CGアニメーターとして参加した若杉 遼氏にインタビュー
アカデミー賞受賞作『スパイダーマン:スパイダーバース』アニメならではの映像が新鮮!
2019年03月06日 17時00分更新
1週間でできるのは、平均で2、3秒!
コミックの質感を出すための手描きへのこだわり
――映画となると尺もありますし、長い期間作ることになると思うのですが、1カット作るのにどのくらいかかるのですか?
若杉氏:キャラクターの多さなどにもよるので一概にはいえないのですが、平均だと1週間に2、3秒という感覚ですね。日本の手描きアニメの場合、3コマずつ8枚の24コマで1秒ですが、アメリカでは24コマフルに使うので、1つ1つポーズをチェックしなければいけなくて、2、3秒でもかなりの仕事量になります。
――本作ではCGに対して1コマずつ手を加えたという話を聞きましたが、手描き風な部分を加えた意味はなんでしょう?
若杉氏:そうですね、全体のスタイルの統一感が1つ。それから、本作はコミックから出てきたようなスタイルなので、そこを目指していったというところです。コミックってすべて手描きじゃないですか。そのコミックの中でのアクションにある、動きを示す線などをどう再現できるか。そういうところをベースにしているので線を手描きで描いたり、顔のしわを手描きで描いたりしています。
――パソコンによる計算だけではできないということですね
若杉氏:ある程度完璧にするところを手で戻していくという感じです。日本の最近のアニメのトゥーンシェーダーなんかもそうで、完璧な動きをしているところを少し戻して暖かさを出すみたいなことがありますが、今回も手描きの暖かさまではいきませんが、コミックのスタイルをどれだけ再現できるかということはありました。
――アニメにCGが使われるようになって、とくにメカなどで早くから使われましたが、動きが冷たい感じはありましたね
若杉氏:そう、ヌルヌル動きすぎちゃうというか、完璧すぎちゃうというか、機械的な動きでしたね。
――パソコンの導入でできるようになったこともあるわけですが、CGアニメの場合は映像全体を担当するわけですか?
若杉氏:基本的には背景やそこにあるオブジェクト、物というのはすべてアセットとして完成しているものがある状態です。自分たちはキャラクターアニメーターという仕事なので、キャラクターを動かすことだけに専念します。
――そうするとキャラクターと背景などはどうなじませるんでしょう?
若杉氏:そのへんは、アニメーションの仕事の後のコンポジットだったり、最後の絵を合わせていく段階で行ないます。本作ではCGの上から絵を描くことがあったので、そこにかなり時間をかけて背景となじませたりしています。自分で作ったカットなども、最終的な仕上がりがどういう映像になるのかは最初わからなかったりするので、できあがったときにかっこいいなと思ったりしました(笑) 背景が少しずれてるように見せたりしつつ、全体の統一感を出すというところはけっこうすごかったです。
――ニューヨークが舞台になってますが、全部CGで作られてるんですか?
若杉氏:一部マットペインティングかも知れませんが、基本的には街がすべてオブジェクトとしてありました。
――角度を変えたり、俯瞰があって、アップがあってという映像を作るには膨大なデータが必要ですよね
若杉氏:えぇ、ものすごく重いんです(笑) 街は街で専門のスタッフが作ってるので、自分たちは動かすだけでしたけど。
――今回コミック的な演出などもありましたが、日本ではあまり使わない演出ですよね
若杉氏:日本のアニメは記号化された表現が多いかなという印象があります。日本独自の、アニメでしか通用しない表情とか泣き顔とか、例えば汗がぴゅっと出る表現とか。海外ではそういうものがなくて、どちらかというと直接的な表現になります。キャラクターの表情が直接的な表現が多い感じです。
――そうすると日本の感性を持って作ると、他のアニメーターと差が出たりしませんか?
若杉氏:スタジオにある参考資料に、アメコミのポーズの資料集とかがあるんです。その中で、これはいいポーズ、これは悪いポーズというのがあって、ある程度みんなで知識を共有していたりします。もう1つ気をつけたのは、今回最後のほうで参加したので、すでにファイナルカットになってるものがあり、OKが出てるアニメーション部分を勉強したり、監督の好みを勉強しながら作りました。でも新たに勉強するというより、わりと素直に、感じたことをポーズとして出すという感じでしたね。