てていただきたい。Autonomous DBは、そうしたDXのイネーブラーとして提供していく」(竹爪氏)
竹爪氏は、Autonomous DBにおける高度な自律化レベルは、オラクルがこれまでエンジニアドシステム(Exadataなど)で培ってきたハードウェアの自動化技術、Oracle DBで培ってきたソフトウェアの自動化技術、そしてGen2 Cloudにおけるインフラ管理の自動化技術の3つを組み合わせることによって初めて実現できたものだと強調した。「この3つを組み合わせ、同時に提供できるのはオラクルだけだと考えている」(竹爪氏)。
ターゲットは「エンタープライズ」「デジタルネイティブ」の両方
東京リージョンはすでに稼働しており、先行受注企業もエンタープライズ、SMBを合わせて50社ほどあるという。ターゲットはまず、これまでオンプレミスの業務システムでOracle DBを利用してきた顧客層となる。
「エンタープライズからSMBまで、およそ50%の企業がオンプレミスのOracle環境でワークロードを動かしている。こうした顧客がクラウドにワークロードを移行するために、高い信頼性とセキュリティを確保したデータセンター(リージョン)が必要だった」(オーバーマイヤー氏)
竹爪氏によると、高いセキュリティ性や信頼性を絶対条件とするエンタープライズの基幹業務システム領域では、「国内データセンター」と「閉域網接続」という要件を満たさないクラウドサービスは「検討の土俵にも乗らない」ケースが70%ほどを占めるという。東京/大阪リージョンの開設によってこれをクリアし、さらなる顧客拡大を狙う。なおグローバルなセキュリティ基準(ISO27000やSOC 1/2/3など)にはすでに準拠しており、今年夏までに金融向けFISC、医療向け3省3ガイドライン、中央官庁向けNISCをサポート予定としている。
ただしターゲットはそれだけではない。竹爪氏は“デジタル”“イノベーション”がキーワードとなるようなクラウドネイティブな領域、新しい領域へのOracle Cloud提案も積極的に行っていくことを強調した。Oracle Cloudはコンテナ(Kubernetes)やブロックチェーン、FaaS基盤といったテクノロジーも提供している。
「この領域では『データ活用』が成功の鍵を握る。オラクルはデーマネジメントに関して40年以上の経験と技術を有しており、そこで蓄積してきたものが生かせると考えている」(竹爪氏)
日本オラクルではすでに2017年からSMB向けのクラウド営業組織「Oracle Digital」を立ち上げているが、今回は新たにエンタープライズ向けのクラウド営業組織も新設した。この組織は100名超の規模であり、主にはこれまでもオラクルとの接点があった情報システム部門ではなく、新規にビジネス部門担当者の「ドアを開けに行く」(竹爪氏)役割だという。
さらに販売パートナーも積極的な拡大を図っていく。既存パートナーでクラウドビジネスでも協業するパートナーは現在約330社いるが、これを年内に370社程度まで増やす。さらに“クラウドネイティブな領域”の新興パートナーも、現在の約50社から年内には75社程度まで増やす目標を掲げている。
「オラクルは4年前からクラウド市場に参入しているが、その4年間をこの準備のために費やしてきたといっても過言ではない。付加価値を高め、顧客のビジネス成長につなげていきたいと考えている」(竹爪氏)