AIバイアス解消の「Watson OpenScale」から「One IBM AI」まで、ビジネス活用促進のAI戦略
Watsonが他社クラウドでも実行可能に、IBM THINKのAI関連発表
2019年02月18日 07時00分更新
AIモデルの精度やバイアスを可視化、改善する「Watson OpenScale」
さらにロメッティ氏は、IBMではAIのビジネス活用促進を妨げる課題を解消すべく、3つの観点から技術研究を進めていることを紹介した。その3つとは、大量のデータを用意しなくとも精度の高いトレーニングができる「Core AI」、AIによる判断の信頼性や透明性、説明責任を担保する「Trusted AI」、AIの適用領域とユーザーを拡大する「Scalable AI」である。
そうした課題解決をサポートするツールのひとつが、前出のWatson OpenScaleだ。
OpenScaleは、Watsonやサードパーティ/オープンソースの機械学習フレームワーク/AI環境(TensorFlow、SparkML、AWS SageManker、AzureMLなど)で開発されたモデルを一元管理するプラットフォームである。前述したとおり、IBM CloudだけでなくICP for Dataでも(つまりハイブリッド/マルチクラウド環境でも)動作する。
OpenScaleのユニークな点は、アプリケーションに組み込まれたAIモデルの「精度」や「公平性」を数値化して表示したり、バイアスを自動検出したりすることができる点だ。たとえば、モデル構築から時間が経って精度が劣化してきた場合には再学習を促す。また、そのモデルが判断の根拠としたデータなどもわかりやすく示す。これにより、データスキルの高くないビジネスユーザーであっても、判断の信頼性や透明性、説明責任を担保することができる。
トーマス氏の基調講演では、インドで展開されている心臓病患者のリスク分析を例に挙げ、OpenScaleを使ったAIモデルのバイアス自動検出やその原因調査、オープンデータとの比較によるバイアス有無の確認といった操作が披露された。
「こうしたツールでアルゴリズムのブラックボックス化を解消することで、安心してAIアプリケーションを使えるようになる。これまでAI活用にためらいを持っていた顧客も、採用しやすくなるのではないか」(トーマス氏)
ちなみにWatson Studioでは「AutoAI」機能が、OpenScaleでは「NeuNetS(ニューネッツ)」機能が、それぞれベータ版として開発されている。これらは、AIによって最適なデータセットやアルゴリズムの選択、さらにはニューラルネットワークの構築などの処理を自動化する機能だという。
IBM Researchディレクターのダリオ・ジル氏は、こうした「AI for AI(AI活用を支援するAI)」による自動化を推し進めることで、ユーザーのスキルレベルを問わないAI活用が進み、AIの適用領域拡大につながるだろうと語った。
Power/ZプラットフォームでもWatson、BPMツールにもAI技術を組み込み
なお今回のTHINK 2019では、「IBM Power Systems」サーバーや「IBM Z」メインフレームへのICP for Dataの対応や、これまで「PowerAI Enterprise」と呼んでいた分散ディープラーニング環境のソフトウェアスタックをWatsonに統合した「Watson Machine Learning Accelerator」も発表されている。後者は従来のPowerサーバーに加えてx86サーバーによるGPUクラスタにも対応しており、端的に言えばPower/Z/x86のすべてのプラットフォームで同じようにWatsonが利用できるようになった。IBMは発表の中でこれを「One IBM AI戦略」と表現している。
また、「IBM Business Automation Intelligence with Watson」も発表された。これはBPMツールにAI技術を組み込むことでビジネスプロセスの自動化を図るものであり、トーマス氏は「ビジネスプロセス管理のあり方を大きく変えるものになる」と語った。
IBM THINK 2019では、このほかにIBM Cloudやハイブリッド/マルチクラウド戦略に関係する新発表も多数行われたほか、量子コンピューター「IBM Q」開発の最新報告、そしてIBMが考えるビジネスITの未来像を示すロメッティ氏の基調講演などが催された。こうした内容についても引き続きお伝えしていく。