このページの本文へ

パートナー協業ビジネスは“5年後に現在の2倍”へ、新領域のビジネスが鍵を握る

SAP、デジタルパートナー新施策で「量と質」両面の充足目指す

2019年04月03日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 SAPジャパンは2019年4月2日、パートナーエコシステムおよびパートナー支援に関する新たな事業施策の記者説明会を開催した。顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を共に促す存在として、パートナーの“量”だけでなく“質”も追求していくと述べ、新領域のパートナーも含めた強化/支援策を説明した。

SAPとパートナーの協業ビジネス規模は「2024年までの5年間で2倍になる」とIDCは予測

SAPジャパン 常務執行役員 デジタルビジネスサービス事業本部長の工藤晶氏

同 VP チーフトランスフォーメーションオフィサー 兼 デジタルエコシステム統括本部長の大我猛氏

パートナーと共に「Intelligent Enterprise」の実現を促していく

 説明会ではまず、パートナーエコシステムを担当するデジタルエコシステム統括本部長の大我猛氏が登壇し、SAPが“パートナーエコノミー”に注力する理由について説明した。SAPとIDCとの共同調査によると、SAPのパートナー協業ビジネスの規模は現在、グローバルのSAPで1000億ドル(約11兆円)。これが、5年後の2024年には2倍の2000億ドル(約22兆円)規模になると予測されている。グローバル売上の6~7%を占める日本市場の数字に換算すると、2024年には1兆4000億円規模のビジネスチャンスがあるという。

 こうした成長予測の背景には、単なるパートナー数(量)の増加だけでなく「協業内容(質)の変化」があると、大我氏は説明する。

 これまで協業ビジネスの軸となっていたのはERPやCRMといった製品の再販/導入(SI)事業だったが、それが「S/4HANA」や「SAP Leonardo」「SAP Cloud Platform」などを中核とした“Intelligent Enterprise”プラットフォームを用いる、より幅広いソリューション/価値提供へと領域を拡大しつつある。SAPプラットフォーム上に構築したパートナー独自のパッケージソリューション提供という、新たなビジネスモデルも生まれており、さらに言えば、SIer以外の新領域からSAPのパートナーとなるケースも増えているという。

SAPでは、S/4HANA ERPなどをベースにパートナー独自のソリューションを付加/パッケージ化して提供する「パートナーアセット化」も支援している

昨年(2018年)のパートナーエコシステム拡大実績。新規契約パートナーは53社増加、パートナー独自のパッケージソリューションも30増えた

 こうした動きをさらに加速させるため、デジタルエコシステム統括本部として2019年は3つの重点施策に注力していく。

 まず今回、新たに「SAPパートナーサクセスプログラム」の提供を開始する。これは、前述したような新たな協業ビジネスモデルに取り組むパートナーに対し、SAPがその取り組みをエンドトゥエンドで支援するプログラム。具体的には「事業計画/人材採用」「研修」「実践型ワークショップ」「プロジェクト」の各段階において、ビジネスマッチングやトレーニング、ワークショップなどのサポート施策を提供する。

「SAPパートナーサクセスプログラム」の全体像。パートナーの新たなビジネスを支援するための各種施策をエンドトゥエンドで提供する

 次に、パートナーから顧客へのIntelligent Enterprise提案を支援するための施策だ。Intelligent Enterpriseでは、S/4HANA ERPを“デジタルコア”として、社内外の多様なデータと、AI/機械学習やIoT、アナリティクスといった新技術を組み合わせて利用できるデジタルプラットフォームを構成、提供していく。

 この領域では、これまで展開してきた「S/4HANAパートナーコンソーシアム」と「SAP Leonardoパートナーコンソーシアム」を統合した、新しい「Intelligent Enterpriseパートナーコンソーシアム」を設立し、5月から活動を開始する。

 大我氏によれば、S/4HANAコンソーシアムの参加パートナーのおよそ3分の2がLeonardoコンソーシアムにも参加していた。統合後の取り組みについて詳細は未定だが、「(Leonardoコンソーシアムでは)これまでLeonardo単体での活用が議論の中心だったが、今後はよりS/4HANAと連携した、(Intelligent Enterpriseの)プラットフォームとしての活用、提案を目指していく」としている。

従来のSAP S/4HANA、Leonardoのパートナーコンソーシアムを統合した「Intelligent Enterpriseパートナーコンソーシアム」を設立する

 今年の重点施策としてもうひとつ、昨年3月にスタートした、国内企業との共同イノベーションを促すコミュニティ「Business Innovators Network」の「さらなる活性化」も挙げている。これについては今年2月、三菱地所と共同で大手町に開設した「Inspired.Lab」を通じた取り組みを加速させていく。

パートナーが手がけるプロジェクトをあらゆる段階で柔軟に支援するサービス群

 デジタルビジネスサービス(DBS)事業本部長の工藤晶氏は、同事業本部のミッションと戦略を紹介したうえで、特にパートナー支援に関する施策を取り上げて説明した。

 グローバルでおよそ2万5000人を擁するDBSは、デジタルトランスフォーメーションを支援するコンサルティングやプロジェクトへの技術支援などを行う組織。工藤氏は、DBSでは顧客のプロジェクトライフサイクル全般にわたって支援する体制を整えており、顧客がSAPを徹底的に「使い倒す」ことを支援するのがミッションだと説明する。

 「DBSにとっては、ERPの導入が“終わり”ではなくそこからが“始まり”。お客様がSAPを徹底的に使い倒して、Intelligent Enterpriseに変革することを支援するのがわれわれのミッションだ」(工藤氏)

デジタルビジネスサービス(DBS)事業本部の戦略と、具体的に提供できるサービスポートフォリオ

 その活動の中では「パートナーサクセス」も1つの目標となっている。パートナーサクセスを実現するための取り組みとして、工藤氏は「エキスパート向けワークショップ」「協働案件におけるセーフガーディング提供」「セーフガーディング+エキスパートサービス提供」の3パターンを紹介した。

 エキスパートワークショップでは、パートナーの「アプリケーションコンサルタント向け」や「テクニカルコンサルタント向け」の実践的なワークショップを提供している。そのうちアプリケーションコンサルタント向けでは、架空の会社をモデルにした擬似的なプロジェクトを用意して、ビジネスプロセスの要件分析や定義、プロトタイプ作成などを行う。

 協働案件においては、パートナーと“伴走”しながらプロジェクト成功に向けた各種支援サービスを提供していく。たとえば、パートナーが開発するアプリケーションやソリューションを安定稼働させるためのセーフガーディングサービス、さらにはパートナーが手がける業務のうち「SAPがやったほうが効率がよい業務」について、150以上の幅広い支援サービスのポートフォリオを用意している。

 「これまでDBSはあまり表に出てこなかったが、今後はパートナーとより一層、一緒になってプロジェクトの成功を目指しやっていく」(工藤氏)

アプリケーションコンサルタント向けの「エキスパートワークショップ」。架空の会社の疑似プロジェクトを用いてプロジェクト準備やビジネス設計を実施し、実践的な学びとする

協働案件の事例。トラスコ中山「MRO STOCKER」においては、SAPの海外開発チームがアプリケーション開発を手がけたという

* * *

 記者との質疑応答において大我氏は、SAPジャパンのパートナー施策における課題として、パートナーの「量と質」両面での充足だと語った。

 SAPの旧版ERP(R/3)および「SAP Business Suite」は2025年にサポート期間終了となる。そのためS/4HANAへのマイグレーション需要が一時期に発生することになり、パートナーのSIerにおいてSAPコンサルタントの人員不足が懸念されている。そこで人員の絶対数を増やすというのが「量」の施策だ。

 他方で、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション推進を共に促すパートナーは、これまでのパートナーであるSIerだけとは限らない。大我氏は、たとえばIoT/AIといった新領域のパートナーなどが考えられるとし、さらには顧客企業でありながらLANDLOG(ランドログ)を共に立ち上げた建機メーカーのコマツといった例も挙げながら、「質」の面では幅広いパートナーの獲得を進めていくとした。前述のInspired.Lab/Business Innovators Networkにおける取り組みも、その一助になると考えているという。

2018年のパートナー拡大実績。大我氏は、2025年に向けて「数千人規模」のコンサルタント不足が予測される一方で、昨年は2888人の新規コンサルタントを育成できたと強調。今後もこのペースで“需給ギャップ”を埋めていく方針だとした

カテゴリートップへ