サイボウズは2018年12月3日~4日の2日間にわたり、大阪市のグランフロント大阪で「Cybozu Days 大阪 2018」を開催した。9月の福岡を皮切りに、10月の松山、11月の東京と巡回開催してきた同社最大の年次イベント「Cybozu Days 2018」は、今回の大阪でフィナーレを迎える。
4日のDay2基調講演では、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏が、今年のCybozu Daysのテーマである「楽しいは正義」を軸に、“これからの働き方はどうあるべきなのか”について2人のゲスト登壇者とトークディスカッションした。
「転職カード」を武器に幸せに働く
1人目のゲストは、『転職の思考法』(ダイヤモンド社/2018年)の著者・北野唯我氏。同書は、初めて転職を考え始めたビジネスパーソンが抱える不安や疑問を、30歳会社員の「青野君」を主人公としたストーリー形式で解決していくもの。なかなか売れないと言われる転職本ジャンルで異例のベストセラーになっている。
青野氏:『転職の思考法』、大ヒットしていますね。私も読みました。
北野氏:この本は、転職をしましょうと勧めているわけではありません。「いつでも転職できる」カードを持つことで、個人も会社も幸せになる、ということを書いています。これが今の時代にフィットして、たくさん読んでいただけているのだと思います。
青野氏:人材不足のご時世で、社員が辞める覚悟で何か提案をしてきたら、何なら仲間誘って辞めますなんてカードを切られたら、経営者は真剣になりますよ。
北野氏:転職カードを内ポケットに入れて仕事をすることが個人側の武器になります。これはある人の実際の体験談なのですが、仕事が面白くなくて耐えられず、ついに退職届を書いたら、その翌日から仕事が面白くなったそうです。辞める覚悟があるから言いたいことが言えるようになった、それによって仕事が好転したのですね。
青野氏:会社での立場を守るために言うべきことがいえない、思い切ったことができないというのは、会社にとってもよいことではありません。
北野氏:サイボウズさんは、「あなたが転職したらいくら?」という転職市場価値で社員の給与を決めているそうですね。これは私が本に書いたことと共通しますし、今の時代に合った制度だと思います。でも、青野さんに本気でお聞きしたいのは、なぜこういう制度が作れるのでしょうか? 日本の大手企業、外資系企業、ベンチャーを経験している私から見ても不思議です。サイボウズだからできた、言い換えるとサイボウズにしかできないのではないでしょうか?
青野氏:サイボウズでは、この給与制度を含めて、様々な働き方改革に取り組んでいます。これができるのは、ちゃんと成長市場にいるからです。かつては長時間残業当たり前、毎週送別の花束が用意されるほど離職率の高いブラック企業だったサイボウズが働き方改革に乗り出したのと並行して、事業の方はパッケージビジネスからクラウドビジネスにシフトしました。成長できる事業戦略があってこそ、働き方改革ができるのです。
青野氏:ところで、『転職の思考法』は“青野君”を主人公にしたドラマ仕立てで書かれています。なぜドラマ仕立てにしたのですか?
北野氏:主人公の名前が偶然にも“青野君”ですが、この本の青野君は、青野社長のように仕事ができる人ではありません(笑)。この本をドラマ仕立てで書いた理由ですが、転職の意思決定はロジックだけではないからです。転職をしたいと思っても、社内にお世話になった人がいたり、苦労して入社した今の会社への未練があったりと、人の感情に寄り添わないと転職は語れない。転職に際する主人公の心理変化を書くために、ストーリー形式にしました。
青野氏:確かに。転職には葛藤が伴いますし、うまくいくのかわからなくて怖いのが転職ですからね。
北野氏:なぜ転職が怖いのか。それは転職したことがないからです。なので、主人公の青野君の物語を通じて読者に転職を追体験してほしかった。多くの人が転職への不安を払拭し、「いつでも転職できる」という思考で幸せに仕事をしてほしいと願っています。
クラウドがあれば福岡の企業が東北に雇用を創出できる
2人目のゲストには、株式会社お掃除でつくるやさしい未来 代表の前田雅史氏を迎えた。お掃除でつくるやさしい未来は、福岡県春日市に本社を置き、マンション共用部の清掃、店舗クリーニングなどを手掛ける清掃会社だ。同社が特徴的なのは、従業員75人のうち女性比率94%、お母さん比率が92%に上る点と、九州地域だけでなく関西、東北にも清掃契約のある建物を持つことだ。従業員は、清掃契約のある地域で雇用し、直行直帰で清掃業務を行っている。「私たちは、お掃除を通して『新しい働き方』を創出したいと思っています。この経営理念に共感してくる方が、九州だけでなく兵庫や大阪、東北の宮城にもいて、関西・東北営業拠点がないにも関わらず私たちに清掃を依頼してくれます」と前田氏は説明する。
遠隔地に散らばる従業員、取引先とつながるために、同社はサイボウズのkintoneを使っている。「直行直帰のスタッフを管理するためではなく、スタッフが仲間とつながるためにkintoneを導入しました。お掃除の質と心の状況はリンクします。遠隔地にいても孤独にならないためのクラウドです」(前田氏)。また、清掃契約のある顧客にもkintone上のコミュニケーションに参加してもらうことで、清掃のお礼を言われたり、“お掃除のおばちゃん”などと呼ばれることなくちゃんと名前を覚えてもらって会話するようになったりと、スタッフのモチベーションアップにつながっているという。
子育て中の母親を中心に雇用している同社は、「2時間だけの勤務」や「子連れでの清掃」なども認めている。同社契約先のマンションでは、母親の清掃業務についてきた幼児が掃除をお手伝いするかわいらしい光景がしばしば見られ、それを見た別のマンション管理会社やオーナーが同社に関心を持つといったケースもあるという。「営業所もなく、東北に営業に出向いているわけでもないのに、宮城県の仙台市では70棟ものマンション清掃を依頼されています」(前田氏)。
今では全国に取引先がある同社も、かつては本社のある福岡県での清掃案件が中心だった。ある時、隣町のマンション清掃を受注したのを機に、「50キロメートル先でできることが100キロメートル先、1000キロメートル先でできない理由がない」(前田氏)と、遠方からの依頼を受けることになった。クラウドがあれば、従業員、取引先との距離は関係ない。「クラウドがあることで、福岡の田舎の企業が、関西、東北にも雇用を創出できました」(前田氏)。