まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第64回
プロデューサー 柳川あかり氏インタビュー
原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの
2019年05月11日 16時00分更新
シリーズ初の「歌って踊る変身」は時代の変化を反映
踊ってみた動画やTikTokの隆盛でダンスは身近なものに
―― 15年ともなると、子どもを巡る環境も変化しています。
柳川 ネット、特にYouTubeの影響は大きいですね。2017年に放送された『キラキラ☆プリキュアアラモード』の頃にプリキュアシリーズのYouTubeチャンネルを開設しました。見逃し配信用ではなく、テレビを補完するものと位置づけ、プリキュアの魅力である「あこがれ」や「なりきり欲」を高める「変身バンク」やエンディングの「振り付け動画」を中心に配信しています。
―― メディアは変わったけれども、プリキュアに「なりきりたい」という根っこの部分は変わっていないとも言えますね。
柳川 仰る通りですね。わたしも『おしりたんてい』を経てプリキュアに携わるようになってから感じるのは、テレビだけでなく周辺の映画、キャラクターショー、おもちゃ・グッズなどすべてを含めてプリキュアという体験を提供しているのだなということです。
家族で一緒にどこかに行った思い出を作る、毎週テレビの前で踊るといったことも含めてのプリキュアという作品なんです。それがすべてつながるようにしたい、というのは企画チームもそうですし、宣伝チームや営業チームの皆さんとも目指していることですね。
―― そうして目指している楽しさが、よくあらわれている部分は?
柳川 今回5つのポイントを挙げさせていただいています。そのなかの1つに「歌って踊りながら変身する」というものがあります過去には浄化技の1つとして「歌って敵を浄化する」というシーンはあったのですが、変身シーンでは初めてなのです。テレビで、イベントで、YouTubeで、変身シーンがすべての体験をより強くつなげるようにと。
―― ダンスの必修化などの影響もありそうですね。
柳川 それはすごくあるでしょうね。お子さんだけでなく、親御さんにとってもダンスに対する理解は広がっていると思います。少し前なら踊ってみた動画、いまならTikTokもありますしね。踊りは特別な、尖った人だけがするものではなく、身近なものになっているかと思います。
ただやってみてわかったのは、相当大変なんですよね(笑) じつはこの要素、当初の企画段階では存在せず、バンダイさん側からご提案いただいたものです。その前に「変身はCGではなく作画で」という方針が決定していたので、作画はハイカロリーなものになりました。
―― そうなのですか!? いまのトレンドは「ダンスはCGで」だとばかり思っていました。
柳川 プリキュアでは、変身=メタモルフォーゼの魅力を表現するため、その過程やディテールにこだわって素敵に丁寧に描きます。その上にダンス要素を、いわば「振りかける」感じで追加しました。ダンス要素を打ち出すのはアニメ本編ではなく、プロモーションで補足するという位置づけにしました。したがってYouTubeで配信中のダンスレッスン用の動画はCGで作っています。
しかし、そこに「歌も」となったので大変でした(笑) 口パクも合わせないといけないし、振りも実際に踊っている方の動画を参考にしなければだし……。そして、先ほどお話ししたようにプリキュアはアニメだけでは完結しません。様々なところで使用するための著作権の処理――特に音楽周りが必要です。プロデューサーとしては、ここまで音楽に絡めた企画は初めてだったのでわからないことも多く、試行錯誤しながら実現しました。
『スター☆トゥインクルプリキュア』らしさが見える5つのポイント
1. 史上初の宇宙人プリキュア!
2. 過去最高のキラキラ画面!
3. 地球を飛び出し宇宙で冒険!
4. 歌って踊って衣装を描いて変身!
5. 懐かしさのある80'sテイスト!
―― ほか4つのポイントも意外なものばかりですね。
柳川 「80年代の懐かしさ」と「史上最高のキラキラ感」というのは人によっては矛盾していると思われるかもしれませんが(笑)
―― たしかに1980年代といっても、色々な面がありますね。とはいえ、今「あの時代」の魅力が再評価されていることも間違いありません。
柳川 スタプリで表現しようとしているのは、作品の舞台でもある宇宙空間に星が瞬くようなキラキラ感です。それは親御さんたちが目にしたかつてのディスコブームなどの懐かしさにも通じるものがあるかなと。また、ロゴ、美術やキャラクターの色彩設定も「ファンシー雑貨」を彷彿とさせるものになっています。
―― そういう面では「大きなお友だち」もどこか懐かしさを感じながら楽しめそうですね(笑)
柳川 いまあの時代に注目が集まっていますし、ファミリーで楽しんでいただいたときに、親世代は懐かしく感じ、子供たちには新鮮に映るように、幅広い世代の方に子どもと一緒に楽しんでもらう仕掛けとしてプリキュアに取り入れてみたらどうなるだろうか、というチャレンジでもあります。
この連載の記事
-
第108回
ビジネス
『陰実』のDiscordが熱い理由は、公式ではなく「公認」だから!? -
第107回
ビジネス
『陰の実力者になりたくて!』の公認Discordはファンコミュニティー作りの最前線だ -
第106回
ビジネス
ボカロには初音ミク、VTuberにはキズナアイがいた。では生成AIには誰がいる? -
第105回
ビジネス
AI生成アニメに挑戦する名古屋発「AIアニメプロジェクト」とは? -
第104回
ビジネス
日本アニメの輸出産業化には“品質の向上よりも安定”が必要だ -
第103回
ビジネス
『第七王子』のEDクレジットを見ると、なぜ日本アニメの未来がわかるのか -
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? - この連載の一覧へ