日本ハッカー協会がセミナー開催、同事件担当の平野敬弁護士や高木浩光氏らが登壇【前編】
Coinhive事件に学ぶ、エンジニアが刑事事件で身を守る方法
2019年05月08日 07時00分更新
「わざわざ戦う価値があるのか?」という難しい問い、その答えは
エンジニアがサイバー犯罪の被疑者として刑事事件に巻き込まれた場合、難しいのが「ITに強い弁護人」を探すことだと平野氏は語る。ITの知識があり、なおかつ刑事事件を扱っている弁護士は少ないという。「Web検索も、SEO対策されているのでアテにならない」。
ベストな方法は「身近な弁護士に紹介を頼むこと」。弁護士は他の弁護士の実績をよく知っているので、つてをたどって「ITの刑事弁護ができる人を紹介してほしい」と依頼するのが最も確実だという。あるいはそうした弁護士を登録している日本ハッカー協会に紹介してもらうのもよい、と述べる。
講演の最後に平野氏は、なぜエンジニア個人が、小さくない代償を払ってでも権利を行使して戦わなければならないのかについて、自身の考えを説明した。
Coinhive事件では、簡易裁判所における「罰金10万円」の略式命令(有罪判決)に被疑者が異議を申し立てることで正式裁判が始まった。「わざわざ警察や検察に楯突かなくても、軽い罰金刑で済むならいいではないか」――そういう意見もあるし、それが必ずしも間違っているとは思わないと、平野氏は語る。
「ただ、その時に少し思い出してほしい。哲学者・カントに『みずから虫けらになる者は、あとで踏みつけられても文句は言えない』という言葉がある。ある事件で一歩譲歩してしまうと、警察や検察は別の事件でも『あのとき行けたんだからこれも行けるはず』となってしまい、それが積み重なって捜査がだんだんと横暴なものになっていく。憲法 12条で『国民の不断の努力』が求められているように、いくら黙秘権や令状主義が憲法に定められていても、国民がそれを活用せず国家権力の言いなりになっていれば、自由や権利は有名無実のものになってしまう」
わざわざ戦う価値があるのか、言いなりになったほうがラクなのではないか――と悩んだときには「このことをちょっとだけ思い出してほしい」と参加者に訴えて、平野氏は講演を締めくくった。
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続くセミナー後半では情報法制研究所(JILIS)理事の高木浩光氏が登壇し、「不正指令電磁的記録の罪が対象とすべき本来の範囲とは」と題した講演を行った。ここではCoinhive事件の横浜地裁判決文に対する評釈とポイントの解説、警察や検察における法解釈の問題点、さらには同罪に問われた関連事案の見方などを語った。次回後編記事にてお伝えする。