まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第64回
プロデューサー 柳川あかり氏インタビュー
原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの
2019年05月11日 16時00分更新
多様性が当たり前の世界を描く
―― 宇宙が舞台、しかも宇宙人までもが登場するということで注目を集めていますね。
柳川 宇宙は星占いや夜空を見上げるロマンなどお子さんが好きなモチーフなのはもちろんなのですが、そういったいわゆるガーリーな部分だけでなく、初代プリキュア(ふたりはプリキュア)が打ち立てた「女の子だって暴れたい」といった部分もスタプリでは描いていきます。
―― 宇宙といえば科学、初代ふたりはプリキュアのほのかを思い起こします。最近でも「女の子は消防士になれないの?」という子どもからの問いかけに対して、Twitter上で世界中の女性消防士たちが写真付の投稿とメッセージを送ったことが話題となりました。
柳川 スタプリでは、前時代的には男性中心の仕事と思われがちな、「ロケットを操縦する」といったことも女の子たちがチャレンジしていくエッセンスを取り入れました。私自身も企画にあたってこだわったところで、今後いわゆるSTEM教育(科学・技術・工学・数学)によって女の子の選択肢は広がると思うので、その場としての宇宙でもあります。
そして多様性を描くことにもこだわりました。多様性といっても、言語、文化、人種、民族、国籍、ジェンダー、年齢、思想など、様々な切り口が存在します。どれか一つを取り上げるのではなく、より寓話的に物語るためには宇宙という舞台、そこにいる宇宙人も登場させることが必要だったのです。
―― 今回サポートキャラクターも「宇宙妖精」なんですね。
柳川 はい、2匹います……妖精の数え方が「匹」で良いのか迷いますが(笑) いずれにしても物語としての多様性を描く上では、宇宙人と地球人の交流を描くことは絶対でした。
その上で、メキシコにルーツを持つ天宮えれな(キュアソレイユ)を登場させています。
絵面だけみるとこの子だけが違って見えるかもしれませんが、じつは主要キャラクターの肌の色はすべて異なっているのです。「宇宙人」の羽衣ララ(キュアミルキー)は、いままでのプリキュアのなかで一番肌が白く、星奈ひかる(キュアスター)と香久矢まどか(キュアセレーネ)も似ているようですが違う色です。
―― 多様性は相当大きなテーマであるようですね。
柳川 私自身、小学校のときはアメリカにいたのですが、当時観ていたアメリカのカートゥーンって、肌の色がカラフルなんですよね。人間離れしていたりとか(笑) 翻ってプリキュアも髪の色がこんなにカラフルなら、肌の色だって色々あっていいんじゃないかと思っていたんです。
家庭環境も様々です。ひかるのお父さんはあまり家に居ません。自分の関心分野を追い求めて世界中に行っているんですね。お母さんは家にいますが、同居しているのはお父さん側の両親です。ララは出身地の惑星サマーンに家族を残しています。えれなはお父さんがメキシコ人、お母さんが日本人でお仕事は通訳。まどかはお父さんが政府高官、お母さんはピアニストといった具合に。
キャラクターごとの違いは4人の部屋にもあらわれています。豪邸に住むまどかは天蓋付のベッドのある広い部屋が与えられていますが、えれなは自分の部屋がありません。後に彼女は皆で作ったロケットの中に初めて個室を持つことになるのです。
ララの惑星サマーンでの家庭環境はじつは核家族で、ひかるは留守がちなお父さんの部屋を使っていて、UMAの資料に囲まれて生活をしています。ターゲットの子どもたちが保育園・幼稚園から小学校へと少しずつ世界を広げていくように、スタプリでも自分の部屋という最もパーソナルな空間から出発して、世界が外へと広がっていくイメージで物語を展開していきたいという思いがあって、このような設定になっています。部屋=キャラクター性を反映したアイデンティティをあらわしたものなんです。
私自身、言葉がわからないまま現地の学校に通った経験を物語に活かして多様性をテーマ据えたいという思いで企画を立てました。 監督やシリーズ構成の方と共有しているのは、「多様さが当たり前な世界を描こう」ということです。
多様なことを特別視して、問題を投げかけるのではなく、もうそれが受け入れられている世界というか、「いろいろあって当然なんだよ」という部分を出発点にしようと。お互いを尊重し合い、多様な人が共生している世界を描きたいと考えています。多様さとの向き合い方が問われる時代に、どれだけその感覚が作品を通じて伝わるか。
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