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グローバル17カ国調査で日本が最下位、エクスペリエンスマネジメント(XM)の重要さを訴え

「従業員エンゲージメント」で定着率や生産性向上を、クアルトリクス

2020年02月27日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 独SAP傘下の米クアルトリクス(Qualtrics)日本法人は2020年2月26日、世界17カ国/地域における調査に基づいた「2020年 従業員エクスペリエンストレンド」レポートを発表した。所属企業/組織に対する「自発的な貢献意欲」や「職場としての推奨度」「仕事のやりがい」などから算出される「従業員エンゲージメント」スコアにおいて、日本は調査国中で最下位という結果が出ている。

 同日の記者説明会では、日本企業における従業員エンゲージメントが低水準となった背景や、高水準企業に見る改善のポイント、大量離職を防ぐための組織変革、クアルトリクスが製品/サービスを通じて支援できることなどが紹介された。

調査国ごとの「従業員エンゲージメント」水準比較。日本のスコアは35%で、世界平均の53%よりも大幅に低い

クアルトリクス カントリーマネージャーの熊代悟氏

クアルトリクス ディレクター EX(エンプロイーエクスペリエンス)ソリューションストラテジーの市川幹人氏

「日本の従業員エンゲージメントは弱くなっているのではないか」

 今回の調査は、クアルトリクスが2019年10月~12月、世界17カ国/地域で18歳以上の被雇用者1万3551名を対象に実施したもの。このうち日本の回答者は500名だった。

 まずは従業員エンゲージメントの現状調査からだ。この「従業員エンゲージメント」は、回答者である従業員の、所属企業に対する「自発的な貢献意欲」「自社に対する誇り」「職場としての推奨度」「継続勤務意向」「仕事のやりがい」に基づき測定している。

 同社 ディレクターの市川幹人氏は、従業員エンゲージメントの水準が高ければ、従業員が自発的に考えて行動し、生産性向上や革新性が生まれると説明する。「常識的に考えても『言われたからやっている』人よりも、前向きに熱意を持ってやっている(エンゲージメント水準の高い)人のほうが生産性が高いだろう」(市川氏)。

 調査国別に従業員エンゲージメント水準を算出したところ、前述したとおり、日本は35%と調査国中の最低水準だった(世界平均は53%)。市川氏は、一般的に日本の回答者はこの種の調査において「控えめ、慎重に回答する傾向がある」ものの、「それでも35%は低すぎるのではないか」と指摘する。

 「(日本の)世の中を見て、新しいことにどんどんチャレンジしている社員がどれだけいるか。自社の戦略や方針に十分納得していて、自分もそれについて行きたいと考えている社員がどれだけいるか。そう考えてみると、やはり『従業員エンゲージメント』の観点から見て、弱くなっていることが否定できないのではないか」(市川氏)

 同調査では、従業員エンゲージメントを引き出す(向上させる)要因についても、重回帰分析により算出している。日本の回答分析結果を見ると、「経営陣に対する信頼感」「自分の担当業務と会社の戦略目標の関連に対する明確な理解」「優れた業績に関する認知・評価」といった要素の影響度が大きかったという。

 「これらの項目、エンゲージメントの『ドライバ』となる要素は、グローバルの分析結果でもだいたい同じだった。(逆に言うと)5年、10年先を見据えたときに『自分のやっている業務はあまり意味がないのでは』と感じさせるような環境では、社員はあまり頑張れない」(市川氏)

従業員エンゲージメントを向上させる「ドライバ」5つを分析した

従業員エンゲージメントを引き出し、向上させる「3つのポイント」

 日本における同調査の結果から、クアルトリクスでは、従業員エンゲージメントの維持、向上を図るうえで認識すべき「3つのポイント」が確認できたとしている。

 1つめのポイントは、従業員の意見や提案を収集するための仕組み=「フィードバックプログラム」だ。こうした仕組みを設けている企業は、エンゲージメントスコアが高い傾向が見られるという。

 「まず、会社側が従業員の声に耳を傾ける仕組み(フィードバックプログラム)を持っている(と従業員が認識している)場合、エンゲージメントスコアの平均は44%だった。一方で、持っていない場合は10ポイント以上低い31%である。やはり会社が耳を傾けてくれることで、従業員も『ここで頑張ろう』と思えるのではないか」(市川氏)

 さらに「変革期にある会社」の場合は、フィードバックの頻度もエンゲージメントスコアに強く影響することが明らかになっている。職場で大きな変化を経験しているとした回答者のうち、フィードバックの機会(頻度)が「年1~2回」しかない場合のスコアは40%だったが、「四半期に一度以上」と頻繁にある場合は58%にも高まっている。

会社が従業員の声を聞く「フィードバックプログラム」の有無により、エンゲージメントスコアは10ポイント以上も違った

 2つめのポイントは、企業は単に従業員からフィードバックを集めるだけでなく、それに基づく「アクション」をきちんと行うことだ。会社がフィードバックを「非常にうまく役立てている」とした回答者のスコアは71%で、「十分に役立てていない」とした回答者の30%と非常に大きなギャップが生じている。

 「もちろん企業は(フィードバックの内容を)全部実現できるわけではない。それでも『皆さんの声に基づいて、当社ではこれをやることに決めた』と明らかにすることで、社員の意識、エンゲージメントは変わってくる」(市川氏)

「フィードバックがうまく活用されている」と従業員が感じている場合、エンゲージメントスコアは大幅に高い

 最後のポイントとして、市川氏は「従業員の定着率向上(離職の抑止)」に触れた。同調査によると、現在の職場にとどまろうと考えている期間が「1年未満」とした回答者は11%、「2年未満」とした従業員は21%だった。単純に言えば、およそ3分の1の人材が2年間で離職する可能性がある。それを補うための新規採用、人材育成にはコストも時間もかかり、企業としての“体力”が奪われることになる。「やはり離職を抑え、定着率を高めることが重要になる」(市川氏)。

 「当然ながら、エンゲージメントしている人はそう簡単には辞めていかない。今回の調査から従業員定着率向上のヒントを探ると、やはり先ほど挙げた5つのドライバ(エンゲージメントの影響要因)となる。会社がキャリア開発を支援してくれる、研修などを通じて成長の機会があると、従業員が感じられることが重要。マネージャーが意欲のある社員をしっかりとサポートして成長を促していく、それが定着率向上につながっていく」(市川氏)

 市川氏は、そうしたマネージャーを育てるために、人事部の役割がこれからさらに重要になっていくだろうとまとめた。

まずは国内における「エクスペリエンスマネジメント(XM)」認知度向上を目指す

 日本法人 カントリーマネージャーの熊代悟氏は、クアルトリクスが展開する「エクスペリエンスマネジメント」プロダクトの概要や、2年前から展開する日本市場でのビジネスの現状、2020年度の事業戦略などを紹介した。

クアルトリクスは「エクスペリエンスマネジメント(XM)」ソフトウェアの提供を通じて、企業変革を支援する

 クアルトリクスは米国で2002年に創業し、当初は大学向けのアンケートプラットフォームの開発と販売を行っていた。その後、2010年頃から企業向けにもプラットフォームを販売するようになり、2013年に最初の欧州拠点(アイルランド)を、また2015年にAPAC拠点(オーストラリア)を開設。2018年11月にはSAPが80億米ドルでの買収を発表し、2019年1月に買収が完了している。

 「SAPグループ傘下にはなったが、新しいソリューションということもあって、クアルトリクスは独自に事業活動を続けている。グローバルでの導入実績は1万1000社を超える」(熊代氏)

 なお日本法人の設立は2年前の2018年だ。現在、国内の導入顧客数は140社超で、年度成長率は167%と2倍を超える。富士通、ANA、メルカリ、Sansanなど、幅広い企業が採用していると紹介した。

クアルトリクスを採用している国内企業(一部)

 クアルトリクスがSaaS型で提供するのは「エクスペリエンスマネジメント(XM)」ソフトウェアだ。「このXMが、CRMやERPに続く、新しいソリューションカテゴリになるはずだという信念の下に製品を開発している」と熊代氏は説明する。

 クアルトリクスでは、「4つの重要なエクスペリエンス」が顧客企業のビジネス成長を促すと定義している。カスタマーエクスペリエンス(顧客)、プロダクトエクスペリエンス(製品)、エンプロイーエクスペリエンス(従業員)、ブランドエクスペリエンスの4つであり、これらを1つのプラットフォームで統合的に管理するのが特徴だ。

 「米国でのある調査において、企業経営者の80%は『自社は最高のエクスペリエンスを提供している』と回答した一方、『最高のエクスペリエンスを受けた』と回答した消費者は8%しかいなかった。われわれはこの『エクスペリエンスギャップ』をどう埋めるのかを考えている」(熊代氏)

 具体的には、顧客や従業員に対するアンケートの収集と分析を通じてエクスペリエンスの現状を明らかにし、さらには「改善アクション」を日々の業務として実行する、そこまでを包括的にサポートするプラットフォームを提供している。外部のERPやCRMなどに蓄積された“Oデータ(Operational Data)”とアンケートに基づく“Xデータ(Experience Data)”を連携させて、「なぜ」売上が上がったのか、「なぜ」この従業員は離職したのか、といった深い分析を可能にするというコンセプトだ。

アンケート収集と分析、アクション、そして“Oデータ”連携を行う「CoreXM」をコアモジュールとして、カスタマー/エンプロイー/プロダクト/ブランドの各ソリューションを構成

 2020年度の国内事業戦略として、熊代氏は「国内サポート体制の強化」「『XM』の国内認知度アップと『成熟モデル』の浸透」「国内パートナーエコシステムの強化」などをポイントに挙げた。

 「われわれのプロダクトは、購入したらすぐに効果が出るといったものではない。顧客企業のエクスペリエンスマネジメントを成熟させていくためには、大きく3つの要素が必要だと定義している。われわれが提供する『テクノロジー』に加えて、企業側にはXM運用サイクルを確立するスキルとアクションを起こす『コンピテンシー』、そしてエクスペリエンス改善を支える『カルチャー』を醸成させなければならない」(熊代氏)

 そのために、国内市場向けの情報発信強化をはじめ、カスタマーサクセスチームなどのサポート体制の増強などを図っていくと述べた。

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